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富山ラーメンは「ビジュアル系」
五色のスープ競演

富山ラーメンは「ビジュアル系」五色のスープ競演

 とやまはラーメンを色で呼ぶ――。富山県内の食のイベントではこう大書されたのぼり旗がはためく。全国的にも知名度の高い富山ブラックラーメンにブラウンやホワイトなどのラーメンが続く、華やかな色の競演だ。富山ブラック誕生には太平洋戦争末期に米軍の爆撃で市街地のほぼすべてを焼失した富山市の戦後復興の歴史も関係する。

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 2015年3月に開業した北陸新幹線の乗降客でにぎわう富山駅。駅の北口から徒歩十数分の場所にある商店街の小さなラーメン店が「喜八」だ。富山ブラックを看板にする店は多いが、同店はリピーターの多い店のひとつ。「土日になると半分は県外のお客が占める」と店主の亀田進さんは語る。

 ブラックラーメンの特徴はしょうゆのような黒く濃いスープの色だ。とても塩辛くて最初は違和感を覚えるが、慣れると癖になる。喜八のスープは4種類のしょうゆを2カ月間寝かして酒などを加えて作り込む。麺は歯応えがあり、黒コショウをたっぷり振りかけて食べる。並が720円。大が1030円。亀田さんがこの道に入ったのは1999年。ブラックラーメンの元祖とされる市内のラーメン店「西町大喜」の創業者から直接手ほどきを受けた。

富山市の「喜八」店主、亀田さん

 ブラックラーメンの歴史は富山の戦後を抜きには語れない。富山大空襲で市街地の大半を焼かれた富山市には戦後の再建のため全国から多くの労働者が集まった。創業者は働く人の昼食のおかずになる、かんで食べる中華そばを考案した。これがブラックラーメンの始まりとされる。ブラックの名前は有名になってから他の人が付けたものだ。

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 2005年に独立した亀田さんは創業者に「味は時代とともに変えなさい」と教えられ、スープの濃さは「昔の5~6割に抑えている」と語る。濃い味に慣れていない県外客に対応するためだ。富山市内には喜八や西町大喜のほか、東京にも支店を持つ「麺屋いろは」などの店がある。

黒いスープが特徴の富山ブラックラーメン

 富山ブラックに対抗すべく生まれたのが、県東部の入善町で味噌やしょうゆを製造する丸善醤油専務の佐田洋さんら町商工会青年部の有志が2010年に考案した入善ブラウンラーメンだ。やや赤みがかった茶色のスープが特徴だ。

 ブラウンラーメンは丸善醤油で製造する地元産大豆と米こうじを使用した味噌と入善沖海洋深層水から採取した塩、エビのエキスを使ったスープのラーメン。町内外の約20の飲食店で600~700円ほどで食べられるほか、有志が設立した善商が土産用セットを北陸自動車道のサービスエリアなどに卸している。同社は地元産のトウガラシを練り込んだピリリと辛いレッドラーメンも開発した。

右奥から時計回りに、富山ブラック、入善レッド、同ブラウン、高岡グリーン、小矢部ホワイトの各ラーメン

 小矢部市のおやべホワイトラーメンや高岡市の高岡グリーンラーメンも、入善の活動に触発された地元商工者の発案で生まれた。いずれも地元産の食材を使用する。おやべホワイトでは白い豚骨スープと肉味噌に小矢部産の食材を1つ以上使うことが条件。市の特産品である小矢部メルヘンポーク(豚)にちなむ。価格は700円から。

 高岡グリーンもスープの色や具材に県内では最も生産量の多い高岡産ホウレンソウを使った。インパクトのある緑は「伝統産業の高岡銅器もイメージした」(開発した高岡グリーンプロダクツの津田晋也代表)。価格は650円から。

 カラーラーメンによる地域おこしという共通の目標を持つ入善、小矢部、高岡の関係者は、北陸新幹線の開業まで1年を切った昨年夏、ご当地ラーメンを全国にPRする「富山県カラーらーめん協議会」を結成した。レッドとブラックを加えた5色セット(1980円)の発売やイベントへ共同出店する活動などを続けている。「お歳暮や中元としての売れ行きは悪くないが、普段の売り上げをどう伸ばすかが課題」と善商の岡田亮代表は話す。

<マメ知識>路面電車で「黒」巡り
 北陸新幹線で注目を集める富山市にはもう一つの顔がある。次世代型路面電車(LRT)などの公共交通を軸にしたコンパクトシティーのモデルという顔だ。今回取り上げたブラックラーメン3店(喜八、西町大喜、麺屋いろは)は路面電車の駅から徒歩圏にある(喜八は富山ライトレールの奥田中学校前、西町大喜は環状線のグランドプラザ前、麺屋いろはは同富山駅)。LRTで街巡りを楽しみつつ名物ラーメンを味わうプチ観光も面白い。口の中は塩辛さでヒリヒリするのは間違いないが。

(富山支局長 吉田力)[日本経済新聞夕刊から転載、日経電子版2015年12月16日付]

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