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新作が売れない
スマホゲーム市場に成熟化の暗雲

新作が売れないスマホゲーム市場に成熟化の暗雲

 日本のスマートフォン(スマホ)ゲーム市場は今年も大きな成長が続いている。ところが、売り上げ規模は増えているものの、アプリのダウンロード数はここにきて頭打ちになっており、ゲーム会社が新作タイトルに積極投資しても成功しにくくなってきた。新しいゲームを出さなければ、ユーザーに飽きられかねない。早くも成熟化の兆しが見えてきたスマホゲーム業界の課題を探った。

1~3月の販売額、前年の1.5倍

 まず、スマホゲーム市場の急成長ぶりを見てみよう。米国のスマホアプリ調査会社、アップアニーから独自にデータを入手した。

 日本のスマホゲームの2015年1~3月期の売上高は、アップルの「アップストア」では前年同期比50%増となった。グーグルの「グーグルプレイ」でも同様で、日本のスマホゲーム市場は順調に拡大している。

 また、日本のユーザーがスマホゲームをしている延べ時間は米国の4倍で、世界でも突出して長い。スマホアプリ全体に占めるゲームの売上高は日本ではアップストア、グーグルプレイとも90%と高く、米国の80%を上回る。ゲームがスマホアプリを大きく引っ張る現状が浮かび上がる。

スマホゲーム市場は急拡大が続いているが……(画面は「パズル&ドラゴンズ」)

 しかし、喜んでばかりもいられない。ゲームアプリのダウンロード数が、横ばいないしは減少しているのだ。15年1~3月のダウンロード数はアップストアでは前年同期比20%減、グーグルプレイでは前年同期と同じだった。

 これは何を意味するのか。日本のスマホゲーム市場は、ユーザーが新作を次々に楽しむ時期を過ぎ、特定のゲームだけを集中して遊ぶようになってきたようだ。

日本でのスマホゲーム販売額の変化(収益額は販売額のこと、14年1~3月と15年1~3月を比較、アップストアの14年1~3月=100とした指数、アップアニー提供)

 実際、販売ランキングの上位に新作ゲームが入りにくくなっている。「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)、「モンスターストライク(モンスト)」(ミクシィ)、「ディズニーツムツム」(LINE)、「白猫プロジェクト」(コロプラ)といった定番タイトルが10位内を占める状態が続いている。

 毎日更新されるランキングは半年あまり、大きな変化がない。リリース時期がパズドラは12年2月、モンストは13年8月、ツムツムは14年1月と、1年から数年も経過しているゲームも少なくない。

スマホゲームユーザーの月あたりのプレー時間(米国=100とした指数、アップアニー「2014年第1四半期アプリ利用状況レポート」より)

日本でのゲームアプリのダウンロード数の変化(14年1~3月と15年1~3月を比較、アップストアの14年1~3月=100とした指数、アップアニー提供)


力を入れた新作タイトルもヒットしない

「サモンズボード」の紹介画像(アップルストアより)

 こうした状況は企業決算からも読み取れる。

 例えば、ガンホーの15年1~3月期決算は、売上高が前年同期比11%減の446億円、営業利益が同18%減の236億円になった。同社は決算発表会でパズドラが4年目に入っても好調であることをアピールしたが、決算数字は伸び悩んでいることを示している。第2のパズドラを生み出すのに苦戦していることが大きな原因だ。新しいタイトルを出しているものの、なかなかヒットしない。

 中でも昨年投入した新作の不振が目立つ。昨年2月に出したボードゲーム「サモンズボード」は150~200位前後で、昨年9月に出した戦略ゲーム「三国テンカトリガー」は200位以下というありさまだ。

 大ヒット作を出している企業でも、ユーザーは企業名だけでは新作に飛びついてはくれない。後発企業になれば、なおさらだ。大量の開発費や広告宣伝費をかけても、ヒットが保証されているわけでない。

 具体例の一つが、3月に登場したモブキャストの音楽パズルゲーム「18(エイティーン)キミトツナガルパズル」だ。携帯電話向けアプリに力を入れ、スマホゲームへの進出が遅れていた同社が満を持して出したゲームだ。

 ウェブサイトを中心に積極的にマーケティング活動を展開。ダウンロード数ランキングで3月4日に4位になり、累計ダウンロード数が3月末で74万に達するなど、滑り出しは悪くはなかった。

