日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

教科書は街おこし(1)街おこしは人生最高のビジネススクールだ!

久米信行 authored by 久米信行久米繊維工業会長
教科書は街おこし(1) 街おこしは人生最高のビジネススクールだ!

 はじめまして。日本でいちばん最初のTシャツ「色丸首」を作ったメーカー久米繊維工業取締役会長の久米信行と申します。祖父が1935年に東京の下町墨田区で創業し、私で三代目。おかげさまで今年80周年を迎えました。

 企業経営のかたわら、明治大学商学部「ベンチャービジネス論」など高校から大学院まで講師もつとめ、20万部を超える若者向けのベストセラー「考えすぎて動けない人のための『すぐやる技術』」など自己啓発本の著者でもあります。

 私は「街おこしは人生最高のビジネススクール」だと考えています。今、日本全国で盛り上がる観光地域づくりのプロジェクトや地域の中小企業へのインターンシップ参加すれば、大学では出会えない達人たちから、講義では学べない現場の知恵と生きる喜びを体得できるのです。街おこしを通して学生の皆さんがどのように成長できるのかを紹介していきます。初回は私がどんなことをやっているのか、自己紹介をさせていただきます。

新卒でベンチャー企業へ

 幸か不幸か、大学卒業から50歳を越えた今まで、私は「崖っぷち人生」を歩んできました。もちろん自らそれを望んだわけではありません。どちらかと言うと、私はリスクに飛び込むというより受け身なタイプの人間です。それなのに、なぜかどこへ行っても明日をも知れぬ危機的な状況にまきこまれてしまう半生でした。起業や事業創業をしないと生き残れないような苦境の中でもまれて、なんとか生きてきたのです。

 まずは、大学卒業後、創業期ベンチャー「イマジニア」の神蔵孝之社長に魅せられて入社。すぐにファミコンゲームソフトを顧客リストも無しに飛び込み営業することになりました。見知らぬ街を歩いて玩具店を見つけては、初対面の店主に売り込む毎日。商品が売れないどころか門前払いされるところからのスタートです。どうすればお客様に話を聴いていただけるか、自分で考えて行動しなければなりませんでした。

東京・墨田区にある久米繊維ファクトリーショップの店内

 人材不足もあって、営業から帰った後、終電までの夜中に、日本初の株式ゲームソフト「松本享の株式必勝学」の企画開発担当にもなりました。実は、私はゲームをするのもゲームをする子供も嫌いだったのです。よりによって嫌いな商品で世の中に無いものを生み出す辛さ厳しさを味わうことになりました。幸いにしてヒット商品になって、不思議とその仕事が好きになった自分に驚きました。

 一番の収穫は、革新的で後で人気を収める新商品も、当初は誰もが相手にされないことを学んだことでしょう。新しいことをする人は、最初は理解されるどころか冷笑されることを知ったのです。

転職して大手金融機関へ

 続いて、当時絶好調だった四大証券会社のひとつ日興證券(現SMBC日興証券)の神戸孝さんに誘われて転職。日本初のAIを使った人生設計システムの開発と、ファイナンシャルプランニング営業の導入に関わることになりました。

 バブル全盛で「今日儲かる株は何か」とお客様も営業スタッフも浮かれていた時代に、ライフプラン作りからじっくり相談をすることを勧めるのです。支店の人から見れば、期待されるどころか余計なお世話の新プロジェクトでした。だからこそ、中途採用で文系の私にも相続相談システムの企画開発リーダーを任してくれたのでしょう。いきなり自分の能力よりも高い要求水準の新サービスを開発する大変さを味わいました。そして新しいものを作ることよりも広める研修や営業の方が、はるかに難しいことを体感したのです。

 しかし何より恐ろしかった(今となってはありがたい)経験は、バブル崩壊でした。日本中が浮かれる中で、自らも大損をすることになったのです。そして、怒り心頭の支店のお客様の前で、セミナー講師を務めるという修羅場にも立たされました。おかげで、若くして、どんな人の前でもどんな場所でも臆せず、堂々と講演ができるようになりました。

久米繊維ファクトリーショップ

家業のTシャツメーカーの後継者に

 そして30歳を目前にして、今は亡き父に「バブルが崩壊して不景気になるので経営の勉強になるから」と口説かれて、家業の久米繊維に戻ります。

 当時は、株価こそ下がってもバブル経済のおかげで戦後最大とも言われる好景気で、工場生産が間に合わないほどでした。しかし、私はなぜか集金係を任命されました。これから倒産の激増が予想される中、売掛金の回収や、売って良いお客様を見極める与信管理を任されたのです。やがてデフレスパイラルに陥り、お客様の資金繰りが悪化する中で、集金係として厳しい取り立てもしなければなりませんでした。上場企業から個人事業主まで、お金で行き詰まる地獄を目のあたりにすることになったのです。

 それは人ごとではありません。お得意様がどんどん倒産や廃業に追い込まれれば、私たちも販売先に困ります。さらに追い討ちをかけるように、量販店や大手アパレルなどの上得意先が安価な海外の工場に生産拠点を移して注文が激減、土砂降りのように海外製品が輸入されるようになりました。

