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[ career-働き方 ]

革命児 ユニクロ柳井氏が繰り返す言葉

革命児 ユニクロ柳井氏が繰り返す言葉

 「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」

 ユニクロなどを展開するファーストリテイリングのホームページの最初の画面に登場する言葉。これはファストリの経営理念の1つだ。

 おそらくどの企業や団体も設立時に経営理念をつくり、その理念の実現に向けて経済・社会活動を行うのが一般的だ。入社式などのセレモニーでトップがこうした経営理念について語ることがよくあるが、日常的には経営理念をあまり意識せずに活動をしているのではないだろうか。

新しい産業で「世界を変える」

 だが、ファストリ創業者の柳井正会長兼社長は記者会見でもこの経営理念をよく口にする。いや、もしかしたら柳井氏はいつも社内外にこの理念を繰り返し発信しているのかもしれない。6月15日に開かれた大手コンサルティング企業、アクセンチュアとの共同事業に関する記者会見。ここでも柳井氏はこう語った。「我々は『服を変え、常識を変え、世界を変えて行く』企業になりたい。我々はこの事業を通じて世界を変えていきたい」。

ファーストリテイリングのホームページの最初の画面には経営理念が掲載されている

 共同事業では店舗やネット通販の顧客の販売データなどから売れ筋を精密に把握し、ゆくゆくは顧客が自分だけの商品を注文できるようにするという。大量生産、大量販売とは一線を画する戦略だ。確かに服の作り方を変え、販売の仕方も変わる。それだけでもこれまでの常識を覆す取り組みだ。それが実現したらIT(情報技術)と小売業が結びついた新しい産業が生まれる可能性も秘める。働き方も変わるだろう。変化の連鎖が世界をも変えることになる。そんな壮大な構想を柳井氏は描く。

 会見で同席したアクセンチュアの成長市場担当のジャンフランコ・カサーティ氏は柳井氏の発言を受ける形で「ファーストリテイリングには完全に小売業を変えてもらいたいと思う。小売業を超えてもらいたいと思う。いろいろな業界が組み合わさって変革が来る」と語った。

 柳井氏は昨年10月、大和ハウス工業との共同物流事業の記者会見でも経営理念を熱っぽく語っていた。「『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』。できたら世界をよりよい方向にいくような関係を今後も続けていきたい」。そしてもっと強い言葉も飛び出した。「流通や物流の革命というが、私はもっと広く、産業革命じゃないかと思っている」。この革命という言葉を会見場で聞いたときに、「柳井氏は本気で社会を変えていこうと思っている」と筆者は感じた。

中内氏が実現したかった世界

ファーストリテイリングの柳井氏(左)とアクセンチュアのジャンフランコ・カサーティ氏(6月15日、東京都港区)

 と、同時に経営理念を繰り返し語り続けた元祖、流通革命児であるダイエー創業者の中内功氏の言葉を思い出した。「よい品をどんどん安く、より豊かな社会を」。記者会見、インタビューなどで頻繁に聞いた。そして、こうも付け加えた。「この経営理念は不易(ふえき)やね」とニッコリ。不易とは「時代を通じて変わらないこと」の意味だ。

 中内氏の流通革命は未完に終わってしまったが、低価格路線は一時期、生活者から圧倒的な支持を集めた。もう10年以上も前になるが中内氏に「なぜ経営理念を言い続けるのか」と聞いたことがある。中内氏の答えはこうだった。「だってそうした世界が実現していないからですなぁ」。生死の境をさまよった戦中に「すき焼きを腹いっぱい食べたい」と思い続けた原体験がダイエーの経営理念の底流にある。

 2005年に死去した中内氏のお別れ会で柳井氏は「中内さんはいろんな言葉を残されましたけれども、その中で一番有名なのが『よい品をどんどん安く』という言葉です。この言葉は小売業の永遠のモットーなのではないかと思います」とダイエーの経営理念を紹介。そして、柳井氏はこうも語っている。「次に中内さんがどんなことをされるのかということが、全ての小売業者の興味の的だったと思います」。

 中内氏が繰り返して語る経営理念に基づいた施策を柳井氏は創業の地、山口で何度も聞いていたのだろう。柳井氏が経営理念を言い続けるのはその影響かもしれない。そして柳井氏がしたように、第2、第3のユニクロを目指そうとする流通ベンチャーの創業者たちは「次に柳井さんがどんなことをされるのかということが、すべての小売業者の興味の的」になっているに違いない。そうなれば世界はよりいい方向に行くことになるだろう。
(編集委員 田中陽)[日経電子版2015年7月1日付]

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