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「ソーラーカー世界一」奪還へ
東海大が究極の車体

「ソーラーカー世界一」奪還へ東海大が究極の車体

 オーストラリアで10月に行われる世界最大級のソーラーカーレースで東海大が雪辱を期す。2009年、11年と圧倒的な性能で連覇を果たしたが、13年の前回大会ではオランダチームに苦杯を喫した。素材から空力設計まで、先端技術の粋を集めた「未来の車」の戦いには日本の物づくりの威信がかかっている。

今年は25カ国・地域から46チームが参戦

 大会は「ブリヂストン ワールド ソーラー チャレンジ 2015」。1987年から始まった伝統のレースで、隔年で開かれている。ダーウィンからアデレードまで、オーストラリア大陸を北から南へ縦断する3000キロの壮大なレースは、南アフリカ、チリの大会とともに、ソーラーカーレースの三大大会に数えられている。

 今年の大会には25カ国、地域から大学チームを中心に46チームが参戦する。ソーラー技術への関心が高まり、欧米中心だった参加国がインド、マレーシアなどアジア地域、イランやアラブ首長国連邦など中東地域など広がりをみせているのが近年の傾向だ。

モーター音だけを響かせて走る「Tokai Challenger」

 09年、11年はデルフト工科大(オランダ)やミシガン大学(米国)といったライバルを圧倒した。世界最高レベルのエネルギー変換効率を誇るパナソニック製のソーラーパネルやリチウムイオン電池、東レの炭素繊維「トレカ」を用いたボディー......。盤石なソーラーカーの基幹技術に、天候の変化に対応し、ロスなくエネルギーを使っていく走行ノウハウを合わせた総合力で他を寄せ付けなかった。

 1993年大会から参戦し、ついに世界トップの地位を固めたかにみえた東海大だったが、13年は思わぬ黒星を喫した。デルフト工科大に敗れたのだ。

ルールすれすれ、ライバルの奇策に敗れる

 敗因はソーラーシステムの基幹技術とはあまり関係のないところで生じた。レースの中でもチェックポイントや、一日の終了時に車は止まる。停止中も太陽が出ている間は充電可能で、ここでの蓄電がレースの1つのポイントになる。

レースは長丁場。20人の学生がドライバー、補給、天候調査などの仕事を分担する

 デルフト工科大はルール上、疑義が生じかねない作戦に出た。集光レンズと支援車両に積み込んだ三脚を用いて、エネルギーを獲得したのだという。この操作によって、同大は細工を施さなかった場合と比べ、プラス15パーセントほどのエネルギーを得たとみられている。

 ソーラーパネルなどの基本性能で多少のアドバンテージがあるとしても、それほど差がつくわけではなく、集光の"荒技"がもたらした出力の差は決定的なものになった、と東海大側は見る。

 ソーラーカーの「本分」は車と太陽の光だけで走ることで、外部からの走行支援が一切ないことを原則としている。デルフト工科大が用いた集光レンズはソーラーカーに積んでいたものだが、三脚は普段は別の支援車両に積み込んであるものだったために、ルールに適合するかどうか微妙だった。東海大はレース期間中に大会本部に抗議したが、受け入れられなかった。

大学構内を試走する「Tokai Challenger」

 結局2位。やるせない結果となったが、さらなる技術革新への執念をかき立てられたという点ではこれも天が与えてくれた試練、ととらえるべきものだったかもしれない。

車体の厚みは13センチ、究極の薄さに

 2015年型「Tokai Challenger」はソーラーシステムからタイヤ、空力性能まで一層研ぎ澄まされたものになった。

 パナソニックの太陽電池モジュールのエネルギー変換効率は13年型の22.5パーセントから23.2パーセントにアップ。量産型の太陽電池としては世界最高水準の性能だったものを一段と進化させた。

極限までコンパクトにしたコックピット

 タイヤは13年から大会自体の冠スポンサーになっているブリヂストンが提供する。かつてはミシュランのほぼ1社提供だったが、環境技術の追求の一環として、ブリヂストンも専用の転がり抵抗の少ないタイヤを開発し、参戦した。

 他にもブリヂストン製を採用するチームがあるとみられるが、東海大は開発段階から協力してきたのが強みだ。「タイヤの特性を熟知しているのが他チームとの違い」と、チーム総監督の木村英樹工学部教授(電気電子工学)は語る。

ソーラーパネル部分の車体の厚みは30センチから13センチへ

 航空部門などで活躍している東レの炭素繊維の性能はいわずと知れたところ。ただ、ソーラーカーのボディーとなるには空力設計と、それに基づいた成型技術が必要になる。今回はチームのメンバーである学生も成型工程に携わった。

 空力性能を追求し、部品の配置などを含めて全面的にデザインを見直した結果、車体部分(運転席を除く)の厚みは30センチから13センチへと、究極の薄さになった。長距離を走ってみないとわからない部分があるものの、計算上は10パーセントほど空気抵抗を減らせるとされている。

オーストラリアの公道を走る配慮も

 こうしてできあがった車体はイメージで言うと、宇宙ステーションのソーラーパネルに車輪を取り付けた感じ、といったところだろうか。

 そのデザインはオーストラリアの気候、風向、左側通行という一般道の通行条件など、細かなところにまで配慮したものになっている。すべてはやがて太陽の力だけで走る車を実用化させるという、大きな夢に向かっての努力だ。

タイトル奪還を期す大塚隆司チームマネジャー(左)と福田紘大監督

 前回もめた停車中の集光については今回、規制が加えられることになったという。しかし、どんなルールにも抜け道はある。今回、東海大チームも相手がどんな手を繰り出してきても慌てないだけの対策は「してある」と福田紘大監督(工学部准教授=航空宇宙学)はどっしりと構える。

 チームを束ねる大塚隆司チームマネジャー(大学院・航空宇宙学専攻1年)は「王座奪還を目指します」と気合も十分だ。

 レースは10月17日に公式予選があり、18日から25日の予定で本戦が行われる。順調に距離を稼ぐことができれば、22日にもアデレードのゴールに到着する見込みという。屈辱を晴らすべく、鍛え上げた新「Tokai Challenger」の前を行く車はあるのか、ないのか。
[日経電子版2015年9月8日付]

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