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大手航空会社、
「パイロット不足」を商機に
訓練施設をLCCに提供

大手航空会社、「パイロット不足」を商機に訓練施設をLCCに提供

 アジア太平洋地域でパイロットが現在の4.5倍の約23万人必要となり大量に不足する「2030年問題」を商機にしようと大手航空会社が動き出した。ANAホールディングス(HD)やシンガポール航空は訓練施設を設け、格安航空会社(LCC)などに提供する。アジアの航空需要の伸びを取り込むべく、LCCに協力しながら安定収益源の一つにする狙いだ。

 「機体を右に」「そろそろ着陸態勢に入って」。後ろに座る教官から矢継ぎ早に指示が飛ぶ。それを受けパイロット2人がエアバスの小型機「A320」を操縦すると「機体」は上下左右に大きく動き、前面に広がるバンコク市街や空港周辺の景色も滑らかに変わる。

 これは6月半ば、ANAHDなどがタイ・バンコク郊外に設置したパイロット訓練施設のフライトシミュレーターでの地元LCCの訓練風景だ。

 アジア太平洋ではLCCの急増や大量退職でパイロットが年約9千人不足すると推計される。あるLCCによるとパイロット育成には1カ月で計150時間のシミュレーターの訓練が必要という。だが「従来使ってきた香港の施設が満員で高コストな東京でやらざるをえない」(タイLCC2位ノック・エアの訓練担当のブンチャ・ブアサブーン氏)混雑ぶりだ。

ANAホールディングス傘下の施設で訓練を受けるタイLCCパイロット(バンコク)

 ANAHDはこうした事情に着目。パイロット訓練会社、パンナムインターナショナルフライトトレーニングセンター(PIFTC)をノック・エアなどと設立、14年9月開業し24時間体制で運営する。「航空会社としてパイロットのタイトなスケジュールなどに精通し手厚いサービスができる」(PIFTCの三船英明ディレクター)のが強みでタイを中心に約10社のLCCが活用する。

 8月に米ボーイング「B737」のシミュレーターの稼働を予定するなど16年に4基体制にする。13年にパイロット養成会社の米パンナムを買収済みで、施設の貸し出しだけでなく訓練そのものにも事業を広げる計画だ。ANAHDは営業開始から3年後に訓練関連の事業で年7億5千万円の売上高を目指す。

 ANAHDだけではない。シンガポール航空は欧州エアバスと共同で16年に「エアバス・アジア・トレーニング・センター(AATC)」をシンガポールに設立、8基のシミュレーターを導入する。「アジア太平洋地域で必要になる訓練のニーズに応える」(ゴー・チュン・ポン社長兼CEO)狙いで年1万人以上に訓練を提供する計画だ。

 航空関係者はこうした動きを「大手も巻き込んだ価格競争が進み運航ではもうからないことも多い。安定して利益を稼げる事業が必要」と話す。シンガポール航空は、アジアを拠点とした訓練施設の拡充で米ボーイングのシェアを崩したいエアバスと思惑が合致した。

 LCCの自助努力も始まっている。アジア最大手エアアジアはカナダのシミュレーター製造大手のCAEと訓練センター「アジアン・アビエーション・センター・オブ・エクセレンス(AACE)」を立ち上げた。

 インドネシアLCC3位シティリンクは1日190便を15年末に225便に増やす計画だ。今後140人のパイロットを採用予定で「経験者や航空専門学校の卒業生を中心に進める」(アルバート・ブルハンCEO)。その訓練へ親会社、ガルーダ・インドネシア航空の施設に専用のフライトシミュレーター1基を確保。訓練担当のバイユー・ウィディアトモコ氏は「増設してもらうことを検討中」と話す。

 シミュレーターは導入費用だけでも1基10億円といわれ小規模LCCが導入・維持するのは難しい。大手にとっては一部で競合しても、東南アジアの総座席提供数の約6割を担うLCCの成長力を取り込む方が有効との判断だ。急激な拡大に人員などが追いつかず、LCCの収益低下も目につく中、両者は競争と協調を模索しつつある。
(松本史)[日経電子版2015年7月7日付]

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