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パイナップルの贈り物(3)初めてのクラウドファンディングで4226ドル集まる!

authored by 八木夏希早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科4年 ロンドン大学東洋アフリカ学院
パイナップルの贈り物(3) 初めてのクラウドファンディングで4226ドル集まる!

八木夏希のパイナップルの贈り物

 前回は、パイナップルワインとの出会いについてお伝えしました。今回は、持続的な事業計画作りと、クラウドファンディング(オンラインでの資金調達)についてお話しします!

持続的な事業計画とは?

 パイナップルワイン事業を刷新するために最重要なのは、「どうして今まで持続的な利益循環ができなかったのだろう?」という点です。これが解決されなければ、いくらお金を集めてもサイクルはすぐに途切れてしまいます。

 TORUWUの15年間の変遷や、Augustine達の想いに耳を傾けるうち、「利益還元方法と再生産タイミングの不明確さ」という課題が見えてきました。

 パイナップルワインがTORUWUを持続的に支えるためには、再生産が最優先項目であるべきです。しかし、この事業は「お金に余裕があれば生産する、補助的な収入源」として、再生産の優先順位は高くありませんでした。これは理解可能なことです。「将来的な重要性」より、「目の前の緊急事態」の方が深刻になることは誰にでもあります。これが2013年にTORUWUに起こったことでした。

パイナップルワインお試し生産

 2013年、チカジョ村にあった学費の安い小学校が経営難となり、代わりに学費の高い私立小学校ができました。その結果、多くの貧しい家庭の子ども達が、基礎教育へのアクセスを失ったのです。これを受け、TORUWUは安い学費のSt.Mary's小学校を開設しました。教育について話すAugustineからは、いつも以上の気迫を感じます。

 「お金がないという理由は、絶対に学校に通えない理由になってはならないんだ。誰にでも、等しく機会は与えられるべきだよ。それは、何より子ども達のためであり、また、ウガンダの将来のためでもあるんだ。彼らがいずれ市民となり、将来を担っていくからね」

 貧しい子ども達が自分の足で生きていくために、教育は非常に重要です。でも、ウガンダでは、そのアクセスは容易に閉ざされうるのです(ウガンダの教育については、また別の記事で)。現状を目の当たりにすると、何とかして教育のアクセスを保とうとしたAugustineの決意には、計り知れない重みがあります。一方で、小学校事業に大きな投資をした結果、ワイン事業の再生産ペースは落ちてしまったのです。

自分の足で生きていくために熱心に学ぶ子ども達

 2年間で生徒数は101人に達し、St.Mary'sは今やTORUWUの主要事業となりました。しかし、貧しい家庭の子どもを対象にしている以上、学費の滞納などで赤字続きなのが現状。でも、貧困は子どものせいでも、親のせいでもないと私は思います。公的教育が不十分な状況では、教育にお金がかかるのは当然です。

持続的な利益還元体制

 ならば、学費に頼らない、持続的な学習環境があればいいのに。そう思ったとき、ワイン事業と小学校事業を繋げる構図を思いつきました。ワインを日和見的に生産するのではなく、「定期的に再生産」して、「小学校事業にのみ利益還元する」ルートを作れないだろうか。「小学校事業を続けていくためにも、今こそワイン事業と繋げるべきだと思うんです!」と話すと、AugustineとSophieも、再生産の重要性を理解してくれました。こうして、ワイン事業と小学校事業をつなぎ、経営者にも支援者にも分かりやすい利益還元体制が見えてきました。

 当初の「利益還元方法・再生産タイミングの不明確さ」を解決すべく、3人で議論を重ねました。こうしてワイン事業専用口座の開設、再生産・利益還元方法の誓約書、「10タンク空になったら再生産するルール」など、シンプルな利益還元体制ができてきました。これらは全て何も知らない私に、常に真剣に向き合い、行動に移す二人のdirectorsの支えがあってこそ可能になったことでした。

初期投資40万円をどうやって集める?

