「社会に必要なこと」を仕事にしよう!
僕ら流・社会の変え方(13)
大学3年生や大学院1年生の皆さんは今、就職活動を控えて自己分析をし、自己PRやエントリーシートの準備をしている頃なのではないでしょうか。振り返ると、僕は心から楽しむことのできる本当に良い仕事に恵まれてきたと思っていますが、僕も大学院1年生のちょうど今頃、「就職」という人生の分岐点で揺れていました。今回は学生のみなさんに対して仕事選びに関して僕なりに考えていることをお話できたらと思っています。
自分の人生を無理やりドラマチックにしないこと
就職活動を控えた皆さんの中には、自分のこれまでを振り返り、中学校や高校時代の学生生活に転機を探してみたり、今のうちに就活でウケの良いネタをつくるのに必死な人がいたりするかと思います。僕のところにも多くの学生が相談に来ますが、「人生の中の大きなエピソード」探しに悩んでいるようです。就職本にとにかく「これまでのストーリーを語れ」と書かれていることが影響しているのだと思いますが、この段になって必死にネタをつくろうとボランティアに励んだりイベントをつくったりする人を見ると、そこまでしなくても......と思ってしまいます。
もちろん、学生時代に何か大きなことを成し遂げていたり、大きな転機を経て劇的に自分の人生が変わったりした人もいるでしょう。それは大いにアピールして下さい。しかし全員が全員、それを語れるわけではないですし、また、その必要もありません。企業の人事部の人たちは何十人、何百人、多い会社では何千人の学生の話を聞きます。その中で無理やりドラマチックにつくられた話はすぐに見抜かれてしまいますし、何より自分の人生をその企業に合うストーリーに変えて受かったとしても、その先に本当に自分が望んでいた仕事は待っていないのではないでしょうか。
ちなみに、この記事を書くにあたり、ある企業の人事部長にヒアリングした際も、同様に「自分を必要以上に飾らず、面接で聞いた質問に素直に答えてくれる学生を評価している。それが『コミュニケーション力』の基本だと思う」とおっしゃっていました。
大切なのは自分の「好き」や「社会に必要なこと」を考え抜くこと
では、何を話せばいいのか。自分の学生時代の経験は率直に話しつつ、大事なのは、如何に「夢を語るか」だと思います。面接官たちに魅力を知ってもらうためには、自分や社会にとって何が大切でこれから何をしていきたいのか、そのためになぜその会社に入りたいのかをストレートに伝えることが重要です。必要なのは、「何が好きか」や「自分がやりたいこと、やらなければならないことは何か」を考え抜くことです。
僕の場合、大学2年次にアメリカに留学し、ニューヨークで起きた同時多発テロ事件で大切な人を亡くしてからは、学生団体やNGO・NPOの活動にのめり込んでいきました。大学院に進んでからは、様々なNGO・NPOに参加した経験から「せっかくのいい活動もそれを周りに伝えていろいろな人を巻き込み、人とお金を集める努力をしなければ小さいまま終わってしまう。救える命も少なくなってしまう」と思いました。「伝える力」と「巻き込む力」が必要だと思い、大学院修了後は、広告会社の博報堂への入社を希望しました。
その時点でプロモーションのスキルも経験もなければ、「好きなCM」の一つもなかった僕でしたが、これから「ソーシャル」分野での広告が必要だし、需要も高まってくるであろうこと、社会貢献意識が若者の間で高まってきていること、何より、広告を通じてNPO業界を盛り上げたいことなどを熱く語ったのを覚えています。いくつかの企業を選び、入社試験を受けましたが、面接では毎回似たようなことを話していました(これまでの経験も、やりたいことをベースに語りました)。そこでは、学生時代の経験よりも夢の部分を話す時間の方が圧倒的に長かったように記憶しています。
今までの自分の経験は書き換えられないけれど、これからの夢を描くことはいくらでも可能です。その夢がこれまでの自分の生き方と一見関係なくても、本気で調べて考えたことはきっと面接官に伝わるし、その後の人生にもきっと生きると思います。
働く場所や形にこだわらないこと
入社後は社会にとって必要なこと、自分のやりたいことをしつこく提案し続けた結果、社内で存分にさせてもらえました。大好きだった博報堂を卒業した今改めて思うことは、仕事を選ぶ際に大切なのは「向き不向き」ではなく、「好きか嫌いか」だということです。今ではすっかり慣れてしまいましたが、正直、僕は人前で話すことが苦手ですし、講演の前はいつも緊張します。
はっきり言ってこの仕事(NPOの代表&議員)は性格的に向いていないけれど、何とかやっていけているのは仲間とともに「自分がやらなければ」という思いがあるからです。『好きこそものの上手なれ』ということわざがありますが、本当にその通りで、好きなものを追いかけていれば少しの困難や苦痛も乗り越えられる。好きだから続き、次第にうまくなっていきます。
ちなみに、僕が就職活動をしていた頃は、いわゆるホリエモンブームとも呼ばれる起業ブームの真っ盛りでした。優秀な人たちは起業をして、自分の力でやりたいことをやり遂げることが一番かっこいいし、人生を楽しめる方法であるという考え方が一般的でした。僕自身も起業して社会を動かすことに少なからず惹かれていたし、そんな気持ちからか学生時代には起業家のカバン持ちなども経験させていただきました。
就職活動をはじめた時には起業も考えていたのですが、その時に気付かされたのが、(今考えると当たり前のことなのですが)起業は目的ではなく手段であり、どんなテーマで起業し、その先にどんな社会を実現したいのかを考え抜き、またそこで多くのお金を生み出せる自信がなければ、中途半端に終わってしまうというものでした。今考えれば、あの時に起業せずに企業の持つノウハウやビジネススキルを十分に吸収し、「好き」をあたためてから独立したことも本当に良かったと思っています。
とはいえ、いきなり自分の人生を懸けられるものは見つからない
いきなり人生を全て懸けられるようなものを見つけるのは、とても難しいことだと思います。こんなアドバイスをしている僕自身も、今の「好き」は暫定的なもので、もしかしたら人生を全て捧げられるものは見つかっていないかもしれません。世の中に必要なことは、時代によってどんどん変わっていきます。それでも、皆さんにはその時一番好きなこと、社会にとって必要なことを突き詰め、そこに全力を注いでみてほしいと思います。
今、世の中で気になっていることは何でしょうか。自分に関われるとしたらどんなことでしょうか。ほんの小さなきっかけからたぐり寄せて、考えてみて下さい。
就職活動は皆さんにとってのゴールではなくスタートです。もっと言えば、就職してもなお、好きなことや自分が人生の中で取り組まなければならないことを探し続けることが大切だと思います。そしてその過程でノウハウや経験を積み、ビジネス化の目処がたち、転職や独立が必要だったらすればいいし、いくつかの仕事を掛け持ちすることだったできるでしょう。「新卒」という一生に一度のせっかくの機会に、ゆっくり考えてみて、調べてみて、参加してみることをお薦めします。
NPO法人グリーンバード代表/NPO法人マチノコト代表/港区議会議員(無所属)/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程に在籍中。早稲田大学大学院修了、広告会社の博報堂を経て現職。まちの課題を若者や「社会のために役立ちたい」人の力で解消する仕組みづくりがテーマ。第6回、第10回マニフェスト大賞受賞。月刊『ソトコト』で「まちのプロデューサー論」を連載中。著書に『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)、『18歳からの選択 社会に出る前に考えておきたい20のこと』(フィルムアート社)。
HP:http://www.ecotoshi.jp
Twitter: @ecotoshi
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