「好き」という気持ちは作れる
やる気スイッチを入れよう(8)
好きなことなら、いつまでもやっていられるけど、仕事や勉強にはやる気のスイッチが入らない。こんな人は多いと思います。どうすれば、今やっていることを好きになるのでしょうか。
「好きでやってることなんで」
教室で、授業開始の準備をしていると、1人の男子学生が少し早目にやってきました。「おはよう。調子はどう?」と声をかけると、「いいっす。部活、がんばってます」と言う返事。彼は野球部に所属しています。自主トレも含めると、ほぼ毎日練習をするそうです。
「すごいね! よく続くね」と言うと、「そうっすね。まあ、好きでやってることなんで」と淡々とコメントしていました。
私たちは、好きなことには自然にやる気スイッチが入り、行動が起こるし、その行動が続きます。
「好き」はやる気のモトの1つ
「好き」の気持ちは、やる気のモトの1つです。やる気に対する影響力は大きく、安定的と言われています。お金などの「報酬」や、やらなかったときの「罰」も、同じくやる気のモトですが、この場合にはイヤイヤやることになるため、やる気はあまり高くありません。また「報酬」の額の大小やそれを他の人と比較することによってやる気が左右されるなど、影響は不安定です。
ちなみに、やる気のモトは「好き」や「報酬」のほかにも、たくさんあります。「やる気」分析システムMSQ(JTBモチベーションズ開発)という診断ツールでは、11のやる気のモトを設定しています。この連載で、今後いくつかを紹介していきます。
「好き」のパーツ
「好き」を分解していくと、そのパーツの1つに「おもしろい」があります。例えば、ゲームでステージが上がっていくと、どんどん新しい展開があり、少しずつ難易度が増し、「次はどうなるんだろう」とワクワクします。そして、少し難しくなった課題をクリアすると、「できた!」という達成感が生まれる。これが「おもしろい」です。「おもしろい」と感じれば、「好き」になるというわけです。
「おもしろい」には、「できた!」という達成感があること、しかもそれが、今までよりも難しいものであることが大切です。簡単なことができてもつまらないし、「できない」ことばかりでもつまらない。「おもしろい」は、難しさと達成感の微妙なバランスの上に成り立っています。
先に登場した野球部の学生も、毎日の練習や試合で、少しずつ難しいことに挑戦し、それができるようになっていくという実感が、「おもしろい」につながり、「好きでやってることなんで」ということになるのだと思います。
「好き」には時間も必要
仕事や勉強でも、自分が成長して次のステップへ上がっていくときに、「おもしろさ」を味わいます。「今までできなかったことができるようになった」、「やってみたらうまくいった」などです。
初めてやることは、最初はうまくできなくて、「この仕事、好きじゃない」「この勉強、おもしろくない」と思う場合もあります。しかし、3カ月、半年、1年など一定期間を経て、自分に力がついてくると、「できた!」という瞬間がやってきます。おもしろくなってきて、「好き」の気持ちも作られてきます。「好き」には時間も必要なのです。
「できた!」の瞬間を作る
とはいえ、なかなか上達しないと、「やっぱり私にはできない」「自分には向いてない」と思えて、「きらい」になってしまいます。
このような事態を避けるために、「できた!」の瞬間を作ります。
私は、仕事でレポートや書類を作るとき、とりあえず表紙を作成します。タイトルと日付、作成者である自分の名前や所属を書くだけです。それでも、小さな「できた!」感を味わえます。次に、これまた小さな目標を掲げます。「まず、目次だけ作ろう」とか、「書き出しの5行だけ書こう」等です。これができたら、また「できた!」感が湧いてきます。ということを繰り返しているうちに、気持ちが集中し始め、仕事が進むのです。
実はこの原稿も、「今日は、とりあえず全体の構成だけ考えよう」と思って書き始めました。でも全体の構成ができると、「お、できた! もうちょっとやろうかな」とやる気が出て、結局完成しそうです。
小さくてもいいから目標を掲げて、自分に「できた!」感を味わわせましょう。
「おもしろさ」を語ってみる
企業で行う研修の中で、「仕事自慢」をしてもらうことがあります。「自分の仕事が、いかにおもしろいか」「やっていてよかったと思うのは、どんなときか」「どんな人のどんな役に立っているのか」など、自分の仕事について、思う存分語ってもらいます。
「お客様から、自分あてに感謝の手紙をもらった」という感動のエピソードや、「自分の仕事は、ITを使って、世界の人を幸せにすることなんです」という使命感、「1日がんばった後、仲間と乾杯するときにやりがいを感じる」という日常の幸せの話など、人によって自慢の内容は様々です。自慢の後で、「いやあ、自分の仕事って、意外にいいなと思いました」「自慢することなんかない、と思っていたけど、語ってみたら、けっこうあった」というコメントが聞かれます。ふだんの生活では、つい現状の悪いところばかりが目に付きますが、実は良いところもあるのです。
自分がいまやっていることの「おもしろさ」について、言葉にしてみてください。ひとり言でもOKです。
「ユニークな人たちといっしょにやれて、おもしろいんだよね」「やってると、たまに感動するような内容に当たるんだよね」等々、どのようなレベル、どのような観点でもいいのです。今やっていることの「おもしろさ」が発見できます。
「意味」を見つける
「おもしろさ」を語ってみると、「人の役に立っている」「目立たないけど大事なこと」など、「やっていることの意味」に関する内容が出てくることがあります。これも「好き」のパーツの1つです。「これってやる意味あるな。いいことだな」と思うことが、「好き」につながります。「おもしろさ」が瞬間的でアクティブな「好き」だとすれば、「やっていることの意味」は長期的でじわーっとした「好き」と言えます。「誰のどのような役に立っているか」や「これを続けていくとどうなるか」を考えてみましょう。
「好き」の気持ちは、自分で作ることができます。仕事も勉強も部活も、最初から「苦手」「無理」と決めつけないで、トライしてみましょう。「おもしろさ」と「意味」を見つけるちょっとした工夫で、「好き」が生まれ、やる気スイッチが入ります。
明星大学経済学部特任教授、JTBモチベーションズ ワーク・モチベーション研究所長。筑波大学の博士課程で、組織におけるモチベーションの伝染について研究中。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBモチベーションズでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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