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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ロボットが変える未来(3)赤ちゃんとロボットの関係

浅田稔 authored by 浅田稔大阪大学教授
ロボットが変える未来(3) 赤ちゃんとロボットの関係

 ロボット研究の第一人者、大阪大学の浅田稔教授が中心となって、ルネサンス期の巨匠、レオナルド・ダビンチそっくりのアンドロイドを開発しました。ロボットを通じて、人とロボットの関係を明らかにする狙いがあります。浅田教授に、人間はロボットとどう付き合っていけばいいのか語ってもらいます。

「人間を理解するため」のロボットという視点

 果たしてロボットとは何者でしょうか? 米国のSF作家、アイザック・アシモフは「アイ・ロボット」のなかで、「ロボット三原則」を指摘しています。すなわち、「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」「ロボットは、前の第一原則に反しない限り、人間に与えられた命令に服従しなければならない」「ロボットは、前の第一、第二原則に反しない限り、自己を守らなければならない」というものです。こんな高度なロボットはまだ誕生していませんが、ここではロボットは人に代わって労働させる存在、ということが前提になっています。

「人間を知るためのロボット」という切り口を指摘する浅田教授(大阪府吹田市の阪大の研究室で)

 「労働」のほかに、人型のロボットの場合、「エンターテインメント」を狙った例が多くみられます。日本の伝統工芸の「からくり人形」もこれに当てはまるでしょう。しかし、ここで指摘したいのは、「人間を理解するためのロボット」という新たな切り口があることです。

赤ちゃんの理解に欠かせない

 今回開発したダビンチ・アンドロイドも、人間とは何かを考えるきっかけにしてもらいたいと考え、世に送り出した経緯があります。「人間を理解する」というもっと分かりやすい例を紹介します。人間の赤ちゃんについて考えてみましょう。昔は、赤ちゃんというものは全く白紙の状態で生まれてくると考えられていました。しかし、実は、かなりの能力を身につけていることが分かってきました。

ダビンチ・アンドロイドを開発したのも、これからの日本を考えてのこと

 生後6カ月までの赤ちゃんは世界中の言語の母音を識別しますが、以降は母語の影響を受けるといわれています。また、生後1年間の間に様々な行動や能力を獲得していきます。例えば、お母さんの動きのまねをしたり、ちょうど1歳の誕生日を迎えるころには、ごっこ遊びなども始めます。このように、たった1年でさまざまな行動や能力を学習するロボットを、我々は作れません。なぜなら、どのようにしてそれが可能なのか、分からないからです。

機能や発達のメカニズムを調べる

 赤ちゃんが自分の体をどのように認知し、言葉を覚えていくのか。残念ながら、赤ちゃんは、こちらの研究に協力してくれません。研究の意図をまだ理解できないからです。代わりに役立つのが、赤ちゃん型のロボットです。ロボットを通じて、赤ちゃんの機能や発達のメカニズムを調べることができます。さらに、誕生前の胎児の発達メカニズムの研究にいたっては、なおさらコンピューターシミュレーションやロボットで代替するしかないのです。まさにロボットを作ることで、人間を知ることができるわけです。私が「日本赤ちゃん学会」の理事を務めているのも、人間の赤ちゃんの発達とロボットの関わり合いが重要だからなのです。

赤ちゃんを知るにはロボットが有効(写真は新生児室に並ぶ可愛らしい赤ちゃん)

隔離された赤ちゃんの悲劇

 ここで、かつてのルーマニアの例を紹介しましょう。独裁的な最高指導者だったチャウシェスク政権のもとで、多くの赤ちゃんが施設に隔離されました。家庭の温かさを知らず、社会性を身につける機会も奪われた子どもたちの多くは知能が低く、精神状態も不安定になってしまいました。

 こうした観点からいうと、最近、国内で問題になっている、未熟な親による育児放棄は深刻です。子どもの成長に著しく悪影響を及ぼしますので、未熟な親の存在は社会的に実にハイリスクであり、少しでも減らす社会環境が必要だといえます。

 以上のような現実を踏まえながら、これからも「人間を理解するため」のロボットという視点から、幅広く研究に取り組んでいきたいと思います。学生の皆さんとも、活発に議論を深めていけたらと考えています。

(聞き手は村山浩一)


浅田稔氏(あさだ・みのる) 大阪大学教授、大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻。滋賀県出身。1982年大阪大学大学院基礎工学研究科後期課程修了。 1989年工学部助教授。1995年同教授。 1997年工学研究科知能・機能創成工学専攻教授。 工学博士(大阪大学)。1986年から1年間米国メリーランド大学客員研究員。 ロボカップ創設者の1人であり、認知発達ロボティクスの第一人者。

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