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[ career-働き方 ]

ソーシャルビジネスの新しい波(1)アプリで「心臓突然死」減少を目指す
~社会起業家の挑戦

authored by 和田有紀子Out;Elite(アウトエリート)編集部
ソーシャルビジネスの新しい波(1) アプリで「心臓突然死」減少を目指す~社会起業家の挑戦

 「心臓突然死」という言葉をご存じだろうか? 健康そうに見えた人が突然、不整脈などが原因で帰らなくなることを指す。この言葉自体は耳慣れなくとも、公共施設などに多く設置してある"「AED」で救える症状"といえば、イメージが付きやすいのではないだろうか。

 その心臓突然死による死亡者数は、日本だけでも年間7万人以上。実に1日200人弱の人が突然の症状で命を失っている。Coaidoの玄正慎(げんしょう・まこと)さんは、そんな現状を少しでも改善しようと奮闘する社会起業家だ。今や多くの人が手にしているスマホのアプリで社会問題に取り組む点は非常に斬新とも言える。玄正さんがどのような想いで活動を展開しているのか、また"社会起業家"とは一般の起業家とどのように異なるのか、率直な意見を聞いてみたい。

救命ボランティアが駆けつける

――玄正さんが現在取り組んでいる、スマホアプリを使って心臓突然死を減らす試みですが、具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

玄正 一言で述べるならば、必要な場所に迅速にAEDを届けるためのアプリです。119番通報のオペレーターが常駐する「消防指令センター」に送信用のタブレットを導入し、消防職員や消防団員といった自治体で登録をされたボランティアの方のスマホに受信アプリをあらかじめ入れていただきます。市民からの119番通報で心臓が突然止まった人がいることが判明すると、消防指令センターの送信アプリから受信アプリへと通知が届き、患者の位置と周辺のAEDの設置場所が地図に表示され、手近にあった場合は「取得駆け付け」することを表明し、AEDを取りに行き現場まで素早く届けます。

Coaidoの玄正慎さん

 この際に、患者が倒れた場所が自宅であれば駆け付けに必要な情報として部屋番号や表札名も表示されます。そのため、個人情報保護の観点から、受信アプリをダウンロードできるのは現在のところ救命ボランティア登録者のみに限定しています。受信者のそのときいる場所によっては、AEDが近くにあっても現場が遠い場合、現場近くにいてもAEDまでが遠い場合など様々な可能性があるので、同時に何人もの人が駆け付ける場合もあります。そして救急車が到着したときには、再度その旨が受信アプリに通知される仕組みになっています。

より多くの命を救いたい

――なるほど。アプリの仕組みはよく理解できましたが、AEDの使用率向上に着目されたのはどういった理由からでしょうか。

玄正 心臓突然死に対する有効な救命措置は、できるだけ早くAEDで電気ショックを与えて不整脈による心臓の痙攣を取り除くことです。一般に、心臓が止まって5分以内にAEDで処置を行えば50%の確率で救命できると言われています。しかし全国の救急車の平均到着時間は8.5分で、救急車だけでは5分以内の電気ショックは難しく、救命率は10%程度にとどまってしまっています。救急車が到着するよりも早く、周囲の人がAEDを使用することができれば、より多くの命を救うことに繋がります。

 日本は全国に約35万台ものAEDが設置されており、人口比ではAEDが世界一普及していると言われています。しかしながらAEDの使用率は3.5%と低く、AEDがあれば救えたかもしれない命が数多くあります。心臓突然死はその名の通り突然起こりますから、その場に居合わせた人がAEDを使用すれば救命できるかもしれないことを知っていても、肝心のAEDがどこにあるかわからない。仮に周囲のAEDがある場所を知っていたとしても、現場にいる人が取りに行くと往復移動となり、短時間で持ってくることは難しい。この現状にはまだまだ改善の余地があると思いました。

社名に込めた「共助」の思い

――会社名「Coaido」はどのような意味ですか?

玄正 Coaidoを分解すると、「co+aid+do」になりますよね。つまり、co(ともに)aid(助ける)do(ことをする)、「共助」という意味を込めています。共助とは聞きなれない言葉だと思いますが、救急車や消防車などの公的サービスで人を助ける「公助」、個人が救命講習を受けて自分で自分の身を助ける知識を持つ「自助」に対して、人々がお互いに助け合うことを「共助」といいます。心停止者の命を救うためには「公助」と「自助」だけでなく「共助」も必要です。私たちは、そうした共助が緊急時に機能するための社会的インフラを作りたいと思い活動しています。

――このアプリはすでにどこかで実際に利用されているのでしょうか。

玄正 2015年10月から愛知県尾張旭市でアプリの実証実験を行っています。市内すべてのコンビニにAEDを設置しているなど、心停止者の救命率向上に非常に熱心な自治体です。受信アプリを持つ救命ボランティアとして、消防職員・消防団員の方々125名が登録しており、人口8万2000人ほどの市で、3日に1回の頻度で心停止の疑いのある症例が発生して駆け付け要請がされています。尾張旭市での実証実験は3カ月間の予定ですが、実証実験終了後も継続して試行運用していく計画です。

――実証実験を踏まえて、今後はどのような活動を展開されていくのでしょうか。

玄正 実際の現場での使用感を踏まえて製品のブラッシュアップをするとともに、今後は医療関係者や自治体関係者にも受信登録者の拡大を図り、より共助が成り立ちやすい状態を作ることで救命事例を生み出していきたいと思っています。さらに事業パートナーと提携し、サービス提供先の自治体を全国へと拡大していきたいと考えています。

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