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僕ら流・社会の変え方(11)これからの政治家に求められる
「弱いリーダーシップ」とは

横尾俊成 authored by 横尾俊成NPO法人グリーンバード代表/港区議会議員(無所属)
僕ら流・社会の変え方(11) これからの政治家に求められる「弱いリーダーシップ」とは

横尾俊成の僕ら流・社会の変え方(11) 

 前回は、学生の皆さんにもできる「社会の変え方」として、政治を使いこなす5つの方法をご紹介しました。今回はその方法を実践する「場所と環境づくり」が得意な政治家の話をします。キーワードは「1人の専門家より、1万人の考える素人の知恵」を引き出す仕掛けづくりです。

政治家による「強いリーダーシップ」の限界

 突然ですが、皆さんは政治家に何を期待していますか。

 政策を提案すること? 予算を決めること? 今後、日本全体や地域はどういう方向に進むべきか、そのビジョンを提示すること?

 地方議員である私が街でよく言われるのは、「働きたくても子どもを預ける場所がない。何とかしてほしい」や「子どもが周りの目を気にせず思いっきり遊べる場所が欲しい」、「道が舗装されておらずベビーカーや車いすが通りづらい」、「ごみのポイ捨てが多くて困っている」といった具体的な要望です。

 その要望の大きい・小さいはあっても、これまで、政治家は一般的に、町会や自治会、商店会など「声の大きな」組織や人の声を聞き、その人たちのために政治の現場で駆け引きをし、利益を誘導することが求められてきたように思います。そして、その役割を果たすには、みんなの意見を束ね、みんなをぐいぐいと引っ張っていく「強いリーダーシップ」が必要でした。

 しかし、前にもお話した通り、日本はこれから確実に人口が減り、解決しなければならない課題が増えていきます。人口が減るということは予算が減るということ。行政が様々な課題を全て解決してくれるとは限らない時代に入りました。つまり、予算が潤沢にある時と違い、政治家が課題解決のためのお金を引っ張ってきづらくなってきたのです。これからの政治家には、まずそうしたことを有権者、生活者に丁寧に説明し、理解してもらった上で、「自分たちの街は自分たちの力で解決する」もしくは「当事者意識をもって動く」人を増やしていくことが求められます。

大切なのは、「弱いリーダーシップ」

 今政治家に必要なのは、人を引っ張る「強いリーダーシップ」ではなく、担い手を増やす仕掛けづくりに徹する「弱いリーダーシップ」でのアプローチだと思います。街の人から信任を受け、人一倍「地域のために」という気持ちが強い政治家は、その得意を活かして社会の課題を解消するために、一人で全てを背負うのではなく、思い切ってみんなに頼ってしまうこと。そして、みんなが動きやすい仕組みをつくり、参加することが楽しくなる仕掛けをつくることに専念するのです。

 大切なのは、ワークショップの「ファシリテーター」的な動きだとも言えるしょう。「ファシリテーター」は、たとえば会議の場では、会議の参加者が本当は何を求めていて何を実現したいのか、また、それぞれの強みは何かを理解することに集中しています。大きな方向付けをするというよりも、参加者が意見を出しやすい雰囲気をつくったり、参加者同士の協力が生まれやすい場を用意したりすることを意識しているのです。

 傍観者が当事者になり、街に対して無関心だった人が積極的な人になると、地域の様々な問題が自然と解消に向かいます。例えば、先ほどの「働きたくても子どもを預ける場所がない。」という問題は、子育てが終わった人たちや学生さんの力を借りて、みんなで子育てをする環境をつくることよって(多額のお金をかけずに)解決できるかもしれませんし、「ごみのポイ捨てが多くて困っている」という問題は、多くの人がごみ拾いに参加しやすい仕組みをつくったり、企業と組んで思わず持ち歩きたくなる携帯灰皿を開発したりすることで、解決するかもしれません。

みんなが「参加の場」をデザインする

 では、私たち有権者に求められることは何でしょうか。まず、行政が持っているルールや制度をもう一度見直す視点を持つことです。今まで行政がやってきたことは本当に必要なのか、時代に合っているのかを考えてみる必要があります。次に、それを踏まえて、「私たちにできることはないか」「ここは自分たちの手で変えられる」という部分を見つけ、それに対して小さなアクションをしてみるということです。

 政治や行政の領域に今まで関わってこなかった「私」の声、特に学生や若手社会人、女性の声を届けることで、新たな視点が加わり、そこから、これまでのルールや制度が少しずつ変わっていきます。普段政治や行政と関わっていない人が、小さなことでも政治や行政に意見を届ければ、それによって政治も政治家も違った視点を持つことができるのです。分野によっては、実は、自分の住む街を「自分好みに変えていく」ために一番照手っ取り早い方法は、政治家に頼らず、街を良くするためのアイディアを自分たちの力で実践してしまうことだということに気づくかもしれません。

 有権者が「自分たちでできることは自分たちでやる」という意識を持ち、具体的に動いて行く一方、政治家が「できるだけ物事を効率化しつつ、みんなの力を借りて質の高いサービスを提供すること」に注力すれば、有権者と政治家の関係は「与え、与えられ」の関係からよりフラットなものになっていきます。有権者も政治家も同じ立場で、それぞれの得意を活かして、(政治家は「政治」という手段を使って)街に積極的に関わっていけばいいのです。

 誰もが持つ「あんな場所に住みたい」を、「自分たちの街をもっと好きに変えていく」ためにも、みんなが、自分の住む街をプロデュースできる「街のプロデューサー」に、もしくは参加の場をデザインできる「ファシリテーター」を目指していければと思います。キーワードは、「1人の専門家より、1万人の考える素人の知恵を活かして行う街づくり」です。

 ここまで3回に渡って、社会を変える方法とその心構えを説明してきました。こんな風に語っている僕ですが、実は昔は、人前で話すことも苦手でしたし、ましてや政治とか社会と関わろうなんて、一切思っていませんでした。次回は、そんな僕がどうして「社会を変える」に目覚めたのかを中心にお話ししたいと思います。次のキーワードは「迷ったら全部やる!」です。

横尾俊成(よこお・としなり) NPO法人グリーンバード代表/港区議会議員(無所属)。早稲田大学大学院修了、広告会社の博報堂を経て現職。まちの課題を若者や「社会のために役立ちたい」人の力で解消する仕組みづくりがテーマ。第6回マニフェスト大賞受賞。月刊『ソトコト』で「まちのプロデューサー論」を連載中。著書に、『「社会を変える」のはじめかた』(産学社) HP:http://www.ecotoshi.jp Twitter: @ecotoshi