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卒業の季節に学生へ贈る言葉(下)成功の反対は失敗ではなく
何もやらないこと

斎藤ウィリアム浩幸 authored by 斎藤ウィリアム浩幸インテカー社長
卒業の季節に学生へ贈る言葉(下) 成功の反対は失敗ではなく何もやらないこと

 コンサルタントで内閣府参与の齋藤ウィリアム浩幸さん(インテカー社長)が2015年5月、母校の米ダミアン高校で卒業式に招かれ、祝辞スピーチに登壇しました。この時の発言趣旨を和訳したものを3回に分けて、日経カレッジカフェでお届けしています。本日は、いよいよ最終回です。どうぞお楽しみください。

人間的な知性の領域は「ファジー」にある

 今年はムーアの法則が生まれてから50年目にあたります。皆さんがすでに知っているように(知っていて欲しいと思っています)、半世紀前にインテルの創業者、ゴードン・ムーアが「1つのマイクロプロセッサを構成するトランジスタの集積度は、コストを一定に保ちながら、24カ月ごとに倍増し続ける」と予測しました。この予測は驚くほど的中しています。多くの皆さんが想像されるように、ここで言う倍増は一次関数的な増加ではなく、累乗的な増加のことです。

 これを現在の条件に当てはめると、コンピューターが人間の脳より高い能力を有するようになるのは、わずか8年後の2023年か、場合によってはもっと早い時期に推定されます。さらにそれから20年強が経過する2045年頃には、マイクロプロセッサは地球上のすべての人間の脳を合わせたより高い能力を持つようになるでしょう。恐るべきことです。

 シンギュラリティーはコンピューターを専門としない人にとっても重要な概念です。特にこれから数年の大学生活を送り、2020年あたりに就職活動を予定している方々にとって、避けては通れない問題となることでしょう。皆さんの世代は、従来とまったく違う労働市場に投げ込まれることになります。

 ではこのような世の中で、皆さんはどうすれば自分を差別化できるのでしょうか? 機械に使われる人間ではなく、機械を使う側の人間になるにはどうすればよいでしょうか? もちろん、あなた自身がルールに従うコンピューター性の強い人間になることではありません。むしろそのまったく逆を行くべきです。あなたという存在の人間的な面を育み、人間にしかできない推論、判断、意思決定など、いわゆる「ファジー」領域の作業に関する思考能力の強化に努めてください。

 幸運なことにダミアン高校は、皆さんがこのような人間的な知性を育てるための土台作りも手伝ってくれました。皆さんは、これまでにない視点で考え、創造力を発揮し、問題解決の新しい方法を発見するにはどうすればよいかを学びました。また皆さんは、倫理観や道徳観を身につけ、ボランティア精神の価値を学び、人生の中で宗教が果たす役割についても学びを深めました。

 皆さんはまだ、自分たちがいかに重要なことを学び、現実社会を生きる力を身につけたのか気づいていないかもしれません。しかし、皆さんはすでに、貴重な訓練を積んでいます。人間にしかできない作業に脳をうまく使える人は、シンギュラリティーを経た後も能力に相応しい仕事を獲得し、何年にもわたって生計を立てられるようになるでしょう。

安全なテリトリーを離れることでしか人間の知性は進化しない

 シンギュラリティーを目前に控えたほとんどの企業は、既成概念の殻を打ち破り革新的に考えることができる人材を求めています。どうすればそんな人材になれるのでしょうか?皆さんの内に秘められた才能を探り当て、自分の中に存在していたことさえ知らなかった知性を掘り起こすには、どうすればよいのでしょうか?

 教科書を読み、その内容を記憶して、試験を受けることでは、私たちは新しい自分になることはできません。 必要なのは既存のルールを批判的であること。注意深く観察すること。そして身の回りのすべての活動に「ライフハック」を行って生活をより良いものにすることです。

 脳を変えるには、新しいことに積極的に挑戦し、いつもの安全なテリトリーを離れて冒険する必要があります。より早く自分を変えたいと願うのならば、自分に刺激を与えてくれる課題を次々と見つけ出さねばなりません。何をやるかは重要ではなく、これらの行動を起こすこと自体が重要なのです。

 行動を起こせば必ず起きると、保証できることがあります。それは成功ではありません。誰も成功を保証することなどできませんから、私が皆さんに保証できること、それは必ず失敗を経験するということです。皆さんはこれまでの人生にも、何度か失敗を経験してきたことでしょう。失敗すれば落ち込み弱気になるものです。これは必ず起きることです。これまでとても順調に人生を送ってきた方は失敗を嫌がり避けようとするかもしれません。しかし、失敗を歓迎すると面白い現象が起こります。あなたの物事を見る目が変わったり新しい才能を発見したりするだけでなく、脳そのものが変わっていくのです。

安全モードで人生の無駄遣いをしてはならない

 本日、優等学位を獲得された方や優れた功績を讃える賞状を授与された方々に称賛を送りたいと思います。よく頑張りましたね。特に自らを優秀と自認する方ほど、将来に不安を感じていないかもしれません。だからこそ、そういう方にこそ私は言いたいのです。「失敗を恐れるな」と。

 アインシュタインは「一度も失敗したことがない人間は、これまで何も新しいことに挑戦したことがない人間である」と言いました。皆さんがこの学校を出た後に、もし何も新しいことに挑戦しようとせず自らの優秀さを信じ続けることがあれば、それはダミアン高校にとっての失敗です。

