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どうする? 女子のキャリア(7)自分の「コーチ」を見つけよう

堂薗稚子 authored by 堂薗稚子株式会社ACT3代表取締役
どうする? 女子のキャリア(7) 自分の「コーチ」を見つけよう

 もう20数年前、私が新人営業マンだったとき、女性上司にある冊子を手渡されました。それは、情報をまだ紙で管理していた当時に社員に配布されていた「内線番号一覧」でした。私も既にその冊子は持っていたので、「?」と思っていると、彼女は私に「そこにマーカーをひいている人たちとごはん食べていらっしゃい」と言いました。ページをめくると100人くらいはいそうです。その上、社内で「優秀」といわれて有名な人、すごく高い役職の人の名前ばかりにマーカーが引かれています。

 「私から言われてお誘いしていると言ってごらん。新人だということもはっきり伝えるのよ」と念押しもされました。「どうしてこんなこと......?」と聞きたそうな顔をしている私に、彼女はさらに「きっとあなたの財産になる」とにっこりしました。

「先輩100人とのアポ」

 労働時間の管理などがまだ緩い時代でしたし、営業の仕事はやった方がいいと思えることにキリがありませんから、私も相当ハードに忙しく働いていました。でも、上司をとても尊敬し、信頼していた私は、恐る恐るではありますが、その人たちに連絡を取っては食事をご一緒していただくようになりました。新人なのに、不思議なほど、立派な人たちにアポが取れるのです! そして大体はご馳走していただいてしまう。おいしい食事とお酒、そして多くの武勇伝や事業への情熱について話していただきました。同時にひよっこの私の話も真剣に聞いて、アドバイスやお説教をしていただいたのです。

 これは、紹介してくれた上司の持つブランドと、私の「新人」というブランドのおかげで、得られた時間であり言葉たちだったと私は思います。これらの方たちとのご縁やいただいた言葉は、その時には強い反発を感じたり、ぴんとこない内容だったりする場合もあって、若い私にとってはどれくらい大切なことか十分理解できたとはいえません。

 しかし、今振り返ってみると、この20数年の間に、そのときのお話で突然ぱっと目の前が晴れるように腹落ちする言葉があったり、どうしたらいいのかわからないような事態にその中の方から手を差し伸べていただくことがあったりと、どれだけ私を支えてくれた財産となったかわかりません。そう思うたびに、あの機会を作ってくれた上司に、感謝の気持ちでいっぱいになります。

 その時は価値がわからないかもしれない、それでも全力で何かを伝えようとしてくれた人たち。私にとっては、その人たちといただいた言葉や教えてくださった仕事の内容や、そういったものが大勢のコーチとなっていると確信しています。

 このコーチは、実は若い時の方がずっと手に入れやすいのです。経験と年齢を重ねた人たちも、可能性に溢れた若い人たちから教えを請われたら、思わず全力で応えてしまうものです。自分も経験を重ねていってからでは、相手のメリットや双方の利害を超えて「丸腰」で会っていただくことはとても難しくなるのが常だからです。この若手時代ならではの特権を生かさない手はありません。

 同世代の友人たちや同期のメンバーたちとは、何年たっても、いつでも楽しい時間を過ごしたり違った刺激を受けたりすることができます。ビジネス書を読めば多くの情報や知識・知恵を得ることもできます。でも周囲の優れたオトナたちと接点を持ち、多くのコーチを獲得することは、若いあなたたちにとって何物にも替えがたい財産となって、これから始まるビジネス人生を支えてくれることでしょう。

 もちろん、私の上司のように、優れた人を100人も紹介してくれる人が周囲にいるとは限りません。やみくもに異業種交流会などに顔を出せばよいというわけでもありません。いちばんいいのは、あなたの信頼できる身近な人に、「尊敬するあなたの尊敬する人を紹介してほしい!」と率直にお願いしてみることです。きっと相手も嫌な顔はしません。

 少し世代の離れた人たちと出会えるように意識するともっとよいでしょう。そういわれても、自分の周囲には優れた人なんていない! と思う人もいるかもしれませんが、そんなワケがないのです。どんな人の仕事にも価値があり、あなたがしていない経験があります。身近な人たちのそんな姿をリスペクトすることこそ、コーチを得る第一歩となると私は思います。

リスペクトできるコーチの存在

 若いうちに身につけておくべきことはなんでしょうか、と若い女性に聞かれることがあります。私はいつも、「自分ブランド」を作ることと同時に、この「コーチとの出会い」を持つことを挙げています。苦しくてたまらないとき、突然、長い間忘れていた言葉やシーンがよみがえってきて、つかえていたものがすっとお腹に落ちていくような感覚があるものです。そんな未来への投資だと思い、どうぞあなたのコーチをたくさん味方につけてください。

 女性は、まだまだビジネス人生で岐路に立たされたと感じることが多いものです。そんなとき、コーチである人や言葉が、きっとあなたの決断の背中を押し、応援してくれることでしょう。

 もちろん、紹介してくれた人、紹介してもらった人への礼節を守ることも忘れてはなりません。ご馳走していただいたら、お礼のご連絡を入れたり、印象に残った内容と感想を伝えたり、そんな礼儀正しさと「時間を割いてよかったな」と思わせる「可愛げ」は、コーチを得るために欠かせないものです。

 これは私自身が若手のアプローチを受けるたびに感じることでもあります。年齢や経験を重ねた今は、部下や若手ビジネスマンたちも私の大切なコーチになることがありますが、その言葉に心を打たれ、また会いたいと思うのは決まって、会った直後の相手に対して、心をこめた可愛げあるコミュニケーションを取れるタイプの人たちでもあるのです。そして、コーチから多くを学んだみなさんがいつかは、同じように後輩たちの優れたコーチになって、先人たちの教訓をつないでいってほしいと思います。

[撮影協力:柏の葉イノベーションラボ KOIL]

堂薗 稚子(どうぞの わかこ) 1969年生まれ。92年上智大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材系事業の営業職を経て「就職ジャーナル」副編集長、「リクナビ派遣」編集長、カンパニーオフィサー、ダイバーシティ推進マネジャーなどを歴任。13年、 株式会社ACT3設立。女性活躍支援など、企業の組織開発・人材開発にかかわる調査・企画立案、コンサルティング・研修・講演などを行う。著書に『「元・リクルート最強の母」の仕事も家庭も100%の働き方』(KADOKAWA)。二児の母。

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