三井住友海上社長からの課題
「日本でイノベーションに
必要なことは?」

日本経済新聞の「未来面」は、日本経済新聞社が読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。共通テーマは「革新力」です。今回は三井住友海上火災保険・柄沢康喜社長が提示した「最先端の技術を発展させるには?」という課題について、学生の皆さんからの多数のご投稿をいただきました。 ここで紹介したのはほんの一部です。掲載できなかったアイデアを日経電子版の未来面サイトで紹介しています。
【課題編】「最先端の技術を発展させるには?」
三井住友海上火災保険・柄沢康喜社長「保険は技術革新を支えるインフラ」
『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の映画をご存じですか。1作目は1985年に公開され、30年前にタイムスリップする話でしたが、2作目は30年後の未来、すなわち2015年の世界を描きました。まさに今です。ドローン(小型無人機)やバイオ燃料、テレビ会議といった技術が紹介されていましたが、そのほとんどが実現されたといえます。
では30年後の2045年といえば、人工知能(AI)が人間の能力を追い抜く「シンギュラリティー(技術的特異点)」を迎えるといわれます。人間の事務作業はAIに置き換えられ、我々の保険業務の一部も代替されていくことが予想されます。
例えばコールセンターでお客様からの相談に人工知能を使って的確に答えていく。そこで得られた情報をビッグデータ分析することで新たなニーズに応えていくことも可能になります。保険業務で重要なことは、新技術が登場してきた際に生じる未知のリスクをどう評価するかです。その場合にも人工知能は非常に有益です。
その意味で保険は技術革新やイノベーションを支えるインフラといえます。新技術を広めるには研究開発、実証実験、実用化などの各段階でリスクが伴います。自動車や飛行機の普及にも保険はリスクカバーの点で貢献してきました。今後はドローンや介護ロボット、再生医療といった分野にも必要になります。自動運転では実験段階のリスクをカバーする保険を昨年末から始めました。少子高齢化で人口が減り、自動車保険のニーズがこれまでのようには伸びない今こそ、こうした技術にチャレンジすることが重要です。
ネット社会ではリスクに対する考え方も変える必要があります。サイバー攻撃を100%防ぐことは難しくなっています。だとすれば攻撃を受けた際の被害をいかに小さくできるかといった善後策を普段から考えておくべきです。日本で技術革新を促すには規制緩和も重要です。消費者保護や産業保護の観点は大事ですが、規制緩和と透明性の確保がなければイノベーションは起きません。既成概念にとらわれない人材の育成も重要です。
そこで皆さんにおうかがいします。最先端の技術を発展させ、日本でイノベーションを起こしていくには何が必要でしょうか。たくさんのご意見をお待ちしています。
(日本経済新聞2016年2月1日付)
◇ ◇
【アイデア編】「最先端の技術を発展させるには?」
アイデア001 次世代への投資
伊藤麻有子(米ワシントン大学セントルイス校修士課程2年、26歳)
米国の大学院で日本研究をしている。米国の学生たちと共に西洋を中心に発展してきた理論などを使い、新しい視点から見た日本を研究している。そこで感じるのは、日本は革新的なものや人に対して保守的だということだ。新しいものに対して「面白い」と素直に受け入れたり、可能性を見据えた上で多少のリスクを覚悟して投資をしたりすることが苦手だ。特に足りないのが教育や若手の人材育成といった次世代への投資だ。新しいテクノロジーや価値観・社会をこの先つくっていくのは若い世代。彼らが自らの研究や創作活動に没頭できる環境を整えるべきだ。学生本人や大学、研究所、ベンチャー企業などへの資金援助は今後、最先端の技術を発展させるのに価値ある投資になると思う。
アイデア002 「使う」発想で実用化
長谷川慶(筑波大学理工学群3年、21歳)
最先端の技術の発展において壁となる段階に「実用化」が挙げられる。実用化にあたって重要なのは技術を「使う」のではなく「生かす」ことだ。実用化に成功した例としてドローン(小型無人機)がある。報道、調査、さらには配送など様々な用途で使われている。これら多くの用途は開発側ではなく、多くの人がドローンを生かした結果生まれた。このような発想こそ現在の日本には必要だ。ではこうした発想をどのように編み出すのか。開発側が企業だけでなく、より多くの消費者に技術を知ってもらい、使ってもらうという努力をする必要がある。多くの人が使うことで、技術の新たな「生かし方」が生まれる。それを企業は利益がでるように事業化する。このサイクルが活発になることで「実用化」の壁が取り払われ、最先端の技術がより発展していくのではないか。
アイデア003 境界を越えた組織
西尾龍二(慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程1年、23歳)
業界や部門の境界を越えた組織が最先端技術の発展に必要だ。例えば、既存のロボット技術を介護用ロボットに発展させる場合、ロボットメーカーに加え、社外のエンジニア、IT(情報技術)の専門家、心理学者など様々な知見を持つ人たちを一つの組織として機能させる。こうした「クロスファンクショナル(部門横断的)組織」は視野や発想を広げ、イノベーションを生み出すだろう。各業界には長年かけて形成された「業界の常識」が存在し、新たな発想を阻害しがちだ。しかし、業界の境界を越え、多様な人と議論すれば、従来気付かなかった視点が得られ、イノベーションを後押しできる。今求められているのは、国内の産学連携にとどまらず、国境を越えた「グローバル・クロス・ファンクショナル組織」だ。
【講評】三井住友海上火災保険・柄沢康喜社長
今回、皆さんのアイデアから、最先端の技術を発展させるための要素として、人材育成、利用者目線の活用、ダイバーシティーの推進というキーワードが浮かび上がりました。
「次世代への投資」は海外から見た日本人の保守性に着目し、リスクを恐れない支援の重要性を訴えています。若い世代が挑戦しやすい環境をいかにして整えるか。我々企業も既成概念にとらわれない新たな仕組みを考えていく必要があるでしょう。
新たな技術の開発には利用者の目線が不可欠です。その点に注目した「『使う』発想で実用化」は、当社が行動指針として掲げている「お客さま第一」に通じる考え方でもあり、深い共感を覚えました。その発展形が「境界を越えた組織体制」なのかもしれません。業界や国境を越え、より多様な発想を取り入れるというオープンイノベーションを提案してくれました。
新たな視点や発想を柔軟に受け入れ、そこから次世代につながるアイデアを生み出す。社会の変化に迅速に対応していくためには、このサイクルを継続することが求められるのだと思います。
(日本経済新聞2016年2月22日付)
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