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[ liberal arts-大学生の常識 ]

フリーマーケットのスマホアプリ、
主役は女性と若者

フリーマーケットのスマホアプリ、主役は女性と若者

 休日に公園や体育館などでみかけるフリーマーケットやノミの市。その舞台がスマートフォン(スマホ)のアプリに移り始めている。主役は仕事や育児、学業に忙しい若者や女性たちだ。同じ人が商品の作り手や売り手、買い手と立場を変え、いつでも参加できる点が従来のフリマやインターネットオークションと異なる。まるで自宅のタンスを使うようにフリマアプリでモノを出し入れする姿は、大手メーカーの製品を小売店で買うといった消費行動の常識を超えて広がっている。

タンスを整理するように活用

 都内に住む工藤理恵さん(29)は最近、2人目の子供を妊娠したのでマタニティー用品をそろえ始めた。美容関係の仕事で忙しいなか、頼りにしているのがスマホのフリマアプリ「メルカリ」だ。通勤途中、ふと眺めたら古着のデニム地パンツが約1000円で売られていた。店で新品を買えば5000円は下らない商品だ。

 商品説明にウエストや着丈の細かなサイズが示され、おなかが大きくなっても着こなせそうだ。出品した人の過去の取引に対する評価も高い。「購入を希望します」。スマホでメッセージを打ち込むと、即座に「○日で送ります」と返答があった。ものの数分で売買は成立。同じようにして「紙おむつなどの消耗品もスーパーより安く、フリマアプリで買った」という。

工藤さんは自分や子供の服、結婚式の衣装までフリマアプリで売買している

 時には売り手にもなる。500円で購入した長男のTシャツは、あまり着古しておらず、ほぼ同額で売れた。自分が結婚式で使った衣装雑貨でもフリマアプリを使いこなした。式場で買うと4000円前後するベールや手袋を1000円程度で購入し、式を終えた直後に売った。年間の売買は約90件、毎週1回以上のペースに及ぶ。

 節約志向でモノをためないだけではない。「買うつもりがなくても暇な時間にスマホを眺めて、気分で買うこともある」(工藤さん)。自分のタンスをちょっと整理するかのように、フリマアプリで売買しているのだ。

 手軽さの秘密はどこにあるのか。「ヤフオク!」などのネットオークションは、競売方式で1週間程度の間に入札を募り、最も高い金額を示した人が購入できる。一方でフリマアプリは出品者が最初に価格を決め、実際のフリマのように購入者が値切っていく形式が多い。数分で売買が成立することも多い。すぐ欲しい、安くなるなら欲しい、といった異なるニーズを満たしている。

 さらに新品で買えなかった期間限定品などを入手できる特徴もある。例えば、若者の間で人気のH&Mなどファストファッションの店は次々に商品を入れ替える。「ファッションが好きな最近の若者は2、3回着たらフリマに出す」(メルカリ)。そして買い逃がした人が次の買い手になる。フリマアプリは、こうした独特の商品循環を生み出す。景気低迷の時代に生まれ育ち、本当に大切なモノ以外には固執しないという若者らのライフスタイルに寄り添って成長している格好だ。

 フリマアプリの市場規模はとらえにくいが、調査会社のニールセンによるとネットオークションとフリマアプリの利用者は2014年時点で2000万人と13年の2倍に伸びた。そもそもモノを扱う通信販売の市場規模は、14年で約6兆円(経済産業省調べ)。新品や新古品を含むリユース関連市場も12年度時点で約1兆2000億円(環境省調べ)で、成長を続けている。

素人のクリエーターが活躍

八木さんは手作りのアクセサリーを多いときには50~100個用意して、フリマに出品する

 フリマアプリが小売店と大きく異なるのは、素人のクリエーターが活躍できる点だ。

 神奈川県に住む八木成美さん(23)は大学やアルバイトに通いながら、約1年前から「Imulan(イムラン)」というブランド名でピアスやイヤリングなどを制作している。販売する場所はフリマアプリの「フリル」だ。

 値段は500円から3000円前後。花や真珠、リボンをあしらった若い女性が好むようなアクセサリーが中心だ。作者が直接販売するため、購入者の細かいリクエストにも応えられる。「サイズを少し小さくできますか」「素材を変えてもらえますか」。顧客にとっても、要望に沿って作ってもらった商品はかけがえのない一品になる。

 当初はネットで人気の手作りアクセサリーを参考に、試行錯誤で作り始めた。手芸材料もネットですぐ入手できる。フリルでも売れ筋商品の特徴を研究し、花柄のアクセサリーを中心に1年で1000点強を販売した。売上高は多いときに月20万円以上という。

 経験のない個人が初めから店を構えることは考えにくいが、フリマアプリならクリエーターの卵も挑戦できる場がある。さらにフリルを運営するファブリック(東京・渋谷)は、人気の出品者を集めた実際のフリーマーケットを定期的に開催し始めた。「フリマアプリをきっかけにプロとなり、実店舗を開くクリエーターも現れた」(同社)。八木さんもリアルなフリマを経験し、「次は美容室などに置いてもらえるよう売り込みたい」とビジネスウーマンのように前をみていた。

フリマアプリ「フリル」を運営するファブリックは、手芸品の出品者を集めたリアルな「市場」を開いている

 フリマは原始時代の物々交換に始まり、中世には国内外で市場として発展してきた。安土桃山時代、織田信長が専門の商人に独占されていた座を開放し、誰でも商売ができる「楽市楽座」で地域経済を盛り上げたのが一例だろう。戦後もあらゆるモノと貨幣が行き交う闇市などがにぎわったが、高度経済成長の中でメーカー、小売り、購入者は次第に分断されていった。

 ネット通販やスマホといったIT(情報技術)によって誕生したフリマアプリは、再び売り手や買い手の垣根を越えた消費サイクルを生み出している。個人間の売買が多いため、トラブルを防ぐ仕組みは欠かせないが、経済の成熟期を迎えた日本でモノを循環させるインフラとして定着する可能性は高いだろう。モノやサービスを複数で分かち合う「シェアリングエコノミー」とともに、既存の流通市場を揺さぶり始めたことは間違いないようだ。
(企業報道部 花井悠希)[日経電子版2016年2月13日付]

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