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使える! ロジカルシンキング(2)「常識」から自由になろう
“ケタ違い”発想法とは

使える! ロジカルシンキング(2) 「常識」から自由になろう“ケタ違い”発想法とは
authored by 中田亨産業技術総合研究所主任研究員

常識が発想の邪魔をする

 「非常識な人」は大変迷惑ですが、一方で常識にとらわれた生真面目すぎる人も考えものです。常識が作り出す先入観のために、ロジカル(論理的)に考えられなくなってしまうのです。

 例えば、
「私の息子二人は、生まれ年も誕生日も同じなのです」
「ということは、つまり双子というわけですね」
「いいえ、双子ではありません」

 という会話は、常識的に考えると意味が通りません。「双子」ではなく、「三つ子」や「四つ子」という可能性に気がつけば不思議でもなんでもないのですが、こうした「非常識」な発想はすぐにはできないものです。

 学校の勉強でも「数学の問題が苦手」だったという人は、常識にとらわれすぎているのかもしれません。有名な問題ですが、「1+2+3+・・・+98+99+100=?」という計算をパッと解けるでしょうか?

 数学者ガウス(ドイツ、1777年~1855年)は、少年の頃に学校でこの問題が出された際、一瞬のうちに5050という答えを計算してしまいました。ガウス少年は、足し算の順番を入れ替えて、1+100、2+99、3+98といったペアを作り、それぞれの合計が101であるペアが50組あることを見抜いたのでした。これは、常識にとらわれない、「スマートな(頭のいい)」発想の代表例と言えましょう。

 頭のよさとは、斬新な解決法を次々と思いつき、難しい問題をスラスラ解ける能力のことですが、それは結局、常識にしばられない自由な発想ができるかどうかの一点に集約されるのです。

「材料不足」を「期間限定」に

 自由な発想というと難しそうですが、思考のテクニックを使えば、誰でも常識のしばりを逃れて自由な発想ができるようになります。

 その有効なテクニックの代表が「逆説で考える」ことです。逆説とは、常識とは正反対の主張のことです。多くの問題は、逆説から考えた方が、むしろ簡単に解けるものです。

 例えば洋菓子メーカーで、材料となるスイカが不足気味だという問題があったとしましょう。夏ならいくらでも手に入るのに、それ以外の時期は新鮮なスイカは手に入りにくく、一年を通じて製品を安定して作ることができません。

 そこで、
「申し訳ありませんが、この製品は冬は製造しておりません」
と謝るのは、頭の固い常識人のすること。

 逆説的発想に基づけば、
「ついに今年もスイカの季節がやってきました!夏季限定特別商品です!」
と、希少性をアピールして販売するという案が出てきます。

 「季節限定」や「ご当地限定」とうたった商品をしばしば見かけますが、それは「災い転じて福となす」、逆説の発想の産物かもしれません。

 通常は数千円で売られている商品があるとします。その中に、数百万円や数千万円のものがあったらどう思いますか? しかも、値段が高い割に性能はそれほど高くなく、むしろ劣るとしたらどうでしょう。常識的には「そんなものは誰も買わない」と考えますよね。

 そんな超高額商品って? それがまかり通るのが、腕時計の世界です。普通の電池を使う腕時計は電気仕掛けできわめて正確に時を刻みますが、有名ブランドの数百万、数千万円という超高級時計は電気を使わない機械式のため、誤差が多めに出てしまいます。時計本来の性能という点では、高級品の方が劣っています。それでも、ブランドの魅力により、極端な高額でも買い手がつくのです。

 実のところ、日本の時計メーカーはこの逆説的現象に悩んでいます。日本のメーカーは「時計は正確なほどよい」や「安いほどよい」という常識を追究し、一時は世界の腕時計市場を安価な電気式時計で制覇しました。

 しかし最近は、中国製品などにより電気式時計の極端な値下がりが進み、ほとんど利幅がなくなってしまいました。そして高額な機械式時計の方が人気があり、利幅も大きく、うま味があるという状況になっています。高級機械式時計で稼いでいる有名ブランドは、もっぱら欧州のメーカーなのです。「時計は安くて正確なものがよいわけではない。芸術品であり、昔ながらの技法で手間をかけて作るものの方が尊い」という逆説的な考えの方が、実際のビジネスでは優勢なのです。

「重さ1グラムのかばん」で何ができる?

 2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士の大発見は、実は間違いがきっかけでした。科学では1000分の1を意味するm(ミリ)という記号を使います。ある時、白川先生の研究室のスタッフがこの小さな記号を見落とすというミスをして、薬品の量を通常の千倍にしてしまったのです。しかし、その時たまたま合成された物質が、「電気を通すプラスチック」という大発明への最初の一歩となったのでした。

 このように、新天地への入り口は常識から1桁どころか、100倍以上、3桁ほどずれた所にあるものです。だからこそ、アイデアが浮かばない時には、あえて数字を3桁間違えてみるといいでしょう。つまり、1を1000にしたり、1000を1に置き換えて考えるのです。

 「1日1000人の客が訪れる店」は、中規模の店舗としては普通ですが、そこを「1日1人しか受け入れない店」に置き換えてみましょう。この言葉の通りイメージをふくらますと、「セレブ専用の隠れ家的レストラン」というビジネスモデルが思いつきます。

 日常生活で目に入る常識的な光景は、全てこの方法で疑ってみることができます。例えば、「重さ1キログラムのカバン」という当たり前のものが、今私の目の前にあります。ここから「重さ1グラムのカバン」をイメージしてみてください。もし、そんなカバンがあったとしたら、アリに背負わせることができるでしょう。「カバンに肥料を入れ、アリに地中深くまで運ばせるという新技術はどうだろう?」という具合に、新しい発明まで想像できるのです。

 自動車王ことヘンリー・フォード(1863~1947年)は、こう言っています。「顧客の要望をそのまま聞いていたら、私は自動車を作らずに、馬を勧めただろう」。偉大な起業家には、常識を嫌うという共通点があります。それは、自由な発想を可能にするためのテクニックなのです。

中田 亨 (なかた・とおる) 1972年横浜市生まれ。2001年、東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。現在、国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター・主任研究員として、人間の知能と社会の安全を研究中。中央大学客員教授を兼務し、卒論の書き方を指導中。著書に『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』(朝日文庫)、『理系社員のトリセツ』(ちくま新書)ほか多数。

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