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[ liberal arts-大学生の常識 ]

デジタル社会の光と影(11)東ロボくんが示してくれた、これからの教育の方向性

小川和也 authored by 小川和也アントレプレナー、フューチャリスト
デジタル社会の光と影(11) 東ロボくんが示してくれた、これからの教育の方向性

小川和也のデジタル社会の光と影(11)

 「ロボットは東大に入れるか」。

 東京大学の合格を目指す人工知能の「東(とう)ロボくん」は2011年生まれ。いわば、4歳を迎えるプロジェクトだ。この間、人間の叡智は東ロボくんを着々と育ててきた。

 2014年11月、東ロボくんが受験した全国センター模試の成績が発表になり、世間を賑わせた。残念ながら東大合格には遠く及ばないレベルも、全国581の私大の8割にあたる472大学で合格可能性が80%以上という成績をマークしたからだ。偏差値でいうと47.3、前年の45.1を上回った。

1年で偏差値10も上昇

 それから1年経った11月14日、東ロボくんの今年の模試結果が発表されたのだが、偏差値は一気に57.8まで急上昇、生まれてから3回受けた模試で初めて全国平均を超えた。個別の教科でみると、世界史の偏差値は66.5、数学ⅠA、ⅡBは60を超えている。今回も東大合格には届かずだが、合格を手にできる可能性がある大学は増加した。その数、全大学の6割に相当する474大学1094学部。

 昨年の東ロボくんの模試結果が出た直後、僕はラジオ番組などでそれについてコメントをしているのだが、恐らく次の模試では大幅に成績を向上させることになるだろうとみていた。偏差値だけでいえば東大合格は時間の問題だと考えているから、特に驚くこともない。何年か後には、人工知能が東大に合格することになるであろう。

 そこでむしろ注視しなければならないのは、東ロボくんの成績についてではなく、人間の方の教育や受験のあり方だ。東ロボくんはこれからの人間がどのような能力を磨くべきかを考えさせようとしているのだ。「偏差値ならば、僕の方が高い。それでも人間のみなさんは、その偏差値で僕と勝負しますか?」。それが東ロボくんの無言のメッセージだ。

 かくいう自分自身も偏差値教育の中を生きてきた。創造力よりも記憶力、独創性よりも汎用性、なんとなくそのような力学が漂う教育システムの時代が長らく続いた。しかし、めきめきと偏差値を向上させる東ロボくんは、それが人間の教育の最上位概念にはなり得ないことを示唆しているのだと考えている。

 無論、人間においても一定量の記憶作業を行うことの意義、偏差値を上げる努力で得られるものは間違いなくある。むしろ、それを100%回避したとすれば、人工知能やロボットと対峙するための土俵にすら上がれないかもしれない。したがって、それそのものを否定するつもりはないが、努力の方向性と質を次の時代に向けて見直すタイミングが訪れたことだけは事実であろう。

東ロボくんの苦手な能力を磨く

 今回の東ロボくんの模試結果に対して、「知識を詰め込んだだけの受験生が書くような答案」「知識偏重型の学習をした受験生が書くような答案」「要求された視点を読み取れていない」という関係者の見解が出されている。

 東ロボくんのプロジェクトは、人に取って代わる仕事を見極めるのと同時に人工知能の限界を探ることが目的であり、それらの見解こそが限界の一端を示しているといえよう。一方で、人間はこれ以上、知識を詰め込むだけ、知識偏重の教育に浸っている訳にはいかない。思考力、創造力、課題発見力など、東ロボくんが苦手とする能力を磨いていかなければ、知識の土俵では勝てなくなるのだから。

撮影協力:柏の葉イノベーションラボ KOIL

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