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海外大めざす進学塾、安くないけど活況
小学生向けも

海外大めざす進学塾、安くないけど活況小学生向けも

 海外の大学を目指す中高生が増えている。かつては国内大学に入ってから留学するか、大学卒業後に海外の大学院へ進むケースが一般的だった。最近は小学生向けや地方でも海外進学を支援するサービスが広がっている。月謝はおおむね4万円前後と安くはないが、海外駐在を経験したり、外資系企業で働いたりした親世代が惜しみなく支出しているようだ。盛り上がる海外進学の前線を訪ねてみた。

生徒数は4年で3倍に

 ベネッセホールディングスが運営する予備校「お茶の水ゼミナール渋谷校」(東京・渋谷)。「海外大併願コース」を受講する中学2年生10人が高校レベルの英語を学んでいた。「環境が脅かされるため、その生物に打ち勝たなければならない」。男子生徒が黒板にすらすらと英文を書き上げる。外国人講師とのやりとりはすべて英語だ。

 同校は2011年に高校生向けの海外大併願コースを開設。12年から対象を中学生に広げた。現在は中高生がほぼ半数ずつで、生徒数も約150人と11年より3倍に増えたという。

中学生から海外大学への進学を考えるケースも(東京・渋谷のお茶の水ゼミナール)

 授業は地方にネット中継もする。熊本県の教育委員会が13年度から始めた県内中高生の海外大学進学を支援する事業に採用され、年間30人が学ぶ。実際に海外大学に進む生徒も輩出した。ベネッセの藤井雅徳グローバル事業推進ユニット長は「地方から海外大学を目指す態勢が整い、利用者の裾野は確実に広がっている」と話す。

 ベネッセは08年、米ハーバード大など海外トップ大学を目指す少人数制の学習塾「ルートH」を立ち上げた。合格率5%の狭き門をくぐり抜けるため、英文エッセーや全米共通の学力テスト「SAT」の対策などを指導。ここで蓄えた教育ノウハウを「お茶の水ゼミナール」に生かしている。

 最近は塾の卒業生たちが水先案内人となり、後輩たちの海外進学を導く流れも出てきた。現在、ハーバード大にいる日本人学生の大半にあたる9人がルートHの出身といい、圧倒的な占有率とみられる。卒業生でハーバード大2年の大柴行人さん(19)は受験の際、交流サイト(SNS)のフェイスブックで日本人在校生からアドバイスをもらった。今では大柴さんがSNSで相談に乗る側だ。

 社会人を含め、海外に留学する日本人の数は持ち直しつつある。文部科学省によると、12年に約6万人と8年ぶりの増加に転じた。足元でも「しばらくは増加トレンドになる」(ベネッセ)とみられている。

 教育政策も海外進学を後押しする。文科省は14年度から、語学力などに優れた人材を養成する「スーパーグローバルハイスクール」に全国の国公私立112校を選んだ。11年度から小学5~6年生で英語学習が始まり、14年には英語教育の開始を小学3年に早める方針を打ち出した。日本人留学生を20年までに12万人へ倍増させる目標も掲げている。

人工知能の普及などをテーマに討議する学習塾「igsZ」(東京・渋谷)

親世代に危機感

 政府以上に、親世代の危機感も高まっているようだ。「知識を詰め込む日本の教育システムでは対応できない」千葉県に住む40代の男性会社員は、海外企業の買収案件やグローバル企業との取引が身近になるにつれ、外国人とのコミュニケーションや討論をこなす力は、日本の教育では十分に身につかないと考えるようになった。都内の名門校に通う中学3年の1人娘は海外進学を検討している。現在の世帯年収は1000万円を超える。海外進学すると学費は年間500万~600万円かかる見込みだが、「子供1人なら何とか工面できそうだ」と話す。

 教育サービス各社は、保護者らの危機感を見逃さない。通信教育「Z会」の増進会出版社(静岡県長泉町)は14年に海外大学受験向けの塾を傘下に収めた。運営会社igsZの福原正大社長は東京銀行(当時)入行後、欧州経営大学院で経営学修士号(MBA)を取得。欧州系資産運用会社の日本法人取締役を経て、学習塾を立ち上げた。自ら教壇に立ち、国際政治から哲学まで生徒に議論させて「世界標準のコミュニケーション力」を教え込む。

 英語の講師はほぼ全員が外国人で、10人程度の少人数で授業を進める。特に小学生向けコースの生徒数は前年比約5割伸びている。igsZの後藤道代ゼネラルマネジャーは「15年春は10人限定の体験クラスに100組の応募があり驚いた」と話す。

早稲田アカデミーの英語塾には国内最大級の児童向け洋書図書館がある(東京・千代田)

 「東大・医学部・ハーバードに一番近い英語塾」との触れ込みで、早稲田アカデミーが12年に設けた英語塾「早稲田アカデミーIBS」は小学4年生終了までに英検2級(高卒レベル)の合格を目標にする。特徴的なのは洋書の多読だ。塾には子供向けの洋書図書館が備わり、生徒一人ひとりに合った洋書を貸し出す。常駐の専門家が生徒の興味や語彙力をもとに本選びを手伝う徹底ぶりだ。

 海外進学の前提となる英語教育への関心は年々高まる一方。矢野経済研究所によると、中学生までの子供向け英会話教室の市場規模は15年度に1100億円と、10年度より2割増える見通しだ。大手企業に限らず、海外進出や外国人と働く職場はもう珍しくはない。グローバル化の波に直面する親世代、SNSなどで海外進学の魅力を直接感じ始めた子供たち。国内の大学では満足しない消費者が出現するなか、教育サービス各社も少子化対策の切り札として新たな市場を着々と築いている。
(企業報道部 新井惇太郎)[日経電子版2015年11月27日付]

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