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[ liberal arts-大学生の常識 ]

客室乗務員の「おもてなし」
ANA、東大と徹底分析

客室乗務員の「おもてなし」ANA、東大と徹底分析

 全日本空輸(ANA)が東京大学と共同で、客室乗務員の「おもてなし」を科学的に分析している。「外国人の客室乗務員にANA流のサービスを体得させたり、将来は日本のおもてなしを"輸出"したりする」(ANAの幸重孝典取締役執行役員)のが狙いだ。分析の一部始終に密着したので、本記事ではその様子を写真中心に紹介する。

 ANAと東京大学は今回の分析にあたり、客室乗務員の「おもてなし」に関連する動作を定量化することにした。ドリンクサービスや呼び出し対応、ゴミ回収、機内販売などといった作業のタイミングや所要時間、客室乗務員ごとの作業手順の違いなどが、定量化の対象である。

 こうしたデータを収集するための仕掛けとして、営業便の客室内にブルートゥースの発信機(ビーコン)を配置。東大生など共同研究チームのメンバーが、客室乗務員の業務や乗客の搭乗を妨げないよう注意しながら、かばんにビーコンを付けて荷物棚へしまったり、座席ポケットやマガジンラックにビーコンを入れたりした。こうしたセットアップ作業は、およそ1分で手早く行った。

作業のタイミングや所要時間、乗務員ごとの作業手順の違いなどを定量化

 また、客室乗務員はデータ収集用の専用アプリをインストールしたスマートフォン(スマホ)を胸ポケットに入れながら各種業務を遂行。ビーコンとスマホの間で常時通信することで、客室乗務員の現在地を測定し続け、軌跡を記録できるようにした。

客室の各所にセットしたビーコンで動線データを収集

 さらに、客室乗務員の所作の内容については、東大生が1対1で客室乗務員を観察する"人海戦術"でメモをとった。専用の観察メモ用紙を作り、作業の時刻、作業の種類、作業の場所、若手かベテランかを、効率よく記録できるようにしていた。これらのうち作業時刻については、スマホの画面上のボタンを押すとタイムスタンプを記録できるアプリと連動させることで、細かくメモをとらなくて済むようにした。若手かベテランかを記録したのは、おもてなしをより科学的に分析するためには両者の比較が欠かせないという仮説を立てていたからだ。

ビーコンと通信して現在地データを取得するために、専用アプリを搭載したスマホを胸ポケットへ

 分析に必要なデータの収集は、空の上だけにとどまらない。営業便の空港到着後に行われる客室乗務員同士のミーティングまで東大生が観察。「今日のフライトで気づいたことは?」「お客様に『客室が寒い』と言われる前に気づいて調整を...」「お客様の上着をお預かりするタイミングは...」。こうした客室乗務員同士の話をメモし、客室乗務員の行動の背景にある考え方や判断基準を探った。

所作の内容は東大生が人海戦術でメモ

ベテランの「心」と「技」の本質に迫る

 こうして集めたデータの分析は、ANA総合研究所の担当者と東大の原辰徳准教授の研究室が共同で実施している。産業技術総合研究所(産総研)が開発した分析ツールを使い、ビーコンによる軌跡と東大生による観察メモを突き合わせて、客室乗務員の行動をひも解いていく。2016年5月まで続く共同研究でデータの収集と分析を繰り返し、ベテラン客室乗務員が無意識に振る舞っている「おもてなしの行動」とは何なのかを浮かび上がらせていく方針だ。

到着後のミーティングでの「振り返り」も貴重な情報源

集めた情報を基におもてなしを分析

東大の原辰徳准教授(手前右)ら共同研究チーム

 「最初から『おもてなしの心』や『匠の技』の再現は難しい。だが、ベテランの客室乗務員が体得している『乗客の要望に気づきやすい振る舞い』『乗客が声をかけやすい振る舞い』などは、データから何らかのヒントが得られるはず。そこから徐々に、おもてなしの本質に迫っていきたい」と原准教授は語る。

(日経情報ストラテジー 金子寛人)
[日経情報ストラテジー2015年12月号の記事を再構成、日経電子版2016年1月25日付]

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