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3人で開発
半年で12億円稼いだスマホゲーム

3人で開発半年で12億円稼いだスマホゲーム

 3人の少人数で開発し、半年で1000万ドル(約12億円)以上を稼ぎ出したスマートフォン(スマホ)ゲームがある。オーストラリアの独立系ゲーム会社が2014年11月に出したアクションゲーム「クロッシーロード」だ。スマホゲームは大手企業が高額の開発費を投じて競い合う世界になりつつあるが、予想外の大ヒットが生まれる余地もまだ残っている。

次から次に障害物を避ける単純なゲーム

 クロッシーロードは指(タップ)でキャラクターを操り、障害物を避けながらどこまで進めるか競う極めて単純なゲーム。障害物はランダムに次々と現れる。自動車や電車を避け、川では流れる丸太をうまくつたっていかなければならない。キャラクターなどの画像は四角形で描いてあり、ポップでかわいらしい印象だ。

 開発したのは、14年設立のヒップスターホエール(メルボルン)という独立系のゲーム会社だ。オーストラリアで開かれたゲーム開発者向けイベントで出会った3人が、一緒に開発しようとチームを組んだ。20年近いキャリアのベテラン開発者マット・ホール氏、大学生ながらミニゲームを数多く開発した経験を持つアンディ・サム氏、スマホ向けゲームのグラフィックスを製作してきたベン・ウェザール氏だ。

「クロッシーロード」のスクリーンショット(アップストアより)

 ゲームは6週間という短期間で開発した。まず14年11月にiPhone版を、15年1月にはアンドロイド版を出した。

 スマホゲームがヒットするには、配信開始直後に注目されるかどうかが大きなカギを握る。クロッシーロードが幸運だったのは、iPhone版を出した際、アップストアの「おすすめ」に選ばれたことだ。加えて、スウェーデン人の人気コメディアン「ピューディパイ」が約3700万人の登録者を持つユーチューブの自分のチャンネルで紹介したことも、人気に拍車をかけた。

 この結果、最初の90日間でダウンロード数の合計は5000万に達し、無料ゲームダウンロード数ランキングで39カ国でトップになった。その後、半年間でダウンロード数は9000万まで膨らんだ。ランキングも米国では30位前後につけており、人気が続いている。

 たまたま当たったようにも見えるが、単なる偶然ではない。3月の米サンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議(GDC)で、ヒップスターホエールのチームが講演。ホール氏が、最近のスマホゲームのヒットを研究し尽くした上で投入したことを明らかにしている。

過去のヒットゲームから3つの要素を研究

 研究対象としたのは、1年半ほど前に世界的に大人気になった「フラッピーバード」と呼ぶゲーム。ベトナムのドン・グエン氏が一人で開発し、13年に配信を始めた。

クロッシーロードを開発した3人。左からウェザール氏、サム氏、ホール氏(公式サイトより)

 このゲームは土管に当たらないように上下に鳥を飛ばし続けることを競う内容。操作が難しいが、テンポがよく、ついつい繰り返し挑戦したくなってしまう。13年末にゲームメディアがこの特徴を取り上げ、人気に火が付いた。14年に入ると累計ダウンロード数は5000万以上に達し、ピーク時にはゲーム内に表示するバナー広告だけで1日5万ドル以上稼いでいたという。ただ、世界中でブームになることを想定していなかったグエン氏は、この状況におじけづき、14年2月に公開を中止してしまった。

 ヒップスターホエールは、フラッピーバードからスマホゲームをヒットさせるための3つの要素を抜き出した。この3要素に沿って戦略を考え、新ゲームの開発に挑んだという。

「フラッピーバード」のスクリーンショット

 第1に「何度も遊ばせるにはどうすればよいか」、第2に「ソーシャルネットワークなどにゲームの結果を積極的に共有したくなる要素をどうすれば作れるか」、第3に「ゲームにより深くはまりたくなるようにするにはどうすればいいか」。

