日本経済新聞 関連サイト

OK
career-働き方

お悩み解決!就活探偵団2016どうする内定辞退
「迷っています」と迷わず言おう

お悩み解決!就活探偵団2016 どうする内定辞退 「迷っています」と迷わず言おう
authored by 就活探偵団'16

 2016年卒の就職戦線がいよいよヤマ場に入り、すでに複数の内定をもらった就活生も多い。入社できるのはもちろん1社で、早くも「内定辞退」にやきもきする採用担当者の声も聞く。企業や学校に迷惑をかけず、穏便に内定を辞退するにはどうしたらいいだろうか。

「辞退されれば失恋の気分」

 「制度変更後の初年度のため、辞退者数の予想が立ちません」(日立製作所・人事勤労本部の大竹由希子さん)

 「一筋縄にいきません。第1志望なのか、他の企業を受けているのか本音を伝えてほしい」(ファーストリテイリング人事部の中西一統採用部長)

 本格的な採用選考が近づくにつれ、企業の採用担当者が不安を募らせている。ディスコが公表した7月1日時点の就職内定率は50.6%。就活のピークを前にして2人に1人はすでに内定を持っている計算だが、彼らが気持ちを固めるのはこれからだろう。中小やベンチャー企業は早々に内定を出しており、ある程度の内定辞退を覚悟しつつも気が気でない。日本商工会議所の中村利雄専務理事は「8月1日以降、大企業がぱっと決めてくれれば、中小企業も対処しようがあるのだが」と打ち明ける。

 複数の内定を持つ学生も浮かれてばかりはいられない。1社を選び、他の企業へきっぱり辞退を申し入れる時期が近づいている。どのタイミングが望ましく、どう伝えるのが後腐れなくスッキリするのだろうか。

 「なるべく早めに伝えて。一にも二にもこれにつきる」。就活支援サービスの人材研究所(東京・港)の曽和利光社長はこう話す。曽和氏はリクルートやライフネット生命保険で新卒採用の責任者を務め、多くの学生に触れてきた。採用担当者にしてみれば、面談を通じて学生の能力や資質に惚れ込み、温かい目で見守り信頼関係を築いた自負がある。「『必ず御社に行きます』といわれた学生から『辞退させてください』と言われればショック。失恋の後の気分ですよ」(曽和氏)

「仮面内定者」はバレる

 もっとも、採用担当者も「必ず御社」の意気込みについては、"うわべだけ"を含めてしっかり値踏みしてランクづけしている。採用計画の進捗を見ながら、学生ごとに辞退する確率を予測したうえで内定を出す。そこが採用担当者の腕の見せどころでもある。

 実際、「仮面内定者」を見抜く方法はいくつもあるそうだ。

・内定をもらってから何度か会うのに髪が黒く就活仕様で、服装がカジュアルにならない
・夏休みに旅行やレジャー、部活などの予定を入れていない
・ブリーフケースに封筒や折りたたんだ紙袋が入っている
・採用を続けているはずのライバル企業の名前を口にしない

 内定者は想像がつかないほどチェックされていることを心得たほうがいい。こうした「プロ」が相手なのだから、学生は駆け引きするなど策を練らず、「迷っています」と心を開くのがベストだ。「IT系大手であってもライバルに人材が流れて、辞退率は5割にのぼるのが実態」(曽和代表)。計画人数までは補充を繰り返すため、学生もその気がなければ尻込みせずに断るのは問題ない。「迷っています」と伝えておけば、話がいたずらに厄介にならないはず。「最後は(表計算ソフトの)エクセルの行が、1行消えてしまっただけと思うようにしていました」(曽和氏)。実際のところは、そんなものだ。

思わぬ大逆転のケースも

 採用規模が10人に届かないような企業にとっては「辞退」による穴は大きい。面接前にせっかく企業のことを調べるのだから、その会社の採用事情も分かるはず。自分の辞退が、相手にどれだけ打撃を与えるかを推し量って、なるべく正直な気持ちを伝える心配りができれば、社会人になっても一目置かれるはずだ。

 外資系企業から内定をもらった早稲田大4年の女子学生は、すでに3社から内定をもらったという。この外資系企業は実は第1志望ではなく、とりあえず「練習」と割り切っているが、まだ辞退を伝えていない。「私が断るなんて思ってもいない様子。断ったらどんな反応をされるのか......」

 こんなときも「迷っています」と早めに伝えるに限る。自分の思いを正直に伝えることで、企業が自分をどう評価しているかが確かめられることもある。引き留められたり、親身に相談に応じてもらえたりすれば、内定者のなかでも相当に高く順位づけしてもらえている可能性が大きい。

