何から始めるか(2)~僕らが政治を使う時
僕ら流・社会の変え方(10)
前回は「社会を変える」方法のうち、「まず、まちに出てみる。」というやり方をご紹介しました。地域のお祭りなどに参加することで、今まで見えなかったまちの色々な課題に気づくでしょう。そして、一見すぐには解消できないように思えることも、「よそ者」としての僕らの一歩が、結果的に大きな効果を生み出すことがあります。
しかし、僕らの力だけではどうしようもない壁にぶち当たる時もあります。そんな時は、政治の出番かもしれません。そこで、今回は皆さんにもできる社会の変え方の「第2弾」として、政治をうまく使いこなす方法についてお話したいと思います。
自分にではなく、社会に問題がある?
「政治を使う」時について、この記事を呼んでいる学生さんの多くが経験する「就活」を例に挙げてみましょう。
就職活動を本気でやっているのになかなか内定がとれないと、「ああ、なんで俺は!」「こんなに頑張っているのに、なぜ?」などと途方に暮れるシーンが訪れます。伝えたいことを伝えきれていないとか、緊張でいつも通りの力が発揮できないとか、自分を責める理由はいくらでも思いついてしまいます。
しかし、もしかしたらそれは自分の努力不足ではなく、若者の雇用を確保する制度が日本において整っていないからかもしれません。全体として学生の間で大企業志向が強く、マッチングがうまくいっていないという事情もあるでしょう。キャリア教育が十分でない、一度失敗すると再び就職しづらい傾向にあるために選択が慎重になる、あるいは社員の定年が伸びてきたために若者が就職する席がないとなれば、それは制度的な問題です。個人の努力もありますが、この問題には企業や行政に働きかけないと解決できない部分があります。そんな時は、政治の出番です。
ポイ捨てごみの問題も同様です。僕たちグリーンバードは国内外の66チームで日々ごみ拾いを続けています。カッコいいユニフォームを着て一人でも多くの人たちに参加してもらい、拾う人が目立つことによってまちの中にポイ捨てしづらい空気をつくっています。僕たちは「捨てる人をなくす」ためのコミュニケーションを行うべく活動していますが、もしかしたらそれとは別のアプローチで、ポイ捨てごみをなくすことも必要かもしれません。ポイ捨て禁止条例の罰則を強化する、街中のごみ箱を増やす、道路の側溝にごみが集積されるようなシステムをつくるには、政治によって社会の仕組みを変えるべく、働きかける必要があります。
僕らの政治の使い方
では、どうしたら政治を使って自分たちの問題を解決できるのでしょう。ここではその方法について、簡単に5つご紹介したいと思います。
1つ目は、「投票に行くこと」です。政治に対して最も身近にできるアクションが投票です。自分が描く理想のまちの実現に向け、自分の考えに一番近しい人を代表として議会に送り込むこと。これは誰もが持っている権利です。若者の投票率の低下が叫ばれていますが、いわゆる「世代間格差」を解消するために、白紙でもいいので投票し、若者の意思を表明するべきだという議論もあります。先月には「18歳選挙権」が実現するなど、注目が集まっていますね。
2つ目は、「政治家に意見を届けること。」インターネットが発達した社会では、見ず知らずの人と簡単にメッセージをやりとりできます。裏を返せば、身近にいる政治家にも、テレビや新聞で見ている政治家にも簡単にコンタクトが取れるということです。TwitterやFacebookなどのSNSで政治家のつぶやきにコメントをし、自分の意思を伝えることも有効です(僕もたくさんのメッセージを待っています!)。その際、批判や批評ではなく、「こうしたらまちはもっと良くなるはずだ」というアイデアを投げかけると、議論が深まります。政治家自身も、多種多様な人々の意見を聞く「幅」を持つことが大切です。
3つ目は、「署名やデモに参加すること」。まずは、声をあげること。その声が届くか届かないかを考える以前に、自分たちに意思があることを表明することが大切です。自らの声に共感が集まり広がれば、時には政治を大きく動かす力になります。新国立競技場の問題然り、安保法制の問題然りです。声を上げること自体が社会貢献になるという見方もあります。「自分が声をあげることで社会は動く」ということを自覚することから、「社会を変える」は始まります。
4つ目は、「政策を訴えること」。一般的にはロビイングやアドボカシーと言われているものです。簡単に言えば、「こうしたらまちや社会はもっと良くなる」という方策を考えて、積極的に国や地方の政治に働きかけること。結果として、法律や条例などを改正していくための運動です。最近では、高校生など若者が政治家に政策提言を行うイベント等も増えてきていますよね。僕も毎月「みなとーく」というイベントを開催し、みんなで一緒にまちをよくするアイデアを考え、政策にして行政に提案する試みを行っています。そのようなイベントに足を運んでみることから始めても良いかもしれません。
認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんは、親が病気の子どもを預けられる場所がなく、また子どもの看病のために会社を休んだせいで、解雇される女性がいることに衝撃を受けました。「保育」は行政のサービスなのにもかかわらず病気の子どもについてはどこも対応できていませんでした。そこで駒崎さんは、自ら施設型・訪問型の病児保育を事業として開始。国などにも働きかけたことが功奏し、今では「病児保育」が国や自治体の制度に組み込まれるようになりました。
5つ目は「政治家になること」です。議員になり、行政に直接働きかけるという選択肢もあります。NGO・NPOやソーシャルビジネスなどの分野に就職する人が増えてきている昨今、これからはキャリアパスの一つとして政治家が選ばれる時代が来るのではないでしょうか。全国的に若くして議員に立候補する人も増えてきました。選挙の戦い方も様々です。これに関しては、自分の経験を踏まえ、またじっくりお話したいと思います。
ここまでで、ピンとくるものはありましたか? 政治を使って社会を変える方法は、意外とたくさんあるんです。まちに出て色々と試してみても、どうしても解決しない時。そんな時はぜひ、ここに挙げた5つを思い出してみてください。
次回は、今回の話を踏まえつつ、「政治家」と「有権者」の関係は今後どうあるべきかについてお話したいと思います。
NPO法人グリーンバード代表/NPO法人マチノコト代表/港区議会議員(無所属)/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程に在籍中。早稲田大学大学院修了、広告会社の博報堂を経て現職。まちの課題を若者や「社会のために役立ちたい」人の力で解消する仕組みづくりがテーマ。第6回、第10回マニフェスト大賞受賞。月刊『ソトコト』で「まちのプロデューサー論」を連載中。著書に『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)、『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(フィルムアート社)。
HP:http://www.ecotoshi.jp
Twitter: @ecotoshi
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