 これらの要素を実現するための大きな条件が、いらいらせずに遊ぶことができる「ストレスフリー」だ。実際、クロッシーロードを操作すると、ストレスを感じないように丁寧に作ってあることがわかる。画面を軽くタップするだけで、ゲームが進む。キャラクターが失敗しても、すぐに最初から繰り返せる。とにかくテンポがよい。

 キャラクターを動かすために、繰り返し動かす「指の感触」の気持ちよさが、このゲームの中毒性を高めている。短期間で開発されたとはいえ、ノウハウに裏打ちされゲームの完成度が高かったことが、一時的な人気で終わっていない理由だろう。

動画広告を見るとゲーム内で使えるコイン提供

 さらに興味深いのが、大手ゲーム会社などが手掛けるスマホゲームと稼ぎ方が異なる点だ。

「クロッシーロード」でガチャを通じて手に入れられるキャラクター(アップストアより)

 一般的なスマホゲームでは、強制的な待ち時間を解消するためにお金を払う「コンティニュー課金」や、一定時間キャラクターを強くする「パワーアップ課金」といった仕組みが組み込んであることが多い。ところが、クロッシーロードは売り上げの大半をゲーム内の広告動画で得ている。

 また、アイテム課金のない無料ゲームはバナー広告で収益を得ることが多いが、このゲームはそれも入っていない。バナー広告はゲーム中、ずっと表示され、プレーヤーにとっては邪魔な存在だ。

 その代わりに用意したのが、動画広告。といっても、単に動画を流すのではない。15秒間の広告動画を見るとゲーム内のコインを20枚得られる仕組みにした。ゲーム中も道に落ちているコインを拾うことができるが、広告を見た方が多くコインを得ることができる。広告を強制的に見せるのではなく、見ることでご褒美を与える仕組みにしたのだ。

 コインは100枚たまると、「ガチャ」で新しいキャラクターをランダムで手に入れることができる。新しいキャラクターになっても、ゲーム内の能力がアップするわけではなく、見た目が変わるだけだ。それでも50種類以上のキャラクターを集めようとするユーザーが多く、ゲームをし続ける強い動機になっている。ガチャは欧米圏ではあまり人気がない仕組みだが、無料であれば受け入れるようだ。

ゲーム開発者会議で講演するマット・ホール氏(GDCの公開動画より)

 ホール氏は講演で「目標はお金を稼ぐことにおかず、有名になるゲームをつくることに置いた」と発言、ストレスなく繰り返し遊べることに力点を置いていたことを強調している。

 広告動画の配信は、広告会社が作ったプログラムを採用。ゲームアプリに組み込んであり、自動でさまざまな動画が流れる。1回の再生で2~3セントの売り上げがアプリ開発者に渡る。クロッシーロードの場合、ユーザー数が多い上に、動画広告を見る頻度も高く、大きな売り上げにつながっている。

「パックマン」のスマホ向け新作を開発

 クロッシーロードの成功で、似たゲームや関連ソフトが次々に登場している。中には、クロッシーロードとそっくりのゲームを30分で開発できるとうたう45ドルの開発ツールまで登場している。

開発中の新作「バックマン256」(ユーチューブの予告編動画より)

 5月22日、ヒップスターホエールはバンダイナムコと組み、「パックマン」のスマホ向けの新作を開発していることを明らかにした。ついこの間まで無名だった企業が、世界的に有名なゲームの開発を担うまでになったのだ。6月1日には、オーストラリアのベンチャーキャピタルの資金提供を受け、新しいゲーム会社を設立することも発表している。

 スマホゲームは米国だけで月に3000本以上の新作が登場する過当競争の時代に突入している。一時に比べるとヒットしにくくなったが、まだ歴史は浅い。スマホの普及台数もゲーム機に比べるとはるかに多いだけに、大手ゲーム会社の間隙を縫ってちょっとした成功を収めることは十分できそうだ。

新 清士(しん・きよし) 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師、立命館大学映像学部非常勤講師も務める。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」、「『侍』はこうして作られた」がある。

[日経電子版2015年6月12日付]

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