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スパコンの甲子園
教授より速いプログラムも

スパコンの甲子園教授より速いプログラムも

 高校生と高等専門学校生がスーパーコンピューターのプログラムづくりを競う「スーパーコン2015」(主催は東京工業大学と大阪大学)が8月に開かれた。参加した約60人の生徒たちはスーパーコンピューターの初めての操作に戸惑いを見せながらも果敢に挑み、トップのチームは出題者の大学教授より速いプログラムをつくりあげた。

 この競技会は東京工業大学の研究者らが1995年に創設、今年で21回目になる。12回目から大阪大学も共催するようになった。両校が競技会場になり、大阪には西日本から、東京には東日本から、予選(38校、48チームが参加)を経て、全部で16校の高校・高専から20チームが集まった。

3日間、プログラムづくりに没頭 のめりこみ防止に「強制休憩タイム」

 使用するスーパーコンピューターは阪大サイバーメディアセンターが今春に導入した「SX-ACE」(NEC製)だ。8月17日に集合した生徒たちはスーパーコンピューターの使い方などの説明を受けた後、20日午後1時の締め切りまでほぼ3日間にわたってプログラムづくりに没頭する。あまりのめり込まないよう、毎日午後に「強制休憩タイム」が設けられ、別室でチーム間の交流を促す。東阪の休憩室はテレビ会議システムでつながれ会話が可能だ。

プログラムづくりに集中する参加者たち(スーパーコン2015の東京会場)

 今年の出題は「化学振動」に関連するものだった。複数の化学物質を浅いシャーレなどに入れると化学反応が周期的に起きて美しい色彩のパターン変化がみられることがある。この現象によく似た画像パターンの変化をつくり出すプログラム(循環的セルオートマトン)をスーパーコンピューター上で走らせ、その変化の一瞬をとらえた3枚のスナップショットがいつ、どこに現れるかを探し出すというものだ。

 制限時間は10分。問題の画面は縦横2000個の合計400万個の小さな表示単位(セル)から構成される。

 問題を解くにはまず、プログラムをスーパーコン上で高速で走らせる必要がある。次にスナップショット画像がどこで出てくるか、パターン・マッチングで見つける作業が求められる。どちらの作業もスーパーコンの性能が発揮できるよう同時並行で大量の計算をさせるプログラムを書かないと、制限時間以内には終わらない。

スーパーコン2015で出題された循環的セルオートマトンの画像(スーパーコン2015実施委員会提供)

 結果から先に紹介すると、制限時間内に3問とも正確に答えたのは20チーム中、7チームあった。

 処理時間の速さで、1位は筑波大学付属駒場高等学校のチーム「gomaba」(104秒)、2位は久留米工業高等専門学校のチーム「WestDiv」(280秒)、3位は明石工業高等専門学校のチーム「ReewNen」(316秒)だった。

 競技会の実施委員会委員長である菊池誠・阪大教授は「私たちが想定した最速くらいの見事なプログラムだ。私自身が書いたプログラムより1割ほどスピードが速い」と、1位チームの出来を評価した。

 チーム「gomaba」の川崎理玖さん、河原井啓さんはパソコン部の部員、原季史さんは2人の友人で、パソコン部ではなく、部活動では数学研究をしているという。3人は「今年の問題は正解が大前提だが、いかに速くするかが、ポイント。循環的セルオートマトンのワンステップを0.001秒速くするだけでも大きな違いが出る」と、高速化に知恵を絞ったことが勝因だったと分析していた。普段のパソコン部の活動では「論文を読んだりアルゴリズムの研究をしている」と話す。

出題者の想定上回るアイデアも 人材育成を期待

 プログラムづくりに3日ほどを費やす競技のスタイルは根気と体力を要求する。「課題にしつこく取り組み、処理速度を少しでもあげられないか、じっくり考える力が問われる」と東工大の権藤克彦教授は話す。

スーパーコン2015の表彰式。前列中央が1位チームの3人

 過去のコンテストでは、出題側も想定していなかったアイデアを思いつき高速化したチームがあったり、解けたと思って油断していたら他チームがよりよい手法を編み出して逆転されたりするなど、「地味ながらドラマがある」という。

 NECとグーグル、ソフト会社のワークスアプリケーションズ(東京)の3社が後援している。ワークスアプリケーションズの八剱洋一郎最高顧問は「クラウドを用いた並列分散処理が事務計算の分野でも重要になってきた」と話し、競技会から優れたプログラマーが育つことを期待する。

 東工大の渡辺治教授は「コンテストで情報学を目指す学生が増えるといった直接的な効果は期待していない」としながらも「大学でどんな研究が行われているか、高校生・高専生たちに知ってもらう機会になれば」と話す。そうは言っても、スーパーコンの参加経験者がOB会を開いたところ、集まった30人のうち20人がグーグルに勤めていたそうで、コンテストが人材育成の場になっているのは間違いなさそうだ。

取材を終えて

 権藤教授の言葉にあるとおり「地味な」競技会だ。「夏の電脳甲子園」とメディア向けの資料にはあるが、野球の甲子園が連日、テレビ放送されるなか、「電脳甲子園」は冷房の利いた室内で端末画面とキーボードに向かう毎日だ。ただプログラム中もみな楽しそうだし、休憩時間に「問題は難しい?」などと問いかけると、だれもが自分はこう思う、こう考えていると話を始めた。コンピューターやプログラミングが本当に好きそうだと感じた。「よい問題を出してもらって解き方を詰めていく過程は楽しい」と、ある生徒が話していたのが印象深い。

 参加チームはいわゆる進学校が目立つが、高専チームの参加も多く、多様性がある。本記中で触れた「出題側も想定していなかったアイデア」を出したのは、2013年の久留米工業高専のチームだ。2位チーム以下を200倍以上の速さで引き離す見事なプログラムを書いたそうだ。

 生徒たちに将来の進路を尋ねると、やはり情報系の大学研究者やIT(情報技術)企業への就職を思い描いているようだ。東工大や阪大などの大学には彼らの能力と興味をさらに伸ばす教育を望みたい。
(編集委員 滝順一)[日経電子版2015年9月14日付]

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