「18キミトツナガルパズル」の紹介画像(アップストアより)。ダイバーと呼ばれるキャラクターをガチャを通じて手に入れてゲームを進める

 しかし、この数字はあくまで無料で提供されているダウンロードの順位だ(アプリ本体は無料)。ゲーム内課金などを集計した売り上げベースで順位を出すと大きく変わる。売り上げランキングでは3月19日に110位に入ったのが最高で、その後は200位以下が続いている。4月30日に大型のアップデートを行ったが、効果はほとんど出ていない。

 新作タイトルがなぜ、なかなかヒットしなくなったのか。「18キミトツナガルパズル」の場合、グラフィックスなどは斬新だが、パズドラなどの既存タイトルとゲーム体験が似ており、ユーザーが飽きるのが早いためだと思われる。

 ここでゲーム体験とは、ユーザーがお金を払う仕組みのことを指す。他のゲームと同様、アプリ本体は無料で、仮想のキャラクターを手に入れる「ガチャ」にお金を払う。日本のゲーム業界はまだ、ガチャ以外にユーザーが積極的にお金を払いたいと思う仕組みを生み出せていない。遊び方に多少の違いがあっても、この部分が変わらないと、似た印象のゲームになってしまう。

 また、ユーザーは長く遊んだ既存のゲーム内に、お金を払って買った仮想アイテムやキャラクターなど多くの資産を持っている。よほど新規性がないと、新しいゲームで継続的に遊ぼうとは思わない。

上位に入っても資金回収には7カ月かかる

 開発費の高騰も追い打ちをかける。2年前には5000万円だったが、最近は1億円を超えるのが当たり前となった。3Dグラフィックスを使うゲームでは3億~5億円も珍しくなくなりつつある。新作を出しても、資金を回収するのが難しくなっている。

 スマホゲームは単価が安く、100位内に入ってもそんなに大きな売り上げにはならない。業界の推計では、アップルストアとグーグルプレイの合計で、ランキング30位では月3億円、100位では同1億円になるという。ただ、中堅以下の企業であれば、100位内に入れば、何とかビジネスとして成立する。月に100億円以上の売り上げを稼ぐパズドラやモンストは、数少ない例外といえる。

上位に定番アプリが目立つアップストアの売り上げランキング(5月27日)

 最近会ったあるゲーム会社の役員が、新作ゲームを投入するリスクを打ち明けてくれた。

 「仮に4億円かけてゲームを開発した場合、リリース月に30位以内を狙って月3億円の売り上げを達成しても、実際にゲーム会社に入る利益はそれほど多くない」と話す。

 テレビCMなどの広告を積極的に打てば、億円単位の費用はすぐかかる。アップルやグーグルに30%の手数料を取られ、3億円の販売額があっても実際にゲーム会社に入るのは2億1000万円になる。数十万人が利用することを前提とすると、サーバーの運用コストやサポート・拡張の人件費を合わせると、月に1億5000万円はかかるという。

 「ゲーム会社の利益は月に6000万円ということになり、開発費を回収できるまで最短で7カ月はかかる計算になる。1~2カ月で簡単に回収できる時期は終わりつつある」

 ゲームシステムが斬新であればあるほどリスクも大きい。資金回収を確実にするため、各社がリスクを避ける行動を取ると、自然と似たゲームばかりになってしまう。

 同役員は「市場が成長しているからといって、新作に投資するのが難しくなってきた。斬新なゲームが登場しなくなると、日本のスマホゲームはユーザーに飽きられ始めるのでは」と危惧する。

 こうした構図はかつて家庭用ゲーム機にもみられた。開発費の高騰とマンネリ化による業界全体の頭打ちだ。

 音楽業界にもあった。1990年代後半から2000年にかけてミリオンセラーが相次いだ時期があったが、その後、急激に市場全体がしぼんでしまった。インターネットが普及した影響もあるが、一部に人気が集中した結果、制作費や宣伝費の高騰とマンネリ化を招き、ユーザー層が広がらなかったことも大きいと思われる。

 スマホゲーム市場はまだ、成長の限界にぶつかっているわけではないが、家庭用ゲーム機に比べると動きは速い。家庭用では5~10年かかった現象が、スマホでは短期間で起きようとしている。今のうちに手を打たないと、意外と早く本格的な成熟期を迎えるかもしれない。

新 清士(しん・きよし) 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師、立命館大学映像学部非常勤講師も務める。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」、「『侍』はこうして作られた」がある。

[日経電子版2015年5月29日付]

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