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店長になったら手取りが減るってどういうこと?

ブラック企業との向き合い方(7)

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NIKKEI STYLE

なんだか難しい用語ではぐらかされ、残業代は出ないものだとあきらめさせる問題事例を取り上げてきました。最後に検討したいのは「店長(教室長)になったら残業代は出なくなるのか」という問題です。店長には残業代を支払わなくてもよいのでしょうか?

店長になったら残業代が出なくなり、手取りが減った!

次のケースを考えてみましょう。

 Aさんは店長候補として採用され、半年の育成期間を経て順調に店長となりました。給与には役職手当がプラスされましたが、「店長は管理職だから残業代はない」と言われてしまいました。前の店長は異動となり、お店にいる正社員は店長となったAさん一人です。店長としての業務に加え、パートやアルバイトのシフトに穴が開けば現場に入る必要もあるため、業務は多忙を極め、帰宅時間も前より遅くなってしまいました。にもかかわらず残業代が出なくなり、手取りの給与額はかなり減ってしまいました。

このAさんの場合のように、お店にいる正社員は店長一人だけ、もしくは二人程度で、あとはパートやアルバイトが業務を担っているというケースは、飲食店や小規模な小売店などでは珍しくありません。個別指導塾なども同様でしょう。

店長となったAさんは、確かにお店の中では管理職ではあるのでしょう。しかし管理職なら残業代は出ないというのは、合法なのでしょうか。

「管理監督者」は残業代支払いの対象外だが......

実は労働基準法では第41条の第2項において、「監督若しくは管理の地位にある者」については時間外・休日の割増賃金(残業代)は払わなくてもよいことになっています(深夜の割増賃金の支払いは必要)。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条  この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一  (略)
二  事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は(以下略)
三  (略)

「やっぱり、管理職なら残業代は出ないのか......」

いいえ。この労働基準法における「監督若しくは管理の地位にある者」は「管理監督者」と呼ばれるのですが、それと店長などの「管理職」はイコールではないのです。

「管理監督者」とは「経営者と一体的な立場にある者」

労働基準法における「管理監督者」については、厚生労働省が行政通達によってその範囲を定めています(こちらの連合作成のリーフレットに、通達の原文あり)。

そこでは「管理監督者」とは「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」のことであり、「資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある」とされています。

つまり「店長」や「教室長」などの大きな権限がありそうな「名称」の職位についていたとしても、実態が「経営者と一体的な立場にある者」でないならば、残業代を支払わなくてもよい「管理監督者」にはあたらないのです。

では冒頭の入社半年のAさんは、店長になったからといって「経営者と一体的な立場にある者」だと言えるのでしょうか?

日本マクドナルドの判決を知っておこう

それを考える上で参考になる有名な判決があります。東京地裁による2008年1月28日の日本マクドナルド割増賃金請求事件判決です(判決文)。

この裁判は、日本マクドナルドの直営店店長である原告が「管理監督者」として扱われ、労働基準法に違反した長時間労働が強制されていると訴えたものです。

東京地裁はこの店長について「管理監督者」にはあたらないという判断を示し、その判決は各紙で大きく報道されました(日本経済新聞2008年1月29日朝刊「「名ばかり管理職」乱造に警告(社説)」ほか)。

判決ではこの店長が「管理監督者」にあたるかどうかは

(1) 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
(2) その勤務態様が労働時間等に関する規則になじまないものであるか否か
(3) 給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か

などの諸点から判断すべき、としました。

そして、店舗運営において重要な職責を負っているものの経営者との一体的な立場において重要な職務と権限を付与されているとは認められないこと、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められないこと、店長の賃金も管理監督者に対する待遇としては十分であると言い難いことなどから、「管理監督者」にあたるとは認められないとしたのです(*)。

(*)なお、この地裁判決に対しては被告が控訴したものの、原告勝訴の1審判決を事実上受け入れた内容で2009年3月18日に東京高裁にて和解が成立しています(日本経済新聞2009年3月19日「マクドナルド、「名ばかり管理職」認め和解、残業代など1000万円支払い」ほか)。

