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[ liberal arts-大学生の常識 ]

“ビリギャル”&“ビリママ”
信じる心と家族の再生語る

“ビリギャル”&“ビリママ”信じる心と家族の再生語る

 「ビリギャルブーム」が続いている。『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著、KADOKAWA刊)は発行部数が111万部に達し、映画『ビリギャル』(5月1日公開)の観客動員は200万人を突破した。"ビリギャル"のモデル、小林さやかさんが慶応義塾大学に現役合格できたのは母、橘こころさんの確固たる信念と支えがあったからだ。"ビリママ"の子育てと教育について、2人に話を聞いた。

 さやかさんは父と反発し、有名進学校では度々問題を起こして先生から「人間のクズだ」と言われた。「聖徳太子」を「せいとくたこ」と読むなど小4レベルの学力しかなかったが、高校2年の夏、『ビリギャル』の著者で塾経営者の坪田氏と出会い一念発起、慶応への進学を目指す。心理学を駆使した独特な指導を受け猛勉強する姿は父ら周囲の視線を変え、母や友人に支えられながら慶大に現役合格する。『ビリギャル』のあらすじだ。

どんなときも娘の味方だった母

 こころさんは、娘は頑張っただけでなく、幸せでもあったと考えている。「失敗が多く、ひどい状況だった家族が幸せになれたという話にみなさんが共感し、勇気や夢を持ってもらえたならうれしい」と話す。

「ビリギャル」の小林さやかさん(左)と母親の橘こころさん(東京都千代田区)

 はた目から見ても家族はばらばらだった。さやかさんは非行に走り、喫煙が見つかって無期停学になったこともある。それでも母は娘をかばい続けた。なぜだろう。こころさんは「生い立ちが影響している」と話す。

 親族の中に美貌や学歴などを持ちながら、思いやりに欠けていたため転落した人がいた。こころさんは「心のあり方が間違っていれば不幸になりうる」と思い知った。子どもを幸せにするために育児書を読みあさり、「厳しくしつけをして失敗したこともあった」と振り返る。

 「子どもの善意だけ見つめたら、気持ちが楽になった」という。親は子どもの幸せを願いつつ、見えや世間体を優先することもある。こころさんは「子ども自身が幸せを追い求める力が大事。大人の都合に巻き込まれぬよう、常に味方でいなければならなかった」。

 周囲からは「過保護」ととらえられかねない気もするが、自身の育児と「過保護」は全く別物だと言い切る。

 「子どもが困難に直面したときに親が答えを示せば、子どもは考えず同じことを繰り返す。選択肢を出すから自分で決めなさい、私は受け入れるだけという姿勢だった。私の育児は子どもたちにとって厳しかったはず。子どもはやりたいことがあっても時間がかかり、親は手を差し伸べてしまう。自分で歩ませるのが本当の『育児』では」

夫婦の不和から和解へ

「ビリギャル」の母親の橘こころさん(東京都千代田区)

 今でこそ二人三脚のこころさん夫婦だが、かつては冷え切っていた。さやかさんの生後まもなく起業した夫は忙しく、さやかさんと妹に関心を示さなかった。長男をプロ野球選手にする夢を追い、溺愛しながらも厳しく指導する。こころさんは夫の教育方針に反発していた。

 その後、夫はさやかさんが受験勉強に取り組む姿を見て徐々に変わり始めた。長男が野球を諦めて非行に走りかけたとき、夫婦はようやく手を取り合った。こころさんは「子どもたちの心の傷を埋めるのを主人も一緒に取り組んでくれて、初めて信頼や絆が深まった」。

 こころさんが、娘夫婦や世の中の若い夫婦に伝えたい言葉とは何だろう。

 「うまくいかないときは周りのアドバイスを受け入れられない。つらくなったら一度立ち止まり、何が自分や家族にとって大事なのか考えてみるといい。自分の行動を一度リセットする。親子でも夫婦でも目の前のことをすぐに理解できず苦しいけれど、信じれば楽になる」

娘が受け継ぐ母の「ぶれない心」

 こころさんは常にさやかさんがワクワクするような選択肢を示し、選んだ道は全力でサポートした。慶応進学を志してもぶれなかった。勉強で寝る時間がなければ、授業中に寝させてあげてほしいと学校に頼み込む。塾代を夫が出してくれなければ、結婚指輪を売ってでも資金を捻出した。

 さやかさんは「周囲の目を気にしないのが母のすごいところ。(授業中に寝させてなどと)とんでもないことを平気で言えるのは、子どもだけを考えて行動するから。普通ならママ友や先生にどう思われるかを考えてしまう」。

 「見習いたいけど無理かな」と笑うさやかさん。でも、母の考え方をしっかり受け継いでいるようだ。慶大を4年で無事卒業し、ウエディングプランナーになった。就職活動のとき、何をやれば楽しく、幸せかを繰り返し考えた。「周りに流されずワクワクすることを追えば、いい仕事ができる」と、人と関われるサービス業を選んだ。

 働く上でも母の教えが生きている部分があるという。さやかさんは「性格が男っぽい」。男性の部下を厳しく叱ったら伸びなかったが、女性の部下を過剰なほど褒めたら成長を遂げた。「長所を褒め、努力を理解していると口に出して示すことが大切」と話す。

人を「信じる心」

 さやかさんは昨年、26歳で結婚した。幼少期に険悪な仲の両親を見て結婚への不安を呼ばなかったのだろうか。「夫婦仲のいいのが子どもにとって一番なのは間違いない。ただ、仲が悪いときがあっても仲直りできる。だから夫とけんかしてもお互いに成長していけばいいと思える」

 夫婦でも親子でも相手を信じることが重要だと話すこころさん。「たまたま話している相手と意に沿わなくても、何かの縁と思えたら楽に生きられるようになる」と信じることの極意を語る。

 紆余(うよ)曲折を経て幸せに過ごすこころさんとさやかさん。2人が子どもを持つ親に伝えたいメッセージは。

 「親御さんはいろいろ子どもに教えてあげたくなると思うが、子どもは意思を少しは持つもの。自分の考えを教える前にまず考えを聞いてあげてほしい」(さやかさん)

 「子が育つのは親の幸せ。幸せは家庭の中、自分の足元にあるのです」(こころさん)

 こころさんはビリギャル現象が起こった後も変わらない日々を過ごす。さやかさんも取材中に母の服に付いた髪の毛が写らぬよう取ってあげる気遣いを見せた。さやかさんは、こころさんが名古屋から持ってきた野菜やお土産を手に、夫の待つ家へと帰っていった。そこに世間の注目を浴びても変わらない親子の姿を見た。

(文・構成 電子編集部 高尾泰朗)[日経電子版2015年7月4日付]

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