物件探しで鍛えられた忍耐力と精神力
わたしがカフェを開くまで(6)
大学3年生の7月、ForuCafeの実店舗を開こうと決めました。とはいうものの、当時は何から始めたらいいか見当もつきませんでした。そこで、本屋さんで「飲食店の開き方」みたいなタイトルの本を購入して読み込むところからのスタート。「まずは事業計画を書こう♪」とあったので、我流で事業計画を書きました。
事業計画は3日間で書き上げました。お店のコンセプト、収支計画、開店までのスケジュール。事業計画を書き進めると、実店舗を持つことの実感が湧いてきてとてもワクワクします。思い立ったら即行動、迷っていると前に進めなくなってしまうと思ったので、3カ月以内にお店をオープンさせることを目標にしました。
それから物件探しをはじめました。カフェを立ち上げるとき一番大変だったことは何かと聞かれたら即答で「物件探し」と答えます。孤独の戦いの幕開けでした。実店舗を持つのであれば、文化の発信基地となりうる場所、表参道か代官山にと考えていました。そこで、まずは気軽にインターネットで物件を探し始めました。良さそうな物件を見つけては電話をかけて内見の申し込みをする、その繰り返し。この段階で何件か内見をしましたが、なかなかいい物件が見つかりませんでした。インターネットに載っている情報は古く、いいと思った物件は既に契約済みのことがよくあり、その情報はほとんどあてにならないことが多かったのです。
次に不動産屋さんを回りました。はじめは早稲田の不動産屋さんに問い合わせましたが、ここでもいい物件が見つかりませんでした。それどころか、まだ学生で物件を借りてお店を開きたいというと、「お嬢ちゃん、夢が大きくていいねぇ」なんて相手にしてもらえないこともよくありました。
続いて表参道と代官山の不動産屋さんを回りました。表参道と代官山の不動産屋さんの方が付近の情報に詳しく、持っている情報も多いことは確かでした。それでも「これだ!」という物件は見つかりませんでした。ある不動産屋さんから、「実際に歩いて回ってみると、もしかしたらこちらに上がってきてない情報で空き物件が出るかもよ」と教えていただいたので、地図とカメラを手に歩き回っていました。
昼過ぎまで大学の授業に出て、夕方から薄暗くなるまで表参道の裏道を練り歩き、テナント募集の張り紙を見つけては写真を撮って地図にメモをする孤独で地道な作業。メモを見て不動産屋さんに片っ端から電話をかけました。飲食NGで門前払いの物件も多く、とても泥臭い作業でした。このときばかりは断られ続けて途方に暮れていました。当初、物件は1週間で見つけるという予定でしたが、1週間たってもいい物件が見つからず、出だしは最悪。事業計画を書いて広がっていた夢が、いとも簡単に打ち砕かれそうでした。
「想定している倍の費用がかかる」
物件探しを始めて8日目、ようやく代官山に1軒、条件に合いそうな物件を見つけました。駅から徒歩5分、素敵なお店が軒を連ねる通りの一角。2度内見をし、店内の内装イメージなども固めて、それに合わせて事業計画を作りました。客席は25席、お客さんの動線も細かく考えました。それから内装工事をお願いする業者の方に立ち会っていただいて3度目の内見のときのことです。「これ、相当費用かかるよ。想定している倍の費用がかかる」と言い放たれたんです。
その物件は、もともと野菜の倉庫として使っていた物件で、ガスも電気も水道も通っていなかったのです。それをゼロから整備するには費用が嵩むということでした。全ての計画が白紙に戻ってしまったのです。頭も真っ白になり、途方に暮れてしまいました。
代官山や表参道など理想的な場所の物件はコスト面で無理だということが分かりました。コストを抑えた場所なら土地勘がある場所がいい。そこで一人暮らしの自宅と学校の近い、早稲田で探そうと考えました。7月も半ばに差し掛かり、じりじりと日差しの厳しい季節。太陽が昇りきる前の早朝6時から、自転車で高田馬場~早稲田の街をぐるぐると「テナント募集」の張り紙を探して走り回りました。この頃には不動産とのアポイントの取り方も、若いからといって見くびられないような対応の仕方も、内見をした際のチェックポイントも完璧にわきまえていました。
運命の物件を見つける14日目
そして物件探しをはじめて14日目、ついに、ある物件を見つけました。2階建てで電気も水道も通っていて、トイレもついていてサイズ感も家賃もぴったりな物件。早稲田駅から徒歩6分。大学からは徒歩3分、自宅からも近い場所です。ここであればあまり手を加える必要がなく、費用は予算内に収まりそうでした。事業計画を書き上げ、やっとの思いでスタートラインに立てました。
1週間で物件を探すという目標でしたが、結局決定までに2週間かかりました。物件探しはタイミング。運命の物件を見つけ出すまで、ものすごい忍耐力と精神力が必要です。この2週間でその2つの力が相当鍛えられました。
1992年生まれ、広島県出身。フレンチレストランのキッチンでのアルバイトをきっかけに料理の世界に魅了される。2012年8月より2カ月間、単身オーストラリアのシドニー渡り、billsサリーヒルズ店、ダーリンハースト店で修業。帰国後、料理教室・ケータリング単発のカフェプロデュースなどを手がける。13年9月に日本初のブリュレフレンチトースト専門店『ForuCafe』、14年11月にシチュー専門店『ForuStew』をオープン。15年4月に黄金比グラノーラ「FORU GRANOLA」をオープン。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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