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Q&Aで学ぶ・ピケティ(9)ピケティは、富の格差の縮小に、何を提案しているのですか?

Q&Aで学ぶ・ピケティ(9) ピケティは、富の格差の縮小に、何を提案しているのですか?
authored by 西村克己芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科客員教授

 いよいよ大詰めです。これまで富の格差が広がっていることについて解説してきましたが、富の格差を縮小するために、ピケティが提案していることについて説明します。

Q1.タックスヘイブン(租税回避地)とは何ですか?

【Answer】
タックスヘイブンとは、タックス(税金)ヘイブン(天国)です。租税回避地で、資産税や所得税がゼロか、極めて低い税率の国です。ケイマン諸島にはタックスヘイブンの国が多く、資本の動きを追跡できないのが現状です。

【解説】
ケイマン諸島は、西インド諸島を構成する諸島の一つです。イギリスの海外領土であり、グランドケイマン島、ケイマンブラック島、リトルケイマン島の3島からなり、首都はジョージタウンです。

 ピケティは、世界資産総額の10%が、タックスヘイブンに流出していると算出しています。タックスヘイブンの存在は、資本所得を覆い隠し、富の移転を阻害します。その結果、ますます富の格差が拡大すると、ピケティは警鐘を鳴らしています。

Q2.タックスヘイブンは、何が問題なのですか?

【Answer】
タックスヘイブンは、資本所得者たちの税金逃れに使われています。自国に税金を納めるはずの税金が支払われないため、政府の税収は減ります。政府は税金を減らさないために、労働所得者への課税を増やします。富める資本所得者たちは税金を逃れ、貧困にあえいでいる労働所得者への課税を増やし、ますます富の格差が拡大します。

【解説】
富める資本所得者たちは、タックスヘイブンを使って税金逃れをします。政府は、貧困にあえいでいる労働所得者への課税を増やし、ますます富の格差が拡大します。

 ケイマン諸島はタックスヘイブンであるため、オフショア銀行も盛んです。オフショア銀行とは、世界規模で、様々な国に住む人たちへのサービスを前提に活動している銀行です。オフショア銀行は、窓口を設置していないところもあり、客が窓口へ足を運ぶこともありません。郵便や電話、またインターネットやファックスなどの通信手段を使い、実際に海外に足を運ばなくても済む方法で銀行サービスが提供されます。タックスヘイブンにあるオフショア銀行を使えば、税金逃れに有利です。

 ケイマン諸島に資産運用会社を置く海外の金融業も多いのです。しかし租税回避やマネーロンダリングにケイマン法人が使用されることも多いため、OECDはケイマン政府に対し、透明性と実効ある情報交換を実現するよう要求しています。

Q3.ソブリン・ウエルス・ファンド(政府が出資する投資ファンド)とは何ですか?

【Answer】
ソブリン・ウエルス・ファンドは、政府が出資する投資ファンドです。ソブリン・ウエルス・ファンドの世界資産合計5.5兆ドルといわれています。

【解説】
ソブリン・ウエルス・ファンドは、経済の金融化と金融リスク増加に、大きな影響を与えています。そして国々の資産格差を拡大しています。ソブリン・ウエルス・ファンドの世界資産合計5.5兆ドル、約660兆円(2013年)です。そのうち、アブダビとノルウェーは、各7000億ユーロ(98兆円)以上です。

 ノルウェーの国外資産はGDPの2倍あります。世界中で、最も高い利回りが得られる国を求めて、巨額の資金が国際間でさまよっています。資金が集まる所はバブル化し、資金を引き揚げられた国は経済が破綻に向かうのです。

 たとえば、ロシアと欧州のウクライナ地方との戦いで、ロシアから多額の投資資金が流出しています。ルーブルが下落し、ロシア政府は政策金利を10%以上に引き上げました。世界をさまよう巨額の投資ファンドは、国々の資産格差を拡大させ、また経済を不安定なものにするのです。

Q4.ピケティが提唱する世界的資本税とは何ですか?

【Answer】
世界的資本税とは、タックスヘイブンに流出している資本全てに、資本税を課すことです。資本税とは、資本(資産)に対する課税です。資本の0.1%でも課税できれば、かなりの税収が確保できると、ピケティは言います。

【解説】
富の分配を解決するには、世界的資本税で政府が富裕層の富を再配分するしかないと、ピケティは言います。タックスヘイブンは、資本所得と労働所得の不公平を加速させます。そのためには、タックスヘイブンをなくすべきだと言います。そして、世界的資本税で政府が富裕層の富を再配分するしかないと、ピケティは言うのです。ピケティは、極めて非現実的であることは理解しているが、有望な解決策の1つだと言います。

 世界的資本税の議論ははじまったばかりです。これから知恵を出し合って、考えていくべき課題であるとし、政治家や経済学者に、世界的資本税の導入を推進することを提言しています。

Q5.ピケティが提唱する世界的資本税の課題の簡単な解決策は何ですか?

【Answer】
世界的資本税の課題の簡単な解決策は、国際レベルまで追跡できる銀行情報の自動送信と情報開示であると、ピケティは言います。タックスヘイブンをなくすための情報開示に動くことが不可欠です。米国がスイス銀行に情報開示させることが成功したように、タックスヘイブンの情報開示も不可能ではないと、ピケティは言います。

【解説】
タックスヘイブンやスイス銀行の所得隠し問題は、富の格差縮小のためには不可欠であると、ピケティは言います。世界的資本税の簡単な解決策として、国際レベルまで追跡できる銀行情報の自動送信と情報開示が有効だと、ピケティは提言しています。

 しかし、多くの経済学者たちは、ピケティの考える情報開示に対して、非現実的だと異口同音に言っています。ピケティ自身も、自動送信と情報開示は、現在では容易ではないと認識しています。しかし、世界レベルの所得隠し問題は、解決しなければならない課題だとピケティは言います。

 「米国がすでに成立させた、外国口座税務コンプライアンス(FATCA;ファトカ;Foreign Account Tax Compliance Act)の法律の実施に期待している」とピケティは言います。FATCA(ファトカ)は、米国の税法である外国口座税務コンプライアンス法です。
金融的な透明性によって、金融の民主化が可能になるのです。金融の民主化を実現できる資本主義にすることが、ピケティの願いでもあるのです。

西村克己(にしむら・かつみ) 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科客員教授。1956年生まれ。岡山県出身。82年東京工業大学経営工学科大学院修士課程修了、富士写真フイルム(現・富士フイルム)入社。経営効率化推進室に勤務。90年日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員を経て、2003年より芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授。08年4月同客員教授。著名企業の経営コンサルティング、研修プログラムの講師を数多く務める。専門分野は中期事業戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、MOT(技術経営)、図解思考、ワークショップ、マネジメント研修。著書は『よくわかる経営戦略』『よくわかるプロジェクトマネジメント』『経営戦略のトリセツ』(以上、日本実業出版社)『戦略思考トレーニング』(PHP研究所)『ロジカルシンキングが身につく入門テキスト』(中経出版)『問題解決トレーニング』(イースト・プレス)『困った部下を戦力化する45の即効スキル』(梧桐書院)など100冊を超える。

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