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DIY女子の聖地・二子玉川、
新店が続々開業

DIY女子の聖地・二子玉川、新店が続々開業

 高級住宅街として知られる東京都世田谷区の二子玉川駅周辺に、女性向けの体験型DIY(日曜大工)専門店が相次ぎ登場している。おしゃれな雑貨店のような店内には作業用のレンタルスペースが設けられ、のこぎりや電動工具を無料で貸し出している。DIYの専門家が道具の使い方から"プロの技"まで教えてくれるワークショップもあり、初心者の女性でも身一つで手軽に楽しめるのが売りだ。数年前から、日曜大工を楽しむ「DIY女子」と呼ばれる女性が注目されているが、二子玉川がその聖地になりつつある。

工具の一つひとつにこだわり

 園芸資材メーカーのプロトリーフ(東京・港)が3月に玉川高島屋S・Cガーデンアイランド(東京・世田谷)に開いた「tukuriba(ツクリバ)」。内外装に木材をふんだんに使った約330平方メートルの店内の一角に、一度に10人が利用できるワークスペースがある。利用料金は1時間1080円から。大きな作業台が置かれ、壁には無料で借りられる電動ドリルやのこぎり、アルミ製の定規や水平器などがインテリア雑貨のようにディスプレーされている。普段工具になれていない女性のために握りやすいのこぎりをメーカーと共同開発するなど、工具の一つひとつにもこだわった。

 ツクリバでは背もたれのない丸椅子や木箱を作るための材料が一式入った製作キットも販売しており、専門知識がなくても来店すれば何かしら作ることができる。ほかに、壁や棚に取り付けるフックや壁紙の上から塗る塗料といったリフォーム用品も販売している。場所や道具が借りられるだけでなく、自宅だと騒音や木くずなどの飛び散りが気になるが、そうした心配も一切いらないのも利点だ。

女性がターゲットの「tukuriba(ツクリバ)」。内装は木を基調にした(東京都世田谷区)

 ツクリバをこれまでに5~6回利用したという川崎市の主婦、中川理沙さん(仮名、41)は、あえて古びて見えるように塗装を仕上げる技術「エイジング」のワークショップに参加した。「これまではインターネットで調べるなど自己流で試行錯誤しながらDIYをやっていた。店に常駐する専門家にやり方を聞いて指導してもらえるのは勉強になる」とツクリバの魅力を話す。

 中川さんはキッチンのシンク下の収納を、扉式から引き出し式に自力で作り替えるなど、もともとDIYが趣味だった。「売り物の雑貨や家具も気にいれば買うけれど、月日がたつうちに飽きたり、壊れたりするのでDIYしたくなっちゃうんですよね」(中川さん)。フェイスブックなどで完成品を友達と見せ合って出来栄えを褒めてもらえると「うれしいしやる気がでる」として、子供を夫に預けられる土日にDIYを楽しんでいる。

 プロトリーフはツクリバを開業する前、同じ施設内の1~2階を使って園芸品店を営んでいた。今春のリニューアルに向け、「ニコタマダム」と呼ばれる主婦が集まる二子玉川の立地を生かせないかと検討し、たどり着いたのがDIYだった。佐藤崇嗣社長によると、家にいる時間が長い女性は男性よりも住空間へのこだわりが強い傾向があるといい、「男性の『日曜大工』から女性による『主婦DIY』の流れを作りたい」と話す。

 もう1店舗、ほぼ同時期に二子玉川に登場したのが、DIY工具のインターネット通販会社、大都(大阪市)の「DIY FACTORY FUTAKOTAMAGAWA」だ。4月24日、大型商業施設の二子玉川ライズ・ショッピングセンターに店舗を開いた。

大都も4月に二子玉川に出店した(東京都世田谷区の「DIY FACTORY FUTAKOTAMAGAWA」)

