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NPOの虎の穴(5)日本の大学生よりも”大人”な高校生たち

NPOの虎の穴(5) 日本の大学生よりも”大人”な高校生たち
authored by 立花 貴公益社団法人MORIUMIUS 代表理事

 2015年7月18日に石巻市雄勝町でオープンした、こどもたちの複合体験施設「モリウミアス・ルサイル ~森と、海と、明日へ~」には、毎週10名ほどのインターンが来ています。外国人英語教師や国内外からの大学生などの中に、昨年まではなかった高校生のインターンの姿が。しかも、アメリカ・ボストンやフランス・パリ、シンガポールなど、多くが海外のインターナショナルスクールに通う若者たちです。

短期間で逞しく成長し、国に戻っていく

 私が高校生のとき、夏休みは部活や学祭準備、友人との遊びなどに時間を費やしていましたが、ここモリウミアスに集まる高校生たちは違います。意識が高く、そして逞しく、どう見ても日本の大学生と変わらない、もしくはそれ以上に大人な感じです。問題意識や自分なりに学びたいこと、現地で感じたい事などが明確です。来てから2~3日はぎこちなさがありますが、それ以降は海外生活で鍛えられているのでしょう、抜群の協調性と環境適応能力で、モリウミアスのスタッフとともに、プログラムに参加しているこどもたちや地元の人たちに積極的にかかわってゆきます。

 総じて、インターンに来ている高校生の特徴はIB。教育改革実践家・藤原和博氏が提唱している「世の中を変える若者は、今、IBに集まっている。通称・IBリーグ。I=Ishinomaki(石巻)、B=Bangladesh(バングラディッシュ)の略」のIBではなく、インターナショナル・バカロレアのIB認定校※から来ているという傾向があるようです。

 就職活動に役立ちそうだからインターンに来ています的な日本の大学生と、意識と行動力の差が出ているように感じています。グローバルな環境で育ち、かつ、高校生のうちからモリウミアスのように国際色豊かなこどもたちが集まり、様々な企業で働いた経験を持つ大人が働く環境に身を置き、丁稚のような厳しい環境でインターンを送る彼らは、短期間でさらに逞しく成長し、それぞれの国に戻っていきます。

モリウミアスで働く高校生インターン

今の時代に求められている「生き様(いきざま)」という言葉

 「いまの時代に足りないものは、後世や今のこどもたちに、生き様を伝えるということではないか?」。先日、ワンボックスカーのハンドルを握りながら、ふと降りてきた言葉です。

 「生き様」を背中で伝えてくれている人が私の周りにもいます。その一人が、友人でもあり、10歳年下ながらも尊敬している鍛錬家・山本圭一さんです。震災後、最初に東京から駆けつけてくれ、一緒に雄勝に住むようにまでなりました。漁師として働きながら、世界一おいしいスポーツイベント「三陸 海の幸トレイルランニング」を主催・実行したり、林道を整備したり、町の様々なイベントや人を支え、多くの人から可愛がられる存在になっています。

鍛錬家・山本圭一さん

 山本さんは震災前、ベンチャー企業経営者やヒルズ族(久々に使いましたが、古めかしい言葉になった感じがしています)のパーソナルトレーナーを生業にしていました。「仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか」などのベストセラー作家でもあり、様々な雑誌にコラムを書いていました。多彩でタレントでいうなら武井壮のような感じです。私も東京にいたときは、トレーニングの指導をうけたり、一緒に山に登ってもらったりしていました。「身体を鍛えるのではない。心を鍛えているのだ」と口癖のように言っていました。大自然の中で心身を鍛える指導もしていました。

 震災後、都会での生活をある意味で捨て、震源地に最も近く壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市雄勝町に最初は一人で、そして今では奥さんも連れてきて生活しています。早朝の水揚げに始まり、浜作業や海上での作業、浜の人たちとゆっくりとした時間を過ごし、時にはイベントの準備に奔走します。まさに浜のリズムとスタイルで生活しています。「自分はこんなに凄かった!」と大きく見せるでもなく、威張らず、奢らず。

 浜の一人ひとりと丁寧に向き合い、外から訪れてくれた人とのご縁や出会いも大切にしています。何かを手伝ってくれた人に必ず会ってお礼を伝え、会えない場合には電話で伝えることを忘れません。相手のためと思ったことは、愛情をもって、苦言であっても、すぐにはっきり伝える。「自分のまわりの人を大切にするだけ。まわりの100人くらいの人に自分は支えられていると思う」と言っていたのが印象に残っています。漁師の作業だけでも重労働ですが、日々身体を鍛えることを今も変わらず続けています。「心を鍛えているのだ」という言葉の通りに淡々と日々生活する姿は、現代版の修験者かもしれません。

 覚悟を決め自分を信じ、目の前のことを本気でやり切り、一瞬一瞬を楽しみ、周りの人と丁寧に付き合う。このような山本さんの「生き様」に感化され、働く意義や人生の意義、人と人との付き合い方を考えるようになった人も多くいます。私もその一人です。ひとりの人の「生き様」で世の中が変わる、後世に何かが伝わっていく。そのような時代になった(戻った)ように感じています。

体を鍛える山本圭一さん

※IB:International Baccalaureate 国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。国際バカロレアは1968年、チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、世界の複雑さを理解し、そのことに対処できる生徒を育成する。生徒に対し、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置。現在、認定校に対する共通カリキュラムの作成や、世界共通の国際バカロレア試験、国際バカロレア資格の授与等を実施>文科省も積極的にIB認定校を増やそうとしていて現在、日本では35校。文部科学省のHP参照(http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/ib/1307999.htm)