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使える! ロジカルシンキング(6)卒論テーマはこう決める

中田亨 authored by 中田亨産業技術総合研究所主任研究員
使える! ロジカルシンキング(6) 卒論テーマはこう決める

 卒業論文・研究の題材は、専攻にふさわしいテーマを担当教官と相談して決めるのが普通ですが、自分が関心を持ち、より深く研究したいと思う題材にしたいものです。特に制約がなければ、たとえば日本史専攻なら「坂本龍馬が好きだから、彼について卒論を書こう」とか、社会学なら「最近話題のオリンピックにしよう」といった具合に、個人の好みとか、時代の流行に即して選んでもよいのです。

題材は見つかったけれど...

 題材が決まっても、難しいのは卒論としてそれをどう掘り下げるかです。「では坂本龍馬の何を研究するのか?」「オリンピックでまだ研究されていないテーマは何か?」まで決まればいいのですが、考えが漠然としていると何をすればよいのか絞り込めません。

 そのため「テーマは決まったはずなのに研究の手が進まない」という状態で足踏みしてしまう人も多いようです。放置すると、何もできないまま時間切れとなって、中身がスカスカの卒論を提出するはめに陥ります。テーマは「どんな点についてどのように書くか」を深く掘り下げないと、"書ける"テーマにはなりません。

ティンバーゲン博士の万能テーマ掘り下げ術

 研究テーマを掘り下げる方法として有名なのが、「ニコ・ティンバーゲンの4つの問い」です(ティンバーゲンは動物行動学の開祖の一人であり、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています)。この「4つの問い」を使えば、テーマを深く掘り下げられる4つの方向が見えてくるのでしょう。

第一の問い:調査対象の効果や目的は何だろう? 何のためにそれは存在するのか?

 例えば「オリンピックは、社会にどんな変化を与えるのでしょうか?」「何の目的で人々はオリンピックを開催したがるのでしょうか?」という問いに答えることも、一つの立派な研究になります。

 ちなみに、文豪ゲーテはこの種の問いの立て方が嫌いだったようです。「羊の角は何のためにあるのか? 武器となるからか? あんなに丸まった角では役に立つまい。これに限らず自然現象の目的を考えることは間違っている」と文句を言っていますが、一般人はこだわる必要はないでしょう。

第二の問い:それはどこから進化してきたか? 昔はどうだったのか? これからどうなるのか?

 どんなものにも歴史はあって、その先祖や子孫があるはずです。近代オリンピックは、古代オリンピックが原型となっています。近代オリンピックですら、草創期には「綱引き」が競技種目に入っていたりして、現代の姿とはかなり違います。そして、これからも変化し続けることでしょう。

 変化した理由を考えたり、今後の変化を予測することも、十分にやりがいのある研究です。この問いは、「万物は流転する」という前提に立つ、進化論的な発想といえます。ゲーテが指摘した羊の角の謎も、進化論に立てば「昔は武器になるとがった角だったが、世代を経るごとにだんだんと丸くなった」という答えを導き出すことができます。ゲーテは進化論が広まる以前の人物ですから、まさか羊が時代とともに変化するとは思いもよらなかったのでしょう。

第三の問い:それはどういう仕組みで成り立っているのか?

 目的だけがあっても、現象が生じるわけではありません。何かが起こるのには、それを支える仕組み(メカニズム)が必要なのです。

 オリンピックを成立させるには、組織委員会や競技団体といった実務機構はもちろんのこと、国家、企業、また広告ビジネス、スポーツ科学、医学、計測工学、トレーニング組織、設計建設など、数えきれないほどの組織や技術・ビジネスモデルが必要で、これらが組み合わさって現場を回しているのです。

 どんな平凡な題材でも、それを成り立たせている要素の全てを図に描き込んでみると、曼荼羅のような壮大かつ詳細な相関図ができることでしょう。このように仕組みを解明することも、研究のひとつのパターンです。

第四の問い:それはどう成長・カスタマイズされるのか?

 仕組みといっても、特に人工物であればほとんどのものは一夜にして完成するわけではありません。たいていの物事はゼロから始まり、徐々に大きく複雑なものへと成長していきます。研究対象の事情による「成長」と、対象を取り巻く環境に対応した「カスタマイズ」という2つの点に着目してみましょう。

 2020年開催予定の東京オリンピックも、2015年現在では、ラフな計画があるだけです。具体的に目に見えるものといったら、競技施設の基礎工事ぐらいでしょう。これをあと数年のうちに、詳細な実行計画や、細部まで整った競技施設へと「成長」させねばなりません。

 そのため、「その成長はどうやって成し遂げられるのか?」という問いをテーマとして立てることができます。「仕組みを成長させる仕組み」に焦点を当てるわけです。

 成長には、状況への適応という側面もあります。個別の事情に関係なく、いつでもワンパターンのものを使えばいいのであれば、最初から完成版をそのまま選べばよく、成長など考えなくてよいはずです。オリンピックも、4年ごとに毎回全く同じ内容で開催することも可能でしょうが、実際には開催地や時代によって、それぞれの特色を出したものになっています。2020年の東京という状況に合わせて、オリンピックをどうカスタマイズするかが見どころなのです。

 このように、「なんのために」「どのように変化してきたか」「どのような仕組みで」「どう変化に対応してきたか」という観点から題材を見直してみると、より掘り下げた具体的なテーマで、レベルの高い論文が書けるはずです。

中田 亨 (なかた・とおる) 1972年横浜市生まれ。2001年、東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。現在、国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター・主任研究員として、人間の知能と社会の安全を研究中。中央大学客員教授を兼務し、卒論の書き方を指導中。著書に『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』(朝日文庫)、『情報漏洩 9割はあなたのうっかりミス』(日本経済新聞出版社)、『理系社員のトリセツ』(ちくま新書)ほか多数。

撮影協力:神田外語大学

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