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シリコンバレー
大発明を生む異分野との緩い交流

ブランドン・ヒル authored by ブランドン・ヒル米ビートラックスCEO
シリコンバレー大発明を生む異分野との緩い交流

 先日、新規事業を創出するためのワークショップがサンフランシスコで行われた。参加された日本企業の方から「なぜこのエリアの人々は自分の専門分野外の知識があるのか」という質問を受けた。

 確かにスタートアップ企業やテクノロジー企業で働く人たちをはじめとして、サンフランシスコやシリコンバレーに暮らす人たちは幅広い知識を持っている。そして、それがイノベーションを生み出すときのコア要素にもなる。

 故スティーブ・ジョブズ氏が創業したアップル。初期のころは詩人や哲学者、歴史学者など様々な分野の専門家が集まり、共通のビジョンのもとで製品(プロダクト)を作り出していた。ジョブズ氏はそれが他社との差別化における重要なファクターになっていると語っていた。

 そうした文化はこの地域に共通であり、それは今も変わっていない。知識や経験において自分が持っていない要素を持ち合わせている人を尊重して学ぼうとする。こうした姿勢はこの地域に住む多くの人々に共通している。

 異なる背景(バックグラウンド)を持つ人々が絡み合うなか、まるで化学反応のように、思いもよらないプロダクトのアイデアが生まれてくる。特にサンフランシスコに住む人たちは異なる価値観を尊重し合い、刺激し合っている。

 似たような価値観を持つ人は一緒にいて心地よい。半面、新たな発見は得られにくい。そうした側面でもこの地域は他では得られにくい利点がある。

 今の時代はビジネスに独自性(ユニークさ)が必要とされている。社内外での多様性の高い人々との交流を通じて新たなサービスのヒントを得ること、いわゆるインスパイアされることが重要になっている。

 パーティーやイベントが盛んな米国では、特にテーマを決めずに集まる「ネットワーキング」と呼ばれる会合がある。多種多様な人々が交流することを目的に日時を決めてオフィスや最寄りのバーなどに集まるというものだ。きわめて緩い集まりと言ってよい。

 サンフランシスコであれば、スタートアップ企業にかかわっている人たちを中心に、ほぼ毎日のようにどこかで開催されている。当日参加することにしてもよいし、いつ参加していつ帰ってもかまわない。かた苦しい乾杯の挨拶や締めの一言もない。そこには老若男女が集まり、興味や専門分野に関する知識を交換しあう。

 日本でこのようなイベントを開催しようと思えば、名刺交換がメーンとなるビジネス交流会や異業種交流会と呼ばれる飲み会をセットアップする必要があるだろう。それも事前に登録が必要で、会費制だったりもするだろう。参加してみると、自分と近い業種の人しかいない場合がある。知り合いばかりが集まっていたりするケースも少なくない。

 日本では、若者がお酒を飲みながら医者や弁護士と知り合うことは至難のわざなのではないか。それがシリコンバレーであればいとも簡単にかなってしまう。最近はやりの人工知能(AI)やフィンテックに関連する人たちにも会えるチャンスもある。著名な起業家や投資家も立ち寄ることさえある。彼らの情報や人脈、アイデアをもらえる可能性もある。そうしたことも日本にはない大きな魅力であり、イノベーションの原動力になっているのかもしれない。

ブランドン・ヒル 米ビートラックスCEO。札幌市生まれ。サンフランシスコ州立大学デザイン学科在学中からウェブサイトのデザイナーとして活躍。卒業後の2004年にブランディング・ユーザーエクスペリエンスデザインを手掛けるビートラックスを設立。趣味はバイク、テニス、ロック音楽。

[日経産業新聞から転載、日経電子版2016年3月15日付]

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