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やる気スイッチを入れよう(5)不安をやる気に変える魔法

やる気スイッチを入れよう(5) 不安をやる気に変える魔法
authored by 菊入みゆき明星大学特任教授、JTBコミュニケーションデザイン
ワーク・モチベーション研究所長

 「失敗したらどうしよう」「自分にこんなことができるはずない」など、不安や心配を感じるときが、誰にでもあります。そんな不安を、やる気に変える方法を考えてみましょう。実は、不安でも大丈夫なのです。

「3枚しかできていない」vs「3枚もできている」

 先日、キャリア講義2という授業で、大きな発表会を行いました。11のチームが、企業から出された課題に対して解決策をプレゼンテーションし、優勝チームが表彰されました。

 プレゼン用の資料をパワーポイントで作成したのですが、あるチームは、前の週にスライドが3枚できたという状態でした。チームメンバーの一人は、「まずいよ、3枚しかできていない。間に合わないよ」と心配でたまらない様子。しかし、別のメンバーは「もう3枚もできているんだから、大丈夫。間に合うよ」と明るい表情です。

 ものごとのとらえ方が、メンバーによって違うのです。3枚の資料を、「3枚しかできていない」と悲観的にとらえる人がいる一方で、「3枚もできている」と楽観的にとらえる人もいる。

楽観的な人が成果を上げる

プレゼン大会に向けて、事前の企画作成のグループワークの様子

 これまでの心理学の研究では、気楽で楽観的な人がよい成果を上げる、とされています。「自分はうまくやれる」という自信があるのでがんばれる。また、「もうだめだ」と投げ出すことが少ないのです。言動が明るくて前向きなので、周りの人も元気づけられ、モチベーションが上がって、皆でがんばれる、ということも成果につながるのでしょう。

 特に、競争する場面や、プレッシャーを感じる場面などでは、「もうこんなにできた。大丈夫!」と楽観的であることは大切です。人と競い合うときに、悲観的になっていては、一歩前に出ることはできないし、強いプレッシャーがあると押しつぶされてしまいます。

実は、悲観的な人も成果を上げる

 しかし、実は心配性で悲観的な人も成果を上げることがわかってきました。「まだこれだけしかできていない」と、ネガティブなものの見方をする人の中にも、2つのグループがあるのです。「完成するわけがないから、がんばってもしょうがない」と、取り組むこと自体をやめてしまう「無気力な心配性」の人と、「まずい。がんばらなければ」と考えて、行動を起こす「がんばる心配性」の人です。

 「がんばる心配性」は、「3枚しかできていない」という不安が、やる気の原動力になり、一歩を踏み出します。心配性なので、資料を細かくチェックして、間違いがないか、見落としはないかと確認も行います。 

「がんばる心配性」は、人生2倍おいしい?

企画作成のため、さまざまな意見を出し合う

 「がんばる心配性」 の人は、以前自分がうまくやった経験があることでも、これからやるとなると、また心配になります。「以前うまくいったけど、今度は失敗するかも」「前は、たまたまうまくできただけ」などと、ネガティブな要素を考えてしまうのです。

 そこで、再び準備を始め、あれこれとチェックして、という行動を起こす。すると、当然うまく行く。しかし、次にやるときにはまた不安になる、というわけです。

 「がんばる心配性」の人は、楽観的な人に比べて、毎日の生活の中で、不安やストレスを感じる度合が強いと言われています。しかし、「幸福感」や「満足感」も、楽観的な人と同じくらい持っていることもわかっています。つらいことも多いけれど、幸せなことも多い、という、人生2倍おいしい人だとも言えます。

 実は私も、このタイプです。特に大勢の人の前で話すような仕事は、何回やっても慣れるということがなく、前の晩は不安でたまりません。いくら準備しても足りないような気がしてしまうのです。以前は、自分のこうした性格がイヤで、「どうしてこんなに気が小さいのだろう。なぜもっと、気楽になれないのだろう」と思っていました。しかし、「がんばる心配性」の概念を知り、自分の性格について、それまでと違った見方をするようになりました。「心配性でも、気が小さくても、大丈夫なんだ」ということです。逆に心配や不安が、自分の原動力になっていることに気づかされました。「私はなぜこんなに心配性なんだ」と心配してしまう、という悪循環を断ち切ることができたのです。

 不安を感じたら、「これはやる気の原動力だ」と思って、不安が解消するような行動を起こせばいいのですね。

「3枚しか」と「3枚も」のコラボ

 冒頭に出てきたプレゼンのチームは、「3枚しかできていない」という心配性の人と、「3枚もできている」という楽観的な人が協力し合って、資料を完成させました。成果を上げたわけです。

 心配性の人は、不安を原動力にし、楽観的な人は前向きな自信を原動力にして、互いの力を出し合い、チームワークで結果を出したと言えます。

3つのいいこと「3GTs」を書く

プレゼン大会の様子

 3つのいいこと「3GTs=3 Good Things」という心理学で使われる手法があります。夜寝る前に、今日あったいいこと3つとその原因を書く、というものです。継続して行うことで、ネガティブな意識を低下させ、ポジティブな意識を高めることがわかっています。

 日本では、入社2年目の営業社員を対象に研究が行われ、1週間、3GTsを続けた結果、特に悲観的なグループに高い効果が見られました。仕事に対するポジティブな気持ちが高まり、それは半年後も続いていたのです。

 自分は心配性だ、気が小さい、と思う人は、ぜひトライしてください。書くのがめんどうだったら、思い出すだけでもいいと思います。3つのいいことを実際に書こうとすると、1日をふりかえることになります。夕方以降にいやなことがあった場合には、気持ちがそちらに引きずられてしまいますが、1日をふりかえると、実は午前中にとても楽しいことがあった、という場合もあります。意外にいい日だったじゃないか、と気づくことになります。

 3つのいいことは、どんなことでもいいのです。「1限に遅刻しないで行けた。5分早起きしたのが勝因」「アルバイトの面接がうまくいった。できるだけ大きい声で答えたから」など、自分なりのいいことと、その原因を書きます。

 ネガティブなことだけでなく、ポジティブなことにも気持ちを向けられるようになります。不安をやる気に変えて、楽しい大学生活を送りましょう。

菊入みゆき(きくいり・みゆき) 明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。

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