 「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉もある。大企業とベンチャーを比べて、どちらが自分が活躍できそうか、入社後に花形部署に配属してもらえそうか。「迷っていると伝えた時の反応で、当たりをつけられる」(曽和氏)。企業の規模や知名度にこだわらず、実力を発揮できる就職先をみつけられる手がかりになる。

 大手広告代理店の内定を蹴って、ネット系の広告代理店に入社し活躍するある女性社員のケースもそれだ。心変わりは、内定辞退を巡ってのやり取りにあった。そもそも大手企業の採用担当者には、選考中から淡白さを感じていた。採用活動も終盤になって、ネット広告代理店の担当者に「迷っています」と悩みをさらけ出してみた。

 「では、一度会社に来てください」。おずおずとオフィスに訪問すると先輩社員たちが働くフロアに案内され、「気になる先輩を好きにつかまえていいですよ。自分の疑問が晴れるまで何でも質問してください」ともてなされた。結局、10人以上の社員から話を聞き、この会社のメンバーになりたいと感じた。それ以上にこの会社の自分への期待を感じ取ったことが決め手になったという。

法的拘束力はない

 一般的に「内定」と呼ばれるが、正式には10月1日の内定式までは口約束に近い「内々定」だ。学生側から辞退することで社会的に不利な立場に立たされることはまずない。

 「大学推薦の内定を辞退したら、卒業取り消しなど処分対象になるのか?」

 「内定辞退で損害賠償させられるのでしょうか?」

 「会社と書面を交わしました。辞退できないのでしょうか?」

 法律問題の相談サイト、弁護士ドットコムにも学生からの質問が寄せられる。これらの回答はいずれも「ノー」だ。

 法律上でも労働契約では原則として、無期雇用の従業員は2週間前に通知すれば、いつでも辞められる。学生への「内定」もこれとほぼ同じで、企業と学生が気持ちを確かめあう「内々定」であれば法的に縛られることはほぼない。むしろ、企業が学生を囲い込むために、他社の試験日に拘束するなどは違法行為にあたりかねない。内定者として研修に参加するなどし、費用が発生した場合はどうか。労働問題に詳しい芦原修一弁護士は、「企業は損害請求できる場合もあるが、時間と費用をかけて争うのは現実的でない」と指摘する。

サイレント辞退は最悪

 そうは言っても、人間として最低限の礼儀は必要だ。言語道断の最たる例が、「辞退」を伝えずに黙ったまま消えてしまう「サイレント辞退」。

 法政大学キャリアセンターの栗山豊太主任は「毎年、9月30日に、いくつかの企業から『学生がちゃんとくるのか』と念押しの電話をもらう。さらに1日には学生と連絡が取れないとの叱責を受けることもあります」と打ち明ける。企業にとっては「そんな学生を採らずにすんだ」となるかもしれないが。

 それでも就活生が腹をくくって辞退を言い出せず、神経質になるのはこんなエピソードがあるからだ。慶大4年の男子学生は、金融会社の内定を断った先輩のエピソードを教えてくれた。「床に5時間ほど正座させられて、説教が続いたらしい。本人はもちろん、親の人格をけなす発言があったとか」。内定辞退を巡っては、コーヒーや水を頭からかけられたなどの噂を聞かされる。

入社後に再会するかも

 真偽はともかく、これらの行為は決して許されず、企業のブランドイメージを間違いなく傷つける。今や採用担当者はコンプライアンス(法令順守)を徹底されている。「学生=顧客」というのが鉄則。もしかしたら辞退を申し入れた振る舞いに対して、社会人としての先輩が厳しく指導したくなるポカがあったのかもしれない。それなら真摯に受け止めたい。

 就活生にとって、辞退した会社が将来の取引先になることだってある。懇意にしてくれた採用担当者、リクルーターとビジネスで再会する楽しみが待っているかもしれない。「あのとき、黙って消えた......」などとならないよう、しっかり向き合ってほしい。社会人としての真価が問われるのは、ライバル企業や得意先に評価されてこそ。すっきり後味が良い「内定辞退」は、できるビジネスパーソンとしての第一歩だ。
(松本千恵、高尾泰朗、森園泰寛)[日経電子版2015年7月28日付]

【関連記事】
「就活生座談会2016(2)商社・金融の選考は今、どこまで進んでいるのか?」
「いい会社の見分け方(1)「ユーホー」は情報の宝庫」
「就活"新スケジュール"に騙されるな(1)「8月選考開始」を守る企業って本当にあるの?」
「就活"新スケジュール"に騙されるな(3) 8月1日は選考開始ではなく最終面接!?」
「就活"新スケジュール"に騙されるな(4)「面接キーワード『リーダー』『卒論』『第一志望』」

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>