仕入れ業者に足元を見られて悔しい思い
わたしがカフェを開くまで(9)
「なんでフレンチトースト専門店なの、パスタも出してよ!」
「フレンチトーストなんて朝食べるものなんだから、昼と夜は絶対売れないよ。フレンチトーストに絞らない方がいいって!」
私が「日本初のブリュレフレンチトーストの専門店を開く!」と宣言してから、周りのたくさんの人から様々なアドバイスをいただきました。でも当時の私は、誰になんと言われようがフレンチトーストの専門店を開く! フレンチトーストしか出さない! と決めていました。地元広島でお店を開くならまだしも、人口が圧倒的に多く、交通網も発達している東京で開くのであれば、しっかり差別化のできるお店を開くべきだと考えていたのです。
食事系フレンチトーストの開発
ただ、その方々の意見に全く聞く耳を持たなかったわけではありません。確かに甘いブリュレフレンチトーストだけに絞るのでは、利用シーンが限られます。そこで軽いランチなどの食事シーンでもご利用いただけるように、甘くない食事系のフレンチトーストも提供することを決めました。
しかし、この食事系のフレンチトーストの開発には思いのほか苦戦を強いられました。ブリュレフレンチトーストは月に1度のイベントの時に開発していたものをブラッシュアップして、自信のある商品ができていました。一方、食事系のフレンチトーストに関しては、なかなか「これだ!」という商品が生まれませんでした。
「ブリュレフレンチトーストのように表面がカリっとしていて中はふわとろ、塩味でガーリックの風味もほのかに香る商品......」。頭の中のイメージはしっかりできていたのですが、それをなかなかカタチに落とし込めませんでした。時間がない時間がないと切羽詰まりながら、何度も試作を繰り返しました。
「生ハムとポテトサラダ」と「B.L.T」
試作し続けて同じようなものを食べ過ぎると、自分の味覚が麻痺してしまう不思議な感覚に襲われます。とうとう思いつめて「だめだ、ちょっと時間を置こう」と決めました。オープンまで残り10日でしたが思い切って3日間試作をしないで、頭を冷やしてみたのです。
そしてそれから3日後にまた試作。ベースの卵と牛乳、そしてガーリックと企業秘密の調味料を入れてバターをたっぷり敷いて、一面にチーズをまぶしてそれをカリッと焼き付けます。
「これだ!!!」。スタッフみんなで試食をして大興奮。私のイメージしていたものはこれだと、やっと自信を持って発信できる商品ができました。オープンまで残り1週間。ぎりぎりでした。
そんな、土壇場で開発した食事系のフレンチトーストは2種類用意しました。そのメニューは「生ハムとポテトサラダ」と「B.L.T」。生ハムとポテトサラダの生ハムには、バルサミコクリームをかけてサラダもたっぷりトッピングします。B.L.T.は、ベーコン、レタス、トマトの王道の組み合わせ。食べ応えのあるピザのような感覚で美味しくお召し上がりいただけます。
メニューが決まれば材料の仕入れに関して業者さんとの交渉です。野菜、乳製品、その他お砂糖や卵など、それぞれの業者さんとの交渉をしました。名刺の渡し方、交渉の仕方など当時はあまりわきまえていませんでしたし、女で若手というとすぐに足元を見られてしました。いえ、当時の私は足元を見られていることにさえ気づいていませんでした。
「大手ホテルさんにも同じ価格で入れていますけど」
エディブルフラワーという、食べられるお花がどうしても見つからなくて、やっとの思いで見つけた業者さん。「とにかく、この金魚草という種類のエディブルフラワーを入れてもらいたいんです。お見積もりをお願いします」と言うと、「承知しました。お一つ420円でいかがでしょう」と。「少し高くないですか? 高島屋さんでは210円で売っていますけど......」。こちらがその事実を伝えると「そうですか? 大手ホテルさんにも同じ価格で入れていますけど、シェフには安いと驚かれますが......」。そんな切り返しをされました。「へ~そうなんですね。じゃあ、それでお願いします」。
私はその価格で仕入れることにしてしまいました。今考えるととんでもない話です。大手デパートでさえ210円。その業者さんが大手ホテルさんと取引しているのであれば、ロットも大きいはず。いきなり新規の取引先に同じ価格を提示するはずもありません。
とはいうものの、足元を見られることなんて当たり前。足元をみられてしまうくらい未熟である私が悪いのです。"起こっていることは全て自分の責任"。この頃から、何かうまく行かないことがあれば、そう考えるようにしていました。
1992年生まれ、広島県出身。フレンチレストランのキッチンでのアルバイトをきっかけに料理の世界に魅了される。2012年8月より2カ月間、単身オーストラリアのシドニー渡り、billsサリーヒルズ店、ダーリンハースト店で修業。帰国後、料理教室・ケータリング単発のカフェプロデュースなどを手がける。13年9月に日本初のブリュレフレンチトースト専門店『ForuCafe』、14年11月にシチュー専門店『ForuStew』をオープン。15年4月に黄金比グラノーラ「FORU GRANOLA」をオープン。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界