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ラグビー日本代表のメンタルコーチが指南
心の整え方

ラグビー日本代表のメンタルコーチが指南心の整え方

 ラグビーW杯で活躍した日本代表も、4年前は寄せ集めの「自信のないチーム」だった。彼らのマインドを変えて勝利に導いたメンタルコーチに、働く女性ができる「心の整え方」を聞きました。

自信を持ちたいなら、行動を変えることが大切

 「自信がない自分を変えたいなら、日々の行動を変えること。理想の自分をイメージして、何をすれば近づけるかを考え、実行していく。その繰り返しで、自信は生まれていきます」

 そう話すのは、元ラグビー日本代表のメンタルコーチを務めた荒木香織さんだ。

 自信がない──。それはまさに、4年前にエディー・ジョーンズ氏が監督に就任した当時の、日本代表の姿だった。

 過去のW杯での勝利は1回だけ。「4年後に勝てる自信なんて、誰もなかった。代表に招集されても『どうせ勝てない』と、断る選手すらいたんです」

荒木香織さん(42歳) 元ラグビー日本代表メンタルコーチ、兵庫県立大学環境人間学部准教授。大学卒業後に渡米、ノースカロライナ大学大学院で運動スポーツ科学の博士号と女性学の学位を取得。米国、シンガポール、日本でメンタルスキルの指導に関わる (写真:白谷賢)

 最初に取り組んだのは、そんな「寄せ集め」たちに誇りを持たせることだった。選手たちと方法を考え、注目したのが、国際試合の前に歌う『君が代』だ。

 「強豪国の選手たちは、試合前に胸を張って大声で国歌を歌っている。一方、日本チームは外国出身の選手も多く、当時は下を向いてボソボソと歌っていた。これでは勝てません」

 そこでリーダー格の選手が中心となり、『君が代』を学ぶミーティングを開いた。日本語とローマ字で歌詞を書き、意味を確認。大声で歌う練習もした。「2年目の国際試合で、自分たちだけでなく外国人コーチまでが肩を組んで歌っているのを見たとき、選手たちは『おおっ』と思ったそうです。誇りを実感できた瞬間でした」

 同時に、物事の受け止め方を前向きに変えるため、言葉の使い方もトレーニングした。

 相手が失敗したときは責めるのではなく、「次はこうしてほしい」と提案する。成功したときは「今のはよかった」などと、前向きな言葉を掛ける。「これを習慣づけた選手たちは、壁にぶつかったときも『できない』ではなく、『どうすればできるのか』と前向きに考え、行動できるようになりました」

 さらに、荒木さんが重視したのは、選手たちの身の回りの整頓。脱いだ靴はそろえる、飲んだペットボトルは片づける、ロッカーは整頓する...。「ラグビーの試合では、混沌とした展開のなかでも規則を守り、失点につながるミスや反則をしないことが重要。けれど、普段の生活でできないことが、試合でできるわけがありません」

生後11カ月(当時)の長男を連れて、南アフリカ戦のために渡英。大会終了後、選手たちから荒木さんと長男に、サイン入りユニフォームが贈られた

 規律を守ってミスを減らし、よい結果につなげていく──。W杯の1年前には国際試合で連勝。W杯の南アフリカ戦での勝利は奇跡ともいわれたが、「勝てる自信はあった。4年間努力を積み上げてきたのだから」と、荒木さんは振り返る。

 それでも不安に襲われる選手には「今できることに集中しよう」と助言。「不安を感じるときは、意識が将来に向いている。そうではなく、今に集中して、できることを実行するんです」。

 例えば、五郎丸歩選手のキック前の動き「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」も、「今に集中する」ためのもの。「試合相手、試合の流れ、芝の状態...何ひとつ自分では変えられない。けれど、あの動きだけは自分でコントロールできる。動作に集中することで、不安や心配を取り除き、成功率を高めることができるのです」

 働く女性も自信を持ちたいなら、「今できること」に集中してみる。そして、自分の行動を少しだけ変えてみる。その先に、W杯での日本代表のような、自信に満ちあふれた自分が待っているかもしれない。

 毎朝、鏡の前で「自信を持つ!」などと言い聞かせても、残念ながら自信は持てません。マインドを変えるには、行動を変えることが必要です。ラグビー日本代表が『君が代』を堂々と歌うことから始めたように、普段の表情や姿勢、声の大きさを変えてみましょう。「自信があるように振る舞う」ことから、自信は生まれていきます。

 「私にはできない」「どうせ無理」…。こんな言葉を口にしていては、自信は持てません。「悩んでいる」は「よく考えている」、「できないかも」は「きっとできる」「やってみよう」…。このように前向きな言葉に置き換えて、自分に声を掛けてあげましょう。その言葉を信じて、やるべきことを実行していけば、自信はつくはずです。

 大事な場面で冷静さを保ち、力を発揮するためには、普段から身の回りを整えることが大切。モノを整理整頓すれば、心も整理整頓しやすいからです。働く女性なら、仕事に必要な書類やパソコンのファイル、バッグの中身などを常に整頓し、スムーズに作業に取り組めるように心がけましょう。そうして仕事上でのミスを防ぎ、成果を挙げることが自信につながります。

 スポーツも日常生活も同じですが、将来のことは何ひとつ思い通りになりません。だったら今、自分ができることだけに時間をかけ、集中するべきです。例えばプレゼンが不安なら、言葉の選び方、論理の組み立て方、資料の完成度など、今すぐに工夫できる点はたくさんある。練習や準備を繰り返すことで、いつか必ず「できた」「大丈夫」と思える日が来ます。

[日経ウーマン 2016年1月号の記事を再構成、日経電子版2016年1月24日付]

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