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サザビー流、「半歩先」
ライフスタイル次々創造

サザビー流、「半歩先」ライフスタイル次々創造

 数々のブランドを発掘・育成しては日本に新たな「ライフスタイル」を定着させてきたサザビーリーグ(東京・渋谷)。最近、サザビーが仕掛けるプロジェクトの裏で、創業者の鈴木陸三会長(72)の存在感が再び際立っている。「前向きな普通生活者に、どんな『半歩先』を提供できるかをずっと考えてきた」という鈴木会長の原点は「プロの否定」だ。サザビーの半歩先を見つける力とは。

「業界のプロ」否定、面白く

 「『風と共に去りぬ』の主人公って、ツッコミどころ満載だよね」。6月末の東京・神楽坂。作家の酒井順子氏らが繰り広げる軽妙なトークに、集まった100人近い男女が笑い声をあげた。

 この日参加した千葉県在住の会社員の女性(34)は「古い町並みが残る神楽坂は以前から私のお気に入り。講義も1階の洋服も、なんとなくこの町に合ってる」と話す。

 東京メトロ東西線の神楽坂駅前。昨年10月、人通りがまばらなこの場所に商業施設「la kagu(ラカグ)」がオープンした。築50年の新潮社の倉庫を改装。総面積約950平方メートルの店内には、衣料品や生活雑貨、家具、カフェなど生活全般に関わる商品が並ぶ。

 通常の複合型店舗とひと味違うのが2階のレクチャースペースだ。7月には約10回、作家などを呼んでイベントを開く。生活全般を事業対象とするサザビーが今回仕掛けるのが「知」だという。

 「何でも物がそろう時代。『知』が加われば前向きな普通生活者に、何か面白いものを提案できると思った」。ラカグの立ち上げを指揮したサザビーリーグ傘下のビーエフシーカンパニーの吉田洋社長は話す。

 新潮社の知人から聞き、最初に話を持ち込んだのが鈴木会長。そこで吉田氏がやりたいと手を挙げた。だが、神楽坂という立地での商業施設運営に、皆が首をかしげた。

 これまでにないマーケットを創り出すのがサザビー。今までも難しいと判断したケースを実現につなげた例は少なくない。こうしたチャレンジを許してきたのが鈴木氏の原点である「プロの否定」だ。プロはしっかりと計画を立て、勝てると思うビジネスしかしないが「とにかく消費者目線で面白いことをやろう」。枠にとらわれない自由な発想が成長を支えてきた。

 対象とする顧客層も決まりはない。サザビー社員が口をそろえる「前向きな普通生活者」とは「日々の生活を愚痴るんじゃなくて、何か少しでも良くしようと前向きな人。自分のこと以外にも少し関心を持つような一般の人が我々のターゲットだ」(鈴木氏)。

 スターバックスを日本に持ち込んだ時も、鈴木氏の消費者目線が決め手だった。高価格帯のテークアウトコーヒーに、経営企画室が出した結論は「勝算無し」。鈴木氏は反対に「まずロゴがかっこいい。あのカップを持ち歩いて飲むという生活体験が、次の『ファッション』になるぞ」とGOサインを出した。

厳選された商品が並ぶ商業施設「ラカグ」(東京都新宿区)

 こうした肌感覚で最終決定を出すのがサザビー流だ。「結局何が当たるかなんてわからない。やりたいんだ、という大いなる思い込みを持たなければ、事業計画がしっかりしていてもやらせない会社」(吉田氏)。ラカグの来店客数は計画を上回るなど、まずは順調な滑り出しだ。

 サザビーは何を仕掛けてくるかわからない――。サザビーには常に国内小売業の関心が集まる。今までにない市場を発掘したり、成長の種を海外から引っ張ってきたり、独特の経営だ。

 「時代の変化と共に消費者の嗜好も変わる。そうした全体像をとらえるのが『ファッション』だ」(鈴木氏)。雑貨と飲食を合わせた81年のアフタヌーンティーに始まり、一大ブームを巻き起こした仏ブランドのアニエスべー、今や千店舗以上を展開するスターバックスなど、いつも消費者を「半歩先」に引っ張ってきた。

 こうした成功が世界中で評判を呼び、今では「月に40件近い提携話が持ち込まれる」。(社長室の清沢朋子氏)。うち踏み込んで交渉を進めるのは1年に5~6件。実際に契約につながるのは1~2年に1件だ。

 現在サザビーが持つブランドは全部で41。「自分たちのブランドと海外ブランドとで、半々くらいが理想。同じことをやっていては前向きな生活者は飽きてしまうし、我々の仕事は1つを深掘りするのではない」(鈴木氏)として、新規事業開拓の手は緩めない。

「ラカグ」は倉庫をリノベーションして作られた(東京都新宿区)

 09年にスタートした米ロサンゼルスのセレクトショップ「ロンハーマン」や13年に投入した格安雑貨の「フライング・タイガー・コペンハーゲン」など、次々と仕掛けては新市場を切り開く。