 店舗面積は約150平方メートルとツクリバより一回り小さいが、工具などDIYグッズを販売するほか、こちらも作業スペースを1時間1000円から利用できる。もとが金物工具の総合商社ということもあり、国内外のメーカーの工具を扱うなど豊富な品ぞろえが強み。また、「DIYツールドットコム」という通販サイトを通じて、店に在庫のないものや重いものをネットで購入できる。週末や祝日は日に数回ワークショップを開いており、金属製ネームプレートの溶接やスパイスラックの木工、親子向けのけん玉作りなど多彩なメニューを提供する。

 同社は昨年春に大阪市に1号店を開業しており、二子玉川は2店舗目。小さな子供のいる若い夫婦が多いことに着目して二子玉川への出店を決めた。「特に女性の間で自分らしい暮らしを手に入れるために自分で作ってみようという人が増えている」と広報担当の数田知香さん。二子玉川の店舗は開業から1週間で想定を大きく上回る3万5000人が来店するなど、手応えを感じている。「消費する生活から、つくり出す、つくり変える生活を定着させたい」と今後の展開に期待する。

背景に住宅流通の構造変化

 実は二子玉川以外にも同様の業態が広がっている。カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する商業施設「湘南T‐SITE」(神奈川県藤沢市)にも、デジタルファブリケーション協会(東京・渋谷)が「Fab Space(ファブスペース)」と呼ぶものづくりスペースを開設した。こちらは家具というよりもスタンプや写真立てなどの雑貨・小物が中心。とはいえ、有償で提供している工具はレーザーカッターや3Dプリンターなど本格的だ。湘南という場所柄、やはり自分らしい暮らしにこだわる女性や若年層がターゲットだ。

 女性の間でDIY熱が高まっている理由は何か。プロトリーフの佐藤社長が一因として挙げるのは、住宅流通の構造変化だ。これまで住宅購入といえばほとんど新築だったが、若い世代を中心に割安な中古住宅を購入してリノベーション(大規模改修)をする例が増えてきた。こだわりの空間を実現するため、自ら壁を塗り、イメージに合うインテリアを作り出す――そのためにはDIYの知識や技術の習得が必須だ。

 空き家の増加も背景にある。国土交通省によると、国内の住宅総数に占める空き家の割合は2013年10月時点で13.5%に上った。人口減少が進む地方を中心に増えており、戸数は過去最多の820万戸となった。こうした状況もあって、都市再生機構(UR)の団地をはじめとする物件で退去時に原状回復の義務を負わない「DIY可」の賃貸物件も登場している。従来、賃貸ではせいぜいカーテンや敷物を替えるぐらいしか内装を工夫できなかったが、壁紙や床、取っ手やフックなど、好きなように手をかけられる。実際、築年数を重ねた物件ではDIY可にすると入居者が集まりやすくなるという。

 さらにはフェイスブックなどのSNS(交流サイト)が女性のDIY熱をあおっているとの見方もある。ネットベンチャーのトンネル(東京・文京)が運営するサイト「RoomClip(ルームクリップ)」は、会員が自分の部屋やインテリアの写真を投稿して楽しむSNSで、現在の投稿写真数は70万枚、ページビューは月間9500万に上る。家や部屋は、自分や家族が居心地よく住む空間というだけでなく、SNSに写真を投稿して他人に自慢する対象になっている。

 本来であれば、こうしたDIYの需要はホームセンターが受け皿になるところ。ただ、店舗がクルマでなければ行けない郊外にあり、品ぞろえが本格的で実用一辺倒な点が女性にとっての取っ付きにくさになっているとの声がある。対する二子玉川の体験型DIYは、二子玉川の街のブランド力に加え店舗自体がおしゃれなライフスタイルを具現化、女性にとってのDIYをワンランク格上げした。

 プロトリーフの「ツクリバ」は、今は二子玉川の1店舗のみだが、各地の商業施設から出店要請が相次いでおり、2号店も検討しているという。「掃除や洗濯のように、DIYをすることが日常の一部になるまでに普及させたい」と佐藤社長。レジャー白書によると余暇にDIYを楽しむ女性はここ数年、5%前後で推移している。二子玉川の"聖地化"を契機にその裾野が大きく広がるか、業界も注目している。
(企業報道部 若杉朋子)[日経電子版2015年5月16日付]

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