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[ liberal arts-大学生の常識 ]

規制緩和は何のため(30)もしドラッグストアが24時間開いていたら

戸崎肇 authored by 戸崎肇早稲田大学教授・経済学者
規制緩和は何のため(30) もしドラッグストアが24時間開いていたら

戸崎肇の規制緩和は何のため(30)

1人暮らしをしている学生の皆さん、一番困るのはどんな時ですか? 筆者の経験からすると、それは病気になった時ではないでしょうか。特に夜中に具合が悪くなったら、どうしますか。その時間にドラッグストアは開いていないでしょう。最近は救急車の需要も過多で、なかなか思うには来てくれなくなっています。気軽に救急車を呼ぶ人が多いために、本当に必要とする人のところに適切なタイミングで向かうことができなくなっているのです。

大忙しの救急車、有料化の是非は?

 「トリアージ」の考え方を敷衍(ふえん)させて、救急車の要請に対して電話で症状を聞き、緊急性を判断した上で優先順位をつける制度を導入しようという動きがあります。「トリアージ」というのは、優先度によって選別するというものです。ただし、どのようにしてその優先度を判断するかという非常に難しい現実的な問題を伴っています。

 さらには救急車の利用を有料化すべきであるという主張もあります。実際に海外では救急車の利用を有料化している国があります。そうすれば、大した状況でもないのに、やたら救急車を要請するという安易な発想にはならないだろうというのです。しかし、この場合、金銭的に余裕のない人たちが、危機的な状況のあるのにもかかわらず、救急車を呼ぶことをためらって、事態を悪化させてしまう危険性も出てきます。

ドラッグストアを24時間化へ

緊急でないのに救急車を呼ぶ人も多い

 自力で対処しようとする場合、近くに薬を買いに行くことが考えられるでしょう。そこで便りになるのがドラッグストアです。医療機関が24時間体制での医療需要になかなか応じられないことを受けて、政府はドラッグストアに対して24時間の営業を行うことを勧める意向を公表しました。

 ドラッグストアといってもいくつかの種類があります。資格をもった専門的な薬剤師がいて、医師の指示を受けた調剤を行うことができる調剤薬局と、そうではないコンビニエンスストアに近いドラッグストアがあるのです。政府は調剤報酬のシステムを改定し、利便性を高めた薬局の調剤報酬を厚くする方針を示しています。

 また、営業時間外に薬局が必要となる場合に備えて、地域の患者の要望にきめ細かく応えることができるような、一種「かかりつけ」の薬局としての機能を24時間果たせるようなドラッグストアの登場を期待しています。

 この背景には、高齢社会の到来に伴って、在宅医療を受ける人の数が増えていることがあります。医師不足の中、個々にきめ細かい対応をしていくことが、とてもではないですが、できなくなっています。どうやってこうした事態に対応していくかが問われているのです。

「死」の判断にも規制緩和の波

 在宅で医療を受けていた人が死んだ場合についても問題がありました。誰がその死亡を判断するかです。現状では、医師でなければその判断はできません。これに対して規制改革会議は、看護師によって死亡の判断ができるように規制緩和を行うよう提言しています。

 現在は、死亡後24時間以内であれば、看護師から医師への報告によって死亡診断書を出すことができましたが、24時間を超えると、医師が直接診断しないと死亡診断書が出せません。

 確かに、看護師の判断だけで正確な死亡判断が下せるか、下手をしたら犯罪などがあった場合、それを見逃すことになるのではないかという懸念の声もあります。しかし、今後高齢化が進んでいくなかで、些末なように見えても実生活を行っていく上では、こうした手続きの在り方も重要なことになってくるのではないでしょうか。

 とにかく医師は足りないのです。以前にも医師不足の問題については論じましたが、再度、医師を増やしていくことの重要性をここで訴えておきたいと思います。そうでなければ、これまで述べてきたように、少しでも医師の代わりになるような制度をどんどん創設していかなければならないでしょう。

特徴ないドラッグストアに未来は来ない

海外からの観光客がスマホでQRコードを読み取れば、「帰国後も爆買い」できる(札幌市のサッポロドラッグストアー狸小路5丁目店)

 ここでドラッグストアの問題に戻りましょう。何よりも、ドラッグストア業界自体での生き残りが激しくなっています。そもそもドラッグストアとは何か、ということ自体があいまいになってきています。今のドラッグストアは薬品以外にも多種多様の商品を扱っており、コンビニエンスストアやディスカウントストアとほとんど変わらない状況になっています。生き残り策としては、調剤薬局としての性格を強めるか、あるいは量販店のような形を追求する方向が考えられます。後者の場合には、先行している企業の力が強く、ただ薬を扱っているというだけでどこまで競争力を持てるのか、疑問もあります。

ツルハホールディングスは店舗網を拡充している

 ドラッグストアとしての本質に立ち戻り、医療薬の取り扱いについて、とことん専門化していくことが望ましいのではないかと考えます。目の専門であるとか、皮膚の専門であるといったことです。現状、調剤薬局のほとんどは病院の周りに存在し、どこにいっても同じようなサービスを提供しています。これではとても将来は見いだせないでしょう。

 病院にも専門化、個性化が求められている中、ドラッグストアをはじめとする薬品業界にも淘汰の時代が到来しています。せっかく政府から特徴付けのための提案がなされているのですから、これを生かさない手はありません。ドラッグストアがそうした期待に応えることで、高齢社会のセキュリティー体制も万全なものとなるでしょう。

戸崎肇(とざき・はじめ) 1963年大阪府生まれ。京都大学経済学部卒、日本航空に入社。在職中は社会人大学院に通う。経済学者に転進するため、博士号取得にめどをつけ日航を退社。帝京大学、明治大学勤務を経て現在、早稲田大学ビジネススクール教授。航空政策・空港経営、交通一般の情勢に詳しい。趣味はランニングと読書。交通産業を体感的に理解しようとバスの運転免許を取得した。

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