 次に日本に持ち込むのが米ニューヨークで人気のハンバーガー「シェイクシャック」だ。16年に都内に1号店を開業予定。1つ5ドル以上する高めの価格設定だが「こだわりの食材を使って環境にも配慮したハンバーガーを食べる。そうした食体験全体が強み」(アイビーカンパニーの角田良太社長)。角田氏がほれ込み、3年がかりで契約にこぎ着けた。

 一方、一つにしがみつかないベンチャー気質も、サザビーの強みだ。スターバックスやアニエスべーなどを一大事業に育て上げても、自分たちの規模や企業風土に合わなくなれば、潔く手放す。「結局は我々のブランドではない。続けていれば押し込められたり、いさかいが生じたりする。しがみつくのではなく、自分たちの嗜好で誇りを持って存在できること。離れるときもあうんの呼吸だ」(鈴木氏)

 一時は上場したサザビーリーグだが、11年にはMBO(マネジメント・バイ・アウト)で上場廃止を決めた。鈴木氏は「結局向いていなかった」と振り返る。上場廃止後も15年4月期の連結売上高は967億円と売り上げは伸び続ける。

 「我々の商売は冒険心が無くちゃいけない。でも、追い風が吹くときは頑張るけれど、悪いときはじっとしている。農業みたいなもので、我々は百姓。いつも頑張ります、なんて無理だよ」。鈴木会長が掲げる前向きな姿勢こそが、面白いものを生み出す風土につながっている。

鈴木会長に聞く、「前向きに普通の目線で」

 ――創業時は今とビジネスモデルが違います。

鈴木陸三(すずき・りくぞう)神奈川県逗子市出身。俳優の石原裕次郎氏らとヨット遊びをして青春を過ごす。1966年明治学院大学文学部卒業。26歳から29歳までロンドンやパリ、ミラノなどを放浪。帰国後72年にサザビー(現サザビーリーグ)を創業。

 「僕らにはノウハウが無いから、できることは付加価値を付けるということだけ。当時Tシャツが1000円として、イラストを描いたりして300円高く売る。こうしていくうちに、自分の思いとは違う物が売れたり売れなかったりする。やはり作り手や選び手の思いを商品に乗せなければいけない、ということで81年に生まれたのがアフタヌーンティーだ」

 「店頭のイメージはロンドンのテートギャラリーにあったマティスの切り絵だった。飾り方とか、なんとなく店からお客さんが連想できるイメージだ。店員との会話が生まれ、ディスプレーをどんどん変えることで目的がなくても立ち寄ってくれる。店は情報発信の場になるべきだという考えでやった」

 ――消費者に対する提案がユニークです。

 「意識してきたことは、前向きな普通生活者に向けて『半歩先』を提供するということだ。1歩先でも、特殊な人だけが見える10歩先でもいけない。皆の気持ちがなんとなく今に満足してないなかで、ぽんと出てくるのが良い。僕も前向きな普通生活者の1人。自分の嗜好は、大衆とは少し違う、半歩先の普通の人々に受け入れられるという自信があった」

 「ファッションは衣服という定義を変えたかった。ライフスタイルというのは大げさに言えば我々が作ったと思う。僕も社長の森正督もプロ経験がない分、自由。ずるいけれど、我々も消費者だぞ、と言っていた」

 ――海外ブランドと組む時の基準は何ですか。

 「ケミストリー(気)が合うことが前提。アニエスベーは大手の百貨店が声をかけていたが、アニエス氏との食事で向こうから我々とやりたいと言ってくれた。後は価格などでビジネスのフレーム(枠)が合うことと、前向きであることが重要だ。スターバックスはマインドをリフレッシュするためにも、冒険良し、ということで踏み切った。スタバも今考えればいろいろな食い違いがあったが、真剣に向き合えばうまくいくものだ」

 ――経営面でスタバが抜けて痛くないですか。

 「スタバは結局シアトルの会社だ。結果的に言えば、押し込まれたわけでも無ければ、こちらから文句を言ってけんか別れしたわけでもない。前向き志向からすると、年間これぐらいの利益や配当があって、ということにしがみつかず次の投資に向けて動く」

 ――様々な「半歩先」を成功させてきました。

 「こんな商売だからこそ失敗も多い。勝敗はクンロク(9勝6敗)大関くらいではないか。もっと言うと、10勝5敗くらいを狙っていた。そうでなければ、次のエネルギーに気持ちが向かない」

 「時代性からいうと、日本の手作りとか、自然志向に変わってきている。西洋を追っかける、尊敬するといったこととは違うレベルになってきたと思う。(外国と組むにしても)うまくいけば日本のマーケットに合うだけでなく、我々が手掛けることでプラスの広がりが出てくる。こうしたことはロンハーマンなどで着実に進んでいるのではないか」
(水口二季)[日経MJから転載、日経電子版2015年7月6日付]

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