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アパレル通販の救世主?
ウェブ接客、心地よく

アパレル通販の救世主?ウェブ接客、心地よく

 洋服のインターネット通販で、顧客の検索の動きをリアルタイムで察知してお薦めの商品や情報を提案する「ウェブ接客」が広がっている。通販サイトの乱立で、ブランド名や品ぞろえだけでは客を呼べなくなり、赤字で苦しむショップも多い。ウェブ接客は行き詰まるアパレル通販の「救世主」となるか。

「間」を読みメッセージ 押しつけ回避

 20~30代向け洋服を扱うネット通販のマガシークは今夏から「ウェブ接客」を始めた。画面の向こうにいる顔の分からない相手がどんな商品を見ているか、どのようにサイトに来たかを追跡。購買意欲を促す情報をタイミングを見計らって表示する。

 都内に住む会社員の森脇彩さん(26)がスマートフォンを手にマガシークで何か新しい商品が入荷していないか何気なく見ていると、突然画面に「予約商品15%ポイントキャンペーン」というメッセージが現れた。新作を予約購入すると、通常よりポイントが還元されると知った森脇さんはパンツを衝動買いした。

 マガシークは森脇さんのように初めてサイトを訪れた約6万人にウェブ接客を試みた。ウェブ接客をした人としなかった人とを比べると、接客した人のほうが1人当たりの購入金額が20円高かった。スニーカーのページを見ている人にはスニーカーのお得情報を表示。9月はウェブ接客で計1000万円を稼いだ。

 マガシークは2004年のサイト開設当初から「リコメンド」機能を入れ、顧客の購入履歴に応じてトップ画面を変えてきた。マガシーク事業本部の高松貴宏部長は「商品を並べるだけのアパレルサイトとは違うと自負してきた」という。

 有力ブランドの洋服を扱えば新規顧客はすぐに来てくれた。だが、ここ1、2年は「人気ブランドを入れても新しい顧客がなかなか来てくれなくなった」(高松部長)。各ブランドも自社でサイトを立ち上げ、マガシークのサイトにすらたどりつかなくなったのだ。

 危機感を持ったマガシークは、楽天出身の倉橋健太氏が設立したITベンチャーのプレイド(東京・品川)のウェブ接客ツール「カルテ」に目をつけた。カルテを導入すれば、「サイトを訪れた人が今何を検索しているのか、画面やカーソルの動きを0.1秒単位で分析できる」(同社)。

 導入費用は月5000円からで、1メッセージごとに1円かかる。メールマガジンの配信やリコメンドでは新規顧客を開拓できないと限界を感じていたマガシークは即導入を決めた。

 半年でセレクトショップのベイクルーズグループや米アメリカンイーグル、ミズノ、ユナイテッドアローズなどアパレル企業を筆頭に500社以上が「カルテ」を採用。「集客の手立てがなくて困り果てている」(プレイド)状況で、これまでに延べ約2.5億人に"接客"した。

 各社はまだ実践していないが、マウスの動きやスクロールの回数から商品選びで迷っていると判断し、チャットで「お困りですか」などのメッセージを表示できる。サイトを訪れた回数から「何回目の来店ありがとうございます」と伝えることもできる。技術的にはもう、実店舗での接客に限りなく近づいている。

 ただ日本人は押しつけがましい接客が苦手。どのアパレル会社もどこまで大胆にウェブ接客してよいか手探りの状況だが、「徐々に受け入れられる」(ベイクルーズの小松原麻里氏)とウェブ接客に活路を見いだそうとしている。

▼ウェブ接客 ウェブサイトを訪れた顧客一人ひとりに適したアプローチをすること。マウスの動きやどの画面を見ているかなどを追いかけて、サイト内で迷っている顧客に「お困りですか」といったメッセージを送ったり、最適なタイミングでクーポンを送ったりできる。
実店舗のように、リアルタイムで情報を分析するため、ウェブでは難しいとされてきた「きめ細やかな接客」が可能。従来も顧客の好みを分析して商品をお薦めする「リコメンド」と呼ばれる機能はあったが、過去の購入履歴や登録情報を元にトップ画面の表示を変えるといった対応に限られていた。

