東芝とVWが「流動化」させる
電機・自動車業界

シャープの再建を巡る動きが大詰めだ。日本の電機産業で最後に残された懸案が液晶をはじめとする同社の再生スキーム。設計の主体は実質的に銀行に移っているとはいえ、「踏ん切りが悪い」といわれた会社が大なたを振るうことになった背景には「巡り合わせ」の問題もあったはずだ。
浮かび上がった不採算事業の数々
1つが東芝の不適切会計とその後の事業構造改革だ。シャープの再建には液晶、白物家電の分社化という2つの目玉があり、後者の分社後は、同じく再編を検討している東芝の事業との統合が話し合われる見通しだ。
半導体メモリー、パソコン、液晶、テレビ。日本の電機メーカーはもう15年にもわたり、数兆円規模の損失を出しながら構造改革を進めている。引き金を引いたのは2000年のIT(情報技術)バブル崩壊、08年のリーマン・ショックと、2つの世界的な激震だった。
では、平時に起きた昨年の東芝ショックは何をもたらしたのだろう。不適切会計で浮かび上がったのはバブル崩壊やリーマン・ショックでも踏ん切れなかった非効率で不採算な事業の数々。日本を代表する企業にもまだ多くの非効率が存在しているのだという現実が他の企業にもつきつけられた形だった。
パナソニックの三洋電機買収を除けば、大手企業同士の白物家電統合は初めてに近い。だが、日本勢の現実を見てみよう。ユーロモニターによれば、15年の世界シェアランキングで上位10社に入った日本の電機メーカーはパナソニック1社だけだ。
7位の中国・海爾集団(ハイアール)は近く、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業を買収し、5位に浮上する。ということは、その他の海外メーカーも同社に触発されて規模を大きくする動きを本格化するはず。日本の電機メーカーは今後も業界の「流動化」を進め、プレーヤーの過剰状態を解消しに動くべきである。重要なのは、規模の追求を含め、競争の土俵を日本に有利につくり変えていくことだ。
不祥事と言えば、自動車業界のそれも注目に値する。ディーゼル車の排ガス試験を何年にもわたってごまかしてきた独フォルクスワーゲン(VW)。同社が最近、ひそかに狙っているのは、日本優位に進む自動車技術の秩序とルールの作り替えらしい。
表向きは四面楚歌、水面下では再起を狙い...
プラグインハイブリッド車(PHV)や自動運転車。不正問題への批判が冷めやらぬ中、VWが最近、接近を試みているのが排ガスや二酸化炭素(CO2)への規制やPHV普及への助成、自動運転のルール作りを進める米カリフォルニア州政府や国連機関だという。
トップが自動車ショーのあった米デトロイトで1月、「不正のあったディーゼル車のリコール(回収・無償修理)は触媒の追加だけで対応が可能」と言い放ち、その2日後にはカリフォルニア州の環境規制当局からリコール計画の却下を言い渡されている。米国では表向き、政府や自治体、市民運動家の反発を受け、四面楚歌(そか)の状態だ。だが、水面下では数年後の再起を狙い、「別の技術、ルールで巻き返そうと虎視眈々(たんたん)だ」とVWをウオッチしている日本の自動車メーカー関係者は言う。
コンプライアンスは重要だ。だが、「失敗しても、そのぎりぎりのところで上手に振る舞い続ける欧米企業と、失敗に縛られ、動きが萎縮してしまう日本企業の明暗が、グローバル競争の現場ではしばしば目に付く」と早大ビジネススクールの入山章栄准教授は指摘する。
失敗はするもの、というのが欧米流。だとすれば、日本企業もコンプライアンスは守りつつ、失敗を2倍にして跳ね返すほどの巻き返しをする。そんなつもりで、次の競争に向けた土俵づくりを目指すのはどうか。東芝やVWの問題は、日本の内向き志向を考えるいい材料になるはずである。
(編集委員 中山淳史)[日経電子版2016年1月26日付]
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