 人間は誰でも幸せになり、時には笑って暮らしたいと望むものです。この欲求は動物の中でも人間にしか備わっていない特性でもあります。しかし人間が「幸せ」と感じるメカニズムの本質は、人生における失敗経験と成功経験の比較にあります。失敗を経ることのなかった成功には比較の対象となる経験が不足します。苦節の年輪がなければ「有り難い」の本当の意味は理解できないでしょう。

 人間の脳は変化に反応するものです。やりたかったことに完全に失敗して、そこから立ち上がって、次にどう動くかを決めることは素晴らしい刺激です。変化に対応し、人生における重大なつまずきに対処することを学ぶ。これこそ人間の脳が急激に成長するために必要な過程なのです。

 豊かな人生には分別のあるリスクと新しいことへの挑戦が必要です。どうか「安全モード」で生きることで、人生を無駄にしないでください。失敗は人生というシステムから外せない一部であり、人生脚本を構成する要素です。失敗せず人生を生きることはできませんし、そうすべきでもありません。

 今、多くの方が私の話を聞きながら、スマートフォンでメッセージをチェックしていると思います。振り返ってみると、アイフォーン(iPhone)の最初のモデルはあらゆる意味で力不足でした。しかし新たなモデルが発表されるたびに品質が向上し、今や彼らが最初に示したビジョン、すなわち、テクノロジーが持つ新たな可能性の実現という意味では、当初からの目標をはるかに超えた着地点を見ているのではないでしょうか。皆さんが卒業式の日にも片時も手放せないそれこそが、やる気にあふれた先人たちが、数限りない失敗を糧にして世の中をより良くした証明のひとつです。

成功の反対は何もやらないこと、外の世界に勇気を持って飛び出そう

 本日、この会場に角帽とガウンを着て座っている卒業生の皆さんは、すでに当たりくじをひいた方々です。ここに座っているということは、皆さんが知的で、責任感があり、努力家であることを示しているからです。皆さんは、他の世界にいる無数の人々よりも、有利なスタートを切りました。この先シンギュラリティーを迎えるにあたり、新しいことに挑戦し、失敗した経験から学んで、成功するまで何度もトライを続ける意思のある人々には必ず新しい可能性が開けるでしょう。

 日本には「七転び八起き」という諺があります。失敗にくじけず繰り返し立ち上がり続ける、という意味です。しかし、ただ立ち上がるだけでは不十分です。何の工夫もせずに、黙々と転んでは黙々と起き上がることを続けていればそれで良いという安易な話ではありません。失敗した経験から学び、起き上がるたびに賢くなることが大切です。失敗は世界で最高の教師です。ただ、皆さんに失敗から学ぶ姿勢がない限りは、いくら素晴らしい教師でも真価を発揮できません。

 ダミアン高校は私を含む皆さんに、素晴らしい成功を収めるための土台を与えてくれました。進学される皆さんは大学で優れた学業成績をおさめられることでしょう。しかし、それだけでは私が話してきた挑戦とは似て非なる成果です。皆さんは、自分の目指す目標を定め、決して目を離さないようにしてください。大学での生活が残りの人生を決めるようなことは避けましょう。自分が大学にいる理由、大学でやりたいこと、大学生活から得たいことを決めてください。わくわくできること、夢中になれることを見極め、どうアプローチするべきか考え抜いてください。

 現時点で、取り組みたい何かがわからなくても構いません。ただ、わからないという方はわからないからこそ、もっと積極的に新しいことに挑戦するべきです。自分のいつもの範囲を超えて、リスクを取ってみましょう。自分が得意なこと、そして苦手なことを見極めてください。好きなこと、そして嫌いなことを確かめましょう。自分に新しい挑戦を与える方法を見つけてください。それが皆さんの脳を「育てる」ことになるからです。

 高校では、先生方が皆さんに課題を与えて挑戦させてきました。しかし大学では、それは教授のやる仕事ではありません。高校卒業後は、課題を見つけることも、その課題をどう達成するかも、皆さん一人ひとりが行う仕事になります。

 幸運なことに、皆さんは、世界で最も多様性に満ち、起業家精神にあふれ、新しい挑戦をすることに支援を惜しまない環境に暮らしています。ほんの20年ほど前に、ここカリフォルニアから始まった刺激的で、リスキーで、起業家精神あふれる世界は現在、米国経済を支える主要産業のひとつに成長しました。このクレージーで素晴らしい世界は実のところ、失敗を糧として築かれたものなのです。

 皆さんが新たなことに挑戦により、心から夢中になれるものに出会えることを祈っています。夢中になれることが見つかった瞬間から人生が面白くなるからです。これこそ、本当の幸せです。幸せとは目指す収入を得られるようになることでもないし、特定の職業に就くことでもありません。あなたの才能を活かす新しい方法を探してみましょう。それがどんなものであっても、絶対に失敗することを恐れてはなりません。失敗とは経験のこと。ただ呼び名が違うだけです。

 私がいつも言っていることですが、「成功」の反対は「失敗」ではありません。成功の反対は「何もやらないこと」です。ですから皆さん、外の世界に飛び出して行動しましょう! 本日は私のスカートにご注目いただき、誠にありがとうございました。

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