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教科書は街おこし(3)「社会人基礎力」の磨きかた
~「三重苦の若者」にならないために

教科書は街おこし(3) 「社会人基礎力」の磨きかた~「三重苦の若者」にならないために
authored by 久米信行久米繊維工業会長

久米信行の教科書は街おこし(3)

 みなさんは「社会人基礎力」という言葉をご存知ですか? 「社会人基礎力」とは、経済産業省が2006年から提唱している「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことです。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されています。

▼詳しくは、「経済産業省のホームページ「社会人基礎力」」

 私も、企業経営者・大学講師・NPOサポーターの三方から、イマドキの大学生と交流しておりますが、正直に言えば、この「社会人基礎力」なるものが欠けている学生が多いようです。さらに正直に言わせてもらえば、今、企業やNPOの現場で求められているのは、「基礎学力」「専門知識」よりも「社会人基礎力」なのです。つまり経営者は「社会人基礎力」が高い学生を採用したいのです。

 ところが、企業やNPOを経営しているリーダー仲間と話すと、「指示待ちで受け身」「言われたことしかしない」「コミュニケーションもチームワークも苦手」という「三重苦の若者」への不満ばかりが聞かれるのが残念でなりません。

 私は、大学講義で出会った若者たちを元気づけるため「すぐやる技術」「やり抜く技術」「認められる技術」「出会う技術」といった著作を書き続けています。それも、言わば「社会人基礎力」不足の若者たちに、大きな危機意識を持っているからに他なりません。

「社会人基礎力育成グランプリ」に参加して「まち」に出よう

 それでは、どうすれば「社会人基礎力」を身につけることができるでしょうか? 何を学べば、どんな職場でも歓迎される人財、すぐに大きな仕事を任され、将来はリーダーと見込まれる人財になれるでしょうか?

 残念ながら、ただ大学の教室でこれまで通りに講義を受けているだけでは「社会人基礎力」は身に付きません。現在の国策である「地方創生」でもテーマになっている通り、書を捨てて「まち」に出て「ひと」に会わなければ、「こと」を共に起こさなければ身に付かないのが、「社会人基礎力」なのです。

 そこで考え出された素晴らしい仕組みが「社会人基礎力育成グランプリ」です。これは、全国各地の大学で考え出され実践されている「社会人基礎力育成」の取組みを、学生たちが発表して競い合う年に一度の大会です。

 社会人基礎力育成ブランプリには、お題もなければ、教科書も模範解答もありません。全国各地の大学の心ある教師とゼミ生が、商品・サービス開発から、街おこし、防災、伝統文化継承まで、地域の課題を探して選びます。そして、新しいプロジェクトを自分たちで考えて、地元の企業、団体などのパートナーを見つけ出し、恊働しながら実行するのです。

 さまざまな失敗を繰返しながら、自分たちが企画したプロジェクトを自分たちのチームワークで実現するプロセスこそが大切です。そこで、学生たちは教科書やネットには書いていない多くのことを学ぶのです。

「社会人基礎力グランプリ」の審査員をしてわかったこと

 光栄にも、私は毎年「社会人育成グランプリ」関東地区予選の審査員を務めています。そこで、毎年、素晴らしい発表を聴かせていただいて(時には私の意地悪な質問にも答えていただいて)胸が熱くなるのです。

 審査員をしながら気づかされたことはいくつもあります。

1)大学の知名度や偏差値は「社会人基礎力」と関係がない
知らず知らずのうちに、私たちは大学を知名度や偏差値で値踏みしがちです。しかし、それが間違いだと審査員をしていて痛感しました。毎回、優秀な発表をされる学校は、世間で知られるような名門校ではないのです。

 だからこそ、健全な危機意識を持って、独自なカリキュラムを創造して他の大学と差別化する戦略を取っていることもわかります。アイデンティティー確立のために、先生と生徒が一丸となって、こうした有意義な全国大会を見つけてチャレンジをするのでしょう。

2)半ば変人の指導教官こそが学生を伸ばす
毎回、審査員をしていて感じるのは、大学の力というより、指導教官の力が圧倒的に大きいということです。おそらくは、十年一日のごとく同じ講義ノートを使うような教授とは大違い、独創的で異色な先生方でしょう。中には民間企業などアカデミズムの外部から先生になられた方も多いようです。

 ですから、自らが直接指導することよりも、どれほど困難な課題を与えるか、どこまで助言を与え、どこからは自ら考えさせるかを心がけているのです。学生が自ら伸びる仕組みに長けているとも言えましょう。

3)恊働するパートナーこそが真の先生
グランプリに挑戦する学生たちの多くは、学外の企業・官公庁・大使館・地域団体・NPO法人などと恊働して、プロジェクトを企画・運営します。もちろん、学生がすることですから、当然ながらパートナーに門前払いされたり、怒られたりすることも多いでしょう。イマドキの社会人なら、3日、3カ月で退職してしまうような状況です。