実店舗と連携、店員が商品提案

 実店舗を利用したウェブ接客もある。都内の会社員、石田亮太さん(32)は休日、ネットにこうつぶやいた。「『マーガレット・ハウエル』みたいなミニマルでスタイリッシュなTシャツを探している」

 翌日、Tシャツの画像付きの2通のリツイートを受け取った。Tシャツを販売している東京・原宿のセレクトショップ「TERROIR(テロワール)」に行き、リツイートで表示されたTシャツを購入。「短い文で、こちらの気持ちを読み取ってくれた」と満足げ。

 それまで石田さんはネットで洋服をあまり買わなかった。買いたいものが見つからないからだ。だが、店を何軒も歩き回りたくないのが本音。「提案してくれるならネットで買っていいな」。既に4回つぶやいた。

 石田さんが使っているのは、ITベンチャーのスタイラー(東京・渋谷)が今夏から始めた消費者と店員をネットでつなぐ無料サービスだ。同社のサイトには石田さんのようなつぶやきが続々と投稿される。リツイートをしているのは、スタイラーに参加するアパレルや専門店の店員だ。

 東京・渋谷のセレクトショップ「DAILY SHOP」の店員の笠間萌さんはスタイラーの投稿を頻繁にチェック。これまで20件程のつぶやきに答えた。「ネット上で知らない人に直接提案でき、一気にチャンスが広がった」と語る。

 もっとも、提案が採用されなければ店員の作業は無駄になる。だが、アパレルのネット通販の多くが「メルマガを配信するだけでは新規顧客を獲得できない」と悩んでいる。サービス開始から2カ月でサザビーリーグ(東京・渋谷)やステュディオスなど約70社・店がスタイラーに参加した。

 パルコはテナント入居している店の店員に対し、「ウェブ接客」をテーマにした研修を始めた。研修では、お薦めの商品や店の雰囲気を分かりやすく伝えるためのブログの書き方を学ぶ。

 パルコのブログには1店当たり1日で250人がアクセスする。客はブログを見て気に入った商品をネットで購入したり店頭で商品を取り置きしてもらったりできる。ブログから購入につながった場合は店の売り上げとして計上され、パルコも成果に応じて報酬を得る。地方店のブログを見て全国から注文が入る。ウェブ上では「来店前から接客が始まっている」(WEBマーケティング部の林直孝部長)という。

ネット通販増え多くは赤字、打開狙う

 ネット通販業界において、今年は「ウェブ接客元年」といわれる。ウェブ接客ツールが相次ぎ登場し、洋服のネット通販が使い始めている。なぜ、今ウェブ接客なのか。

 背景には洋服のネット通販の乱立がある。アマゾンや楽天など総合モールへの出店だけでなく、百貨店やブランドが次々と独自サイトを立ち上げたほか、個人同士で売買するフリマアプリも登場。サイトの数は増え続け、顧客同士の奪い合いが生じ、「半分以上が赤字ではないか」(業界関係者)ともいわれる。

 アパレル通販の夢展望は3月、業績悪化を理由に会社を売却した。低価格なギャル向けの衣料品を生産してきたが、トレンドや競争環境の変化に対応できなかった。

 もともと洋服のネット通販は日本人になじみにくいと言われてきた。ネット経由でアパレルを購入する割合は8%と、欧米の15%の約半分にすぎない。IT企業バーチャサイズの上野オラウソン・アンドレアス社長は「欧米のネット通販の返品率は3割程度で、日本が1割。商品に満足しているのではなく、不満があっても諦めている」と話す。一度失敗するとネット通販で買わなくなる。

 最近は若い女性のネットでの洋服の買い方も変わりつつある。キーワードを入力・検索して、商品を探すことに疲れを感じ、ネットサーフィンをして偶然目に留まったものや、友人が「いいね!」とつぶやいた商品を購入する。最大手楽天のアパレルサイト「アイスタイル」もカルテを導入した。「ウェブ接客」で洋服が売れるようになるかが注目される。

(水口二季)[日経MJから転載、日経電子版2015年10月11日付]

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