 そこへきて、テレビドラマにもなった半沢直樹シリーズのように、中小企業への貸し渋りや貸しはがしが始まります。担当者から「社名に繊維とか工業とかつく会社には貸せない」とまで言われたことまでありました。当時は生きた心地がしませんでした。

インターネットとエコで再生

 新しいお客様を見つけなければ倒産すると、インターネット通販に誰よりもはやく飛びつき、見よう見まねで情報発信を始めました。早くはじめたこともあり、日経インターネットアワードをいただくなど注目を集めて、なんとか新しいお客様も増えました。

 そして地球環境問題に対する意識の高まりも予感し、いちはやくグリーン電力やオーガニックコットンの導入も始めました。安価な海外製品よりも、エコロジカル(環境配慮)やエシカル(倫理的)な私たちの製品を選んでくださるお客様も増えました。

 また、メイドインジャパンの価値を高めるため、世界が注目する日本文化を先取りしようと考えました。地元墨田区が誇る北斎はもちろんのこと、日本酒の蔵元や老舗企業などとのコラボレーションにも取り組みました。今では、成田空港はじめ多くの場所に並び、海外のお客様はもちろん日本を愛する国内の方々にご指名をいただけるようになりました。

 東京スカイツリー建設で盛り上がる、墨田区の観光地域づくりも新たなビジネスチャンスでした。私たちの社員が「すみだ日本の技と酒めぐり」や「すみだストリートジャズフェスティバル」などは、イベントを盛り上げながらTシャツも着ていただける「ことおこし」のリーダーに育ったのです。

 とは言え、驚くなかれ今や日本国内での繊維製品の自給率は3%台(Tシャツやセーターなどニット製品は1%未満)まで落ち込んで、私たちは絶滅危惧種です。ありがたいことに、私たち久米繊維は、第二創業とも言うべき新しい取り組みのおかげで、なんとか生き残ることができました。現在は「日本でこそ作りえるTシャツを世界へ。未来の子供たちへ」をモットーに、私よりも優秀な2人の弟たちを中心に全社一丸で「ものづくり」と「ことおこし」に取り組んでいます。

地元で、全国で「街おこし×ひとづくり」

パソコンをリセットするように気持ちも毎日一新

 これからの私のライフワークは、地元墨田区はもちろんのこと日本全国で「街おこし=観光地域づくり」と「ひとづくり=起業家教育」を同時に実現することです。いわば「街をビジネススクールにする」ムーブメントをまきおこしたいのです。

 文部科学大臣の下村博文さんは、最近の雑誌インタビューで、興味深い予測数値を引用しながら、現在の教育に警鐘を鳴らしました。

「ニューヨーク州立大学大学院のキャシー・デビッドソン教授は「今の子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就く」と言っている。また、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は「今後10~20年で約47%の仕事が自動化される」と言った。なのに、今まで通りの教育をしていたら、失業者をどんどん出すことになる。」(週刊ダイヤモンド 2015年8月22日号)

 下村大臣が指摘するように、残念ながら現在の中学・高校・大学で学べることは限られています。私が理事・委員などを務める観光地域づくりプラットフォーム推進機構、東京商工会議所 起業・創業支援委員会、日本財団CANPANセンターなど数多くの団体のリーダーが、これからの日本を担う新しい資質を備えた人財の不足を問題視しています。

 この連載コラムでは、これまでの私の経験やスキルもお伝えしながら、これから大きく変革する社会で求められる人財像や、みなさんが理想像に近づくための具体的な方策などを示します。それは、ただ社会人基礎力や就活力の向上や、人脈づくりも含めた起業家教育を目指すものではありません。

「人は幸せになるために生きている」
「自分を幸せにできるのは自分だけ」
「幸せな人は自分で考え自分で決め自分で動く」
「幸せな人は世のため=自分のために生きる」

 こうした「元気のでる幸せな生き方」「社会に役立つ働き方」について具体的な事例を交えてお伝えしていきます。新しい時代が、みなさんにとって大きなチャンスであり、私よりももっと楽しい人生を送れる可能性が高いと考えているのです。どうぞこれからおつきあいください。

久米信行(くめ・のぶゆき) 1963年東京墨田区生まれ。慶応義塾大学で中国経済を学ぶ。イマジニアでファミコン株式ゲーム、日興証券でAI相続診断システムを開発後、家業の国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目(現在は会長)となる。いちはやくネット通販やSNS活用に取組み、日経インターネットアワード、IT経営百選最優秀賞、東商勇気ある経営大賞特別賞受賞。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、東京商工会議所起業・創業支援委員、特)CANPANセンター理事として起業家育成に注力。東京商工会議所墨田支部 副会長、社)墨田区観光協会理事、墨田区文化振興財団 評議員、新日本フィルハーモニー交響楽団評議員、北斎コミュニティデザイン実行委員長として、地元の観光地域づくりに邁進。著書は『すぐやる技術』『仕事と人生が同時に上手くいく人の習慣』『ビジネスメール道』『ピンで生きなさい』など多数。