 しかし、親にも教師にも叱られることの少ない学生たちにとって、こうした心ある大人による叱責とそれを乗り越える体験こそが、社会人基礎力を伸ばすチャンスなのです。

左から2人目が筆者

「社会人基礎力グランプリ」に参加する方法

 審査員会で発表者の学生たちの目の輝きを見て、私は、ひとりでも多くの大学生に「社会人基礎力グランプリ」にチャレンジしてほしいと考えています。

 そこで、いま私が大学生だとしたら、どのように参加するか考えてみました。

1)社会人基礎力育成グランプリに参加している先生のゼミに入る
ゼミを選ぶ時は、様々な視点があると思いますが、社会人基礎力グランプリに積極的に参加している先生を選ぶのも良いでしょう。私が、関東地区予選でお会いする先生は、私が学生だったら習いたいと思うような立派な先生が多いのです。そんなゼミに入れば、きっと「意識高い系」の先輩にも恵まれて、未知成る自分に出会えるでしょう。最初から、グランプリに参加したいと宣言すれば、きっとリーダー格として活躍できるはずです。

2)ゼミの先生に「社会人基礎力育成グランプリ」出場を申し出る
既にゼミに所属している学生であれば、思い切って先生にグランプリ出場を申し出ても良いでしょう。心ある先生であれば、イマドキの学生からポジティブな申し出があった時、断る理由は見つからないはずです。多くのグランプリ参加ゼミは、ゼミの研究テーマと重なったテーマで発表をしています。卒論などの作成と合わせて、プロジェクトを進めれば、本来のゼミ活動を強化こそすれ、障害となることはないはずです。先生やゼミの仲間と一緒に、グランプリの予選や決勝を見学しても良いでしょう。

3)地域の商工団体、NPO支援センターなどでパートナーを探す
グランプリに参加するからには、課題解決のために、多くのパートナーと恊働することを目指しましょう。まずは、近隣の地域にどんな企業やNPOがあるかを知ることが最初のステップです。そのためには、自治体の関連部署はもちろんのこと、地域の商工団体やNPO支援センターの事務局長にお会いすることが大切でしょう。きちんと主旨を説明できれば、きっと良いパートナーを紹介してくださるはずです。ご紹介いただいた企業や団体のリーダーは、もうひとりの指導教官だと尊敬して、素直に教えを請いましょう。

社会人基礎力育成グランプリ「すみだ版」を実現したい!

 2016年の全国大会を見学しながら、私の地元墨田区の観光まちづくり、中小企業振興、生涯教育に役立てるアイディアを思いつきました。それは、社会人基礎力育成グランプリを進化させた「すみだ版」です。

1)墨田区の団体や企業(パートナー)から、学生向けの課題を出してもらう
例)すみだ北斎美術館とコラボした新商品・サービス・イベント開発
2)参加希望の大学ゼミ(個人)を募り、1)の課題とパートナーを選ぶ
3)大学ゼミが提携希望のパートナーに簡便な提案書を提出→マッチングする
4)パートナー企業・団体は、学生を研究生やインターンとして全面協力
5)実現したプロジェクトの成果を、関係者みんなで体感しモニターし合う
6)5)の成果を踏まえ、大学関係者、パートナー企業・団体も招き大発表会
7)商品化できるものは実現して、ロイヤリティーなど成果を大学に配分する

 この新しいチャレンジで、まちをビジネススクールにする私の妄想も一歩前進させられるでしょう。2016年11月に開館予定の「すみだ北斎美術館」の活用を核として、ぜひ実現させたいと思います。

「社会人基礎力育成グランプリ2016 全国決勝大会」結果


「社会人基礎力育成グランプリ2016 全国決勝大会」が2016年2月22日、拓殖大学文京キャンパスで開催されました。全国6地区大会(46大学、55チーム参加)を勝ち抜いた8チームが決勝に臨みました。

出場大学 旭川大学 経済学部(北海道東北地区)、創価大学 経済学部経済学科(関東地区)、多摩大学 経営情報学部(関東地区)、愛知学泉短期大学 食物栄養学科(中部地区)、大阪工業大学工学部電気電子システム工学科(近畿地区)、京都産業大学 文化学部・京都文化学科・京都文化コース(近畿地区)、高知工科大学 経済・マネジメント学群(中国四国地区)、福岡女学院大学 人文学部現代文化学科(九州地区)

 各チームの学生たちは、ゼミ活動で何を目標に、どんな活動をし、どんな結果にたどり着いたのか、そしてその活動の中でどれだけ自分たちが成長したのかを発表しました。

そして、経済産業大臣賞(大賞)に輝いたのは、大阪工業大学チーム(近畿地区代表)、準大賞には創価大学(関東地区代表)、多摩大学(関東地区代表)が輝きました。

大阪工業大学 工学部 電気電子システム工学科「未来エネルギー機器開発で学生チームが世界の強豪に挑戦 -社会に通用する開発部隊への成長-」

創価大学 経済学部経済学科 「幸せおすそわけプロジェクト ~Mottainaiを行動に 食品ロス削減を目指して~」
多摩大学 経営情報学部「日本大好きプロジェクト」

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