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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ロボットが変える未来(1)ダビンチ・アンドロイドに託す夢

浅田稔 authored by 浅田稔大阪大学教授
ロボットが変える未来(1) ダビンチ・アンドロイドに託す夢

 ロボット研究の第一人者、大阪大学の浅田稔教授が中心となって、ルネサンス期の巨匠、レオナルド・ダビンチそっくりのロボットを開発しました。特殊な素材で覆われた顔を空気圧で動かし、さまざまな表情を浮かべることを可能にしたものです。このような人間そっくりのロボットをアンドロイドと呼びます。浅田教授に、人間とロボットの将来像を踏まえながら、開発の狙いを語ってもらいます。

ダビンチが生きていたらロボットを開発したはず

 学生の皆さんには、まず、ダビンチについて理解を深めてもらいたいと思います。イタリアのルネサンス期に活躍したのがレオナルド・ダビンチ(1452~1519)です。科学者でありながら、画家であり、彫刻家であり、建築家でもありました。ダビンチはヘリコプターの祖先やパラシュートの原型に関する資料、イラストを残しています。

 鳥の飛翔に魅せられながら、当時の最先端技術を駆使して、詳細な設計図を描いたことに驚かされます。ダビンチがいま生きていたら、人類最大のミステリーである「知能」の問題に挑戦していたことでしょう。そして、その謎を解くために、間違いなくロボットをつくっただろうと確信しています。

学術・産業界の将来につなげ、子どもの教材にも活用

ダビンチ・アンドロイドを都内でお披露目した浅田教授(8月21日、東京・京橋にて)

 ダビンチは科学、技術、芸術という広範な分野を、ひとりで実現した類まれな才能の持ち主です。現代社会ではすべての研究が細分化され、誰もが小さな専門分野にはまり込んでいます。本来は哲学者がこうした問題の架け橋になるべきところですが、現実には難しいようです。いまこそ、多様な分野をカバーする学際的な視野を持った人材の育成が必要だと思います。そのためのシンボルとして、知の巨人であるダビンチを現代に蘇らせたかったというわけです。

 ダビンチそっくりなロボットをきっかけに、現代の学術や産業界の問題点から、将来の展望まで考えたいのです。大人だけでなく、子どもたちの教育の題材にも活用できたらと考えています。さらに、ロボットと人間の関係を見つめなおすきっかけにもなるはずです。

イタリア側と綿密な打ち合わせ

 ここでロボットに詳しくない学生でも分かりやすいように、ロボットの分類について説明しましょう。まず人型のロボットと、人型ではないロボットがあります。人型ロボットをヒューマノイドと呼び、ホンダの二足歩行ロボット「アシモ」が代表例です。さらに人型のなかでも、人にそっくりなロボットを人間酷似型ロボットとかアンドロイドと呼びます。マツコ・デラックスさんのアンドロイドである「マツコロイド」が皆さんの記憶に新しいところでしょう。今回つくったダビンチのロボットも、このアンドロイドの仲間ということになります。

 ダビンチ・アンドロイドの開発作業は、私が理事長を務めるNPO法人ダ・ヴィンチミュージアムネットワーク(大阪市)やロボット開発のエーラボ(東京・千代田)が中心になって取り組みました。さらにダビンチの本場であるイタリア・ミラノのレオナルド・ダビンチ国立科学技術博物館の館長をはじめ、学芸員のひとたちと親好を深めながら、情報交換も進めました。

ダビンチが考案した「ヘリコプターの祖先」の模型=左=と、「パラシュートの原型」の模型(ともに新千歳空港「大空ミュージアム」展示)

ダビンチならではの開発の苦労

 実は、これまで世に出たアンドロイドはほぼすべてが、実際に生きている人物をモデルにしています。マツコさんの場合も、本人の頭からつま先までの全身を型取りして開発したものです。これに対して、ダビンチはもうこの世にはいません。ここが苦労した点でした。ミラノと米ニューヨークでダビンチを演じている俳優、マッシミリアーノ・フィナッツェル・フローリーさんの協力も得ながら、自画像をはじめ様々な資料をもとに、ダビンチの外観を探ったのです。

 例えば、身長は190cm説と170cm説があるのですが、議論の結果、170cm説を採用しました。ダビンチ・アンドロイドを見てもらえば分かりますが、われわれは高齢の外観としました。これが日本で最もイメージされる姿に近いと判断したからです。イタリア側は「もっと若いイメージのほうがよい」と主張してきましたが、こちらの主張を通させてもらいました。

なめらかな動きに特徴

 顔や首の動きは、空気圧で制御し、表面には特殊な素材を使っています。人とロボットとの円滑なコミュニケーションを考えると、ロボットは人に似た形のほうがよく、素材も人の肌に近い感覚のものが最良だと判断しました。電動モーターを使うより、なめらかな動きが可能になります。

近寄ると、ダビンチ・アンドロイドのリアルさに目を見張る

 目には小型カメラを搭載し、パソコンを通じてダビンチ・アンドロイドの目線を確認できます。声はあらかじめ、イタリア人にイタリア語で「こんにちは。私はレオナルド・ダビンチです」などと吹き込んでもらいました。録音した声を流せるよう、ダビンチの顔にはスピーカーも埋め込んであります。もちろん録音だけでなく、パソコンに接続したマイクを通じて、私が関西弁でリアルタイムに会話することも可能です。

 イタリアで開かれている「ミラノ国際博覧会」に合わせて、ダビンチ・アンドロイドは9月いっぱい現地のダビンチ博物館に展示しました。私も実際に9月初旬、ダビンチ博物館に出向き、現地メディアにお披露目してきました。多くのメディアが集まってくれ、ダビンチの人気ぶりに驚きもしました。子どもたちも興味深そうにのぞきこんでいました。10月以降は日本に戻ってきますので、日本の学生の皆さんにも直接見てもらえる機会を是非、設けたいと考えています。

(聞き手は村山浩一)

浅田稔氏(あさだ・みのる) 大阪大学教授、大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻。滋賀県出身。1982年大阪大学大学院基礎工学研究科後期課程修了。 1989年工学部助教授。1995年同教授。 1997年工学研究科知能・機能創成工学専攻教授。 工学博士(大阪大学)。1986年から1年間米国メリーランド大学客員研究員。 ロボカップ創設者の1人であり、認知発達ロボティクスの第一人者。

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