 では、どうやってお金を集めるか? 利益を小学校の教材・給食費に充てるには、2400本分のワイン生産、40万円の初期投資(果物・ボトル等)が必要と判明しました。「...40万円!?」。全てが初めてな私には、それは途方もなく大きな金額に思えました。

 私は「寄付」という手段が好きではありません。寄付は一時的で、持続性に疑問を感じるからです。そのため最初はウガンダ国内の融資機関を使おうと提案しました。しかし、「6カ月で完済」という規則は、発酵に6カ月を要するワイン事業には向きませんでした。限られた時間の中で、私にできることをしたい。そう考え、渋々クラウドファンディングを選びました。選んだものの、右も左も分からず、やるべきことは山積みです。「利益還元計画作りに、キャンペーンの広報、でも子ども達との交流も深めたい......」。優先順位をつけられず、パニック状態でした。

やることが次から次へ…

 でも、最も大きな足かせは、私自身が失敗を恐れたことでした。「頓挫したらどうしよう、NGOのみんなに失望されるのが恐い......」。無駄なプライドから、「失敗=恥・失望」と思いがちで、失敗が恐かったのです。次第に、要領が悪い自分に自信を失っていきました。結果、プロジェクトへの信念を燃やしながらも、挑戦に怯える自分がいました。

 こんな中、大切な転機が訪れました。それは、Augustineと、インターンを日本から支えてくれたサポーター上村君がかけてくれた言葉でした。

 「何が起こるかは、神様しか分からないよ。だから私たちは、気にせずにトライし続ければいいんだ」(Augustine)

 「成功・失敗じゃなくて、やれるところまでやってみましょうよ。八木さんだけの大切なインターンなんだから、結果を誰とも比べる必要なんて無いですよ」(上村君)

 これを聞いて、ふっと力が抜けたのです。「そっか、私のペースでやっていいんだ!」。最初は怯えながらやっていたことが、「楽しいからやってみよう!」と、陽のベクトルに変化する感覚は、とても画期的な経験でした。そしてもちろん、子ども達の笑顔、優しさ。みんなのために、頑張りたい。「私にできること、とにかく一生懸命やってみるね」。St.Mary's小学校のみんなはそう思わせてくれる存在でした。

みんなでテイスティング

たくさんの支えを、ありがとう

 とはいえ、決してキャンペーンは順調ではなく、やっと50%に達したのは帰国後、終了の2週間前でした。でも、不安でも「楽しさ」を忘れることはもうありませんでした。「どうにかして集める!」という気持ちが湧いてきました。毎日大学にワインを持参し、友達や先生方に飲んでいただいたり、母校の高校を訪問したり、起業家のイベントに参加したり。ずうずうしさに気後れしても、友達が叱咤激励してくれました。多くの人々が寄付だけでなく、「情報拡散するよ」「英語の記事書くの、手伝うよ」など、様々な形で助けてくれました。いかに多くの人の支えに生かされているか、実感できた1カ月でした。

 こうして、1カ月で目標金額を超える4226ドルが集まりました。AugustineとSophieはとても喜んでくれて、「日本のみなさん、本当にありがとう」と言ってくれました。キャンペーンの輪は大きく広がり、日本を越え、アメリカやイギリス、ウガンダやブラジル、フィリピンなど、世界各地から、誰かが背中を押してくれました。国境を越え、「先進国・途上国」という分け目も越えて、TORUWUの活動に共感が集まったことは、「先進国が途上国を"助けてあげる"」という構図に疑問を感じる私にとって、とても嬉しいことでした。

 この経験は、TORUWUが持続的な経営へ動き出したのはもちろん、私個人にとっても、挑戦を楽しむ姿勢と出会った、希有な経験でした。この姿勢は今後も、私の大切なスタイルとして貫きたいと思います。支えてくださった方々、本当にありがとうございました。