この判決に照らし合わせれば、入社半年の新入社員が店長になったからといって残業代を支払われなくなる冒頭のAさんのようなケースは、「管理監督者」にはあたらず違法である場合がほとんどだと考えられるでしょう。

ここまでのまとめ:様々な手法の「悪用」に注意

これまでの連載で第3回・第4回では「固定残業代」を、第5回では「年俸制」と「裁量労働制」を、第6回では「事業場外みなし労働時間制」を「悪用」して残業代を適切に支払わないケースを見てきました。店長だから残業代が出ないと言われる今回のAさんのケースは、「管理監督者」を「悪用」したケースと言えます。

このように「残業代が支払われないのはしょうがないんだ」と思わせる手法は様々です。様々な制度の「悪用」は裁判によって否定された後も、あちこちで生き残っています。

「固定残業代」については「定額払割増手当」などと表記されることもあれば、「職務手当」など単なる手当だとしか思えない名称のものが残業代だと言い張られることもありえます。

店長に残業代を支払わないという問題も、前述の判決後には多くの飲食店で見直しが進んだものの、見直しが行われていないところもあると考えられ、また飲食店以外の業界でも同様の扱いが今なお行われている場合がありえます。

残業をしているのに残業代が出ないなら、「おかしい」と思うのが普通です。けれども「残業代は固定なんだよ」「年俸制だからね」「裁量労働制だからね」「外回りの営業職だからね」「店長だからね」などと言われると、「そういうものなのか」と思ってしまいがちです。

しかしながら新卒入社の若者が入社当時から、あるいは入社半年後から、合法的に「残業代なし」や「残業代は定額」の働き方になるということは、これまで見てきたようにあまり考えられないというのが実際なのです。

そのため、これまで説明してきたような制度などを「悪用」していることが疑われる場合には、就職を避けるか、就職の意思決定をする前に労働条件についてよく確認しておく方がよいでしょう。漠然と「そういうものか」と思ってしまうと、ただ働きで長時間労働を強いられる危険があります(*)。

(*)なお、ブラック企業被害対策弁護団が「求人詐欺によろしく」というサイトで、「固定残業代」「正社員採用偽装」「幹部候補生」「裁量労働制」「社長になれる」「オワハラとセット」「野放し」「証拠が大事」の8項目を解説しています。今回までの内容の再確認も兼ねて、一読をお勧めします。

また働き始めてから「おかしいんじゃないか」と思ったら、弁護士などの専門家に早めに相談してみることがお勧めです。「違法かどうかわからない」と躊躇するかもしれませんが、違法かどうかを判断する上でも専門家に相談することは有効でしょう。

私はある弁護士の方から「なんか体の調子が悪いなと思ったら、どういう病名の病気であるかは自分では分からなくても、医者に診てもらいますよね。それと同じように、違法かどうかわからなくても相談してください」と言われて、なるほど、と思ったことがあります。

「○○だから残業代は出ないんだよ」という使用者の言葉だけであきらめてしまわず、専門家に相談してみる。一人の専門家に相談して納得のいく対応をしてもらえなかった場合にも、あきらめてしまわず、他をあたってみる。自分の身を守るためにも、そのような心構えを持っておきたいものです(*)。

(*)労働問題の相談窓口には労働基準監督署、都道府県の労働相談窓口、弁護士、ユニオン(労働組合)などがあります。それぞれに扱える内容や対応の方法などが異なります。どこに相談すればよいかを考える上で、下記の記事が参考になります。

・今野晴貴「ブラック企業に入ってしまったとき、どこに相談すればいいか?」

法律監修:嶋崎量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

上西充子(うえにし・みつこ) 法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授。1965年奈良県生まれ。労働政策研究・研修機構で7年あまり調査研究に従事したのち、2003年より法政大学へ。若者の学校から職業への移行過程と初期キャリアに関心。近著に、石田眞・浅倉むつ子との共著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)。

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