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教科書は街おこし(2)私が大学で教えていること
~あいさつ、理念、夢

教科書は街おこし(2) 私が大学で教えていること~あいさつ、理念、夢
authored by 久米信行久米繊維工業会長

久米信行の教科書は街おこし(2)

こんにちは。最初で最後の日本製Tシャツ専業メーカー久米繊維工業三代目会長の久米信行です。本業のかたわら、2006年から明治大学商学部でベンチャービジネス論※1の講師を務め、早いもので今年で10年になります。おかげさまで、今では、学園祭で「明治大学でいちばん受けたい授業」の1つに選ばれたり、ガイド本「明治大学の『今』を読む」にて名物講義として紹介していただけたりするまでになりました。

 また、この一風変わった講義を通じて、20万部を超えるベストセラーとなった「すぐやる技術」をはじめ「やり抜く技術」「認められる技術」「33のエール」などの本※2が生まれました。いずれも、考え過ぎて一歩前に踏み出せなかったり、新しい人間関係を築くのに奥手だったりする若者向けに贈る、簡便な自己啓発本です。この2015年11月にも「すぐやる人の『出会い』の技術」が出版されたばかりです。今回はこの授業について話をしましょう。

1 あいさつと理念唱和から始まる講義

 私の講義は全員起立して大きな声を出す「あいさつ」から始まります。

「ようこそいらっしゃいました!」
「どうぞよろしくお願いいたします!」

 もちろん、講義の最後も「あいさつ」で締めくくります。

「どうもありがとうございます!」
「またのお越しをお待ちしております!」

 まっすぐ立てない。相手を直視できない。大きな声であいさつしない。背筋を伸ばしておじぎができない......。そんな若者が増えていると知って、この古めかしくて「気恥ずかしい習慣」を講義に加えました。

 あいさつが苦手なのは、学生たちの責任ばかりとも言えません。おそらく、これまで家庭、学校、地域で、真っ当なあいさつを教わってこなかったのでしょう。しかし、それでは社会に出てから要らぬ苦労をするのが目に見えています。

 そこで、最初のうちは、お客様である学生のみなさんに、雇われ主の私がお手本を示して頭を下げるところから始めます。これもお客様に素直に頭を足れる「商売人」の心意気を伝えたいがためです。

 同時に、シリコンバレーの起業家向けスクールでも「投資家の信頼を得るには、あいさつが大切だ」と教えていることも伝えます。デジタルでドライに見える米国のITベンチャー業界でも、アナログなあいさつが重視されていることを知れば、学生も少しは興味を持ってくれるでしょう。

 最初は照れている学生も多いのですが、回を重ねるごとに、背筋も伸び、声も大きくなってきます。3、4回目の講義の後からは、私の代わりに最初と最後のあいさつを先導する学生を毎回募ります。ご想像の通り、なかなか手を挙げるには勇気がいるので、積極的な志願者はまばらです。

 しかし、ここで思い切って手を挙げて、数十人の前であいさつをした学生は、新たな自信を持つことができるはずです。きっと生涯にわたって「あいさつ」に困ることはないでしょう。そして「新たな出会い」に恵まれやすくなるでしょう。

2 目指すは「生涯の師と出会う」こと

 あいさつの後は、全員起立のまま「経営理念」ならぬ「授業理念」「キャッチコピー」を全員で唱和します。この講義で目指すゴールと、なりたい自分の姿を声に出すことで心に刻みこむためです。

「選ばれる自分になる  生涯の師やパートナーに出会う  認められる」

 講義初回で、およそ大学の講義に似つかわしくない、大声でのあいさつと理念唱和に、学生たちは度肝を抜かれます。中にはドン引きして、次回から来なくなる学生もいます。しかし、私は、就職活動をするなら、ちゃんと毎日朝礼をして、経営理念を唱和するような企業を探した方が良いとアドバイスしています。経営理念が全社員の心に刻まれている会社とそうでない会社では、求心力や持続力はもちろん、法律遵守や社会貢献の意識にも大きな差が出るからです。

 昨今は、立派な経営理念を持つ大企業でも、何人かの不届き者による不祥事で会社の屋台骨が揺るがされることが少なくありません。きっと、経営理念を書いたクレドカードを配って携帯させるだけで、朝礼で唱和をしていないからでしょう。

 この講義では理念通り、ベンチャービジネス論では、私が尊敬する経営者・社会起業家からクリエイター・新聞記者まで多彩なゲスト講師をお呼びします。今年度は、わたしが尊敬するみなさん、フットマーク会長の磯部成文さん、オレンジトーキョー社長の小高集さん、日本理化学工業の大山真理さん、日本メディアアート協会の竹本明子さん、誉田哲朗さん、Keith Suzukiさん、毎日新聞社の佐藤岳幸さんらにゲスト講師をお願いいたしました。

 ゲスト講師による特別講義は、いずれも大学や市中のセミナーでは聴けない「生の経験談」ばかりです。当然ながら、学生たちは、熱い大人からの初めて聴く話の数々に魅了されます。

 しかし、ただ受け身で聴講するだけでは、私の講義に参加する意味はありません。

1)一番前に座る
2)真っ先に質問する
3)講師に進呈するレポートを熱く書く
4)講義後真っ先に講師と名刺交換
5)講師との食事会に参加して懇談
6)講義の感想をブログやSNSに投稿
7)お礼状やお礼メールを書く
8)Facebookなどで友達申請する
9)講師のネット投稿にコメントする
10)生涯の師匠としてご高導いただく

 ここまで積極的に動くことで「選ばれる自分」になってほしいのです。ですから、こうした「出会う技術」についてもしっかり学生たちに教えます。幸いにして、多くのゲスト講師はFacebookなどソーシャルメディアも活用しています。この講義を好機に、ネットでつながり、またイベントなどリアルな機会で再会することもできるはずです。こうしてネット時代ならでは「出会う技術」を徹底的に教えているのですが、残念ながら素直に「すぐやる」学生は、数十人のうち数人いるかいないかなのは残念です。

3 最終講義は1分で自分の夢を語る

 私の講義には、テストもレポートもありません。その代わり、最終講義では全員に1分間スピーチをしてもらいます。

 その内容は主に3つです。

1)自分が生涯をかけて実現したい夢
2)夢の実現に向かう10年後の自分
3)そのために今日から始める努力

 この3点については、なるべく具体的に語らなくてはなりません。ただ「世の中のためになる」とか「社長になって成功する」という漠然とした夢では、自分も聴く人もイメージがわきません。例えば「アジアの貧しい子供たちのための学校を100校設立する」「高齢者でも快適に暮らせるロボットスーツを創る会社の経営者になる」など、絵が思い浮かぶように発表してもらいます。

 発表に際して、学生たちに尋ねますと、「これまで夢など考えたことがなかった」「人前で夢を語る機会がなかった」という意見が多いことに驚かされます。私の講義は3、4年生対象ですが、本来ならば入学式と卒業式のタイミングで「熱く夢を語る」時間を持ちたいものです。そうすれば4年間に何を学ばなくてはならないかを自分で考えるようになりますし、実社会にも強い遺志で足を踏み入れるようになるでしょう。

 教え子たちには、この「1分間で夢を語るスピーチ」を、社会人になってからもフル活用することを勧めています。社会人になれば、会社であれ、勉強会であれ、あらゆる場面で自己紹介をすることになります。その時に、ただ社名や部署名を言うだけでは、誰も名前や顔をおぼえてくれないでしょう。かといって、ありきたりの趣味について話してもインパクトはありません。

 それならば、自分が生涯かけて実現したい夢と、そこに向かって日々重ねている努力を熱く語った方が、強い印象を残すことができるでしょう。同世代には「意識高い系」だと思われてドン引きされても臆することはありません。みなさんの夢を叶えるサポートをしてくださるリーダー層の大先輩が、きっと注目してくれるからです。そして、夢の実現に一歩近づく「出会い」に恵まれるようになるのです。

学生時代に人生の達人に出合おう!

 私がつくづく思うのは、自分が学生時代にこうして人生の達人たちの講義に触れられて、SNSで生涯のご縁を結べたら、自分の想像をはるかに超える人生が切り開かれたのではないかということです。今の学生たちは、自分では気づかないだけで、本当に恵まれているのです。

 私のささやかな講義を通じて、「選ばれる自分になる」「生涯の師やパートナーに出会う」「認められる」教え子が1人でも増えれば、こんなに幸せなことはありません。今から来春どんな学生たちに出会えるのか楽しみでならないのです。

 また、明治大学の学生でなくとも、講義ブログは一般公開されているので閲覧可能です。新著「すぐやる人の出会う技術」など、講義のエッセンスをまとめた拙著と合わせて、日経カレッジカフェ読者のみなさまにもご活用いただければ幸いです。

※1 「明治大学商学部ベンチャービジネス論」
※2 「amazon 久米 信行 著者ページ」

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