ついにオープン! 歯を食いしばって授業と両立
わたしがカフェを開くまで(10)
ForuCafeオープン前日の夜、私は寝不足で目を真っ赤に充血させて、渋谷のスクランブル交差点を走っていました。キャッシュトレイ、トイレのゴミ箱、コーヒーカップ、スタンプカードに押すスタンプ......。買い忘れていたものが次々と見つかって、てんやわんやの状態だったのです。「3カ月以内にお店をオープンさせる!」という無謀な計画を強行したためのつけが回ってきました。ひとつでも欠けたら、営業に支障が出ます。
多くのお店は20時か21時に閉店してしまうので、その閉店間際まで走り回っていました。最後の最後、「これだ!」とやっとの思いで見つけ出したのは運命のコーヒーカップ。半ば諦めかかけていた時に出会ったのです。バリスタに厳選してもらったブリュレフレンチトーストに合うコーヒーを引き立てるカップ。3年目の今でも大切に使っています。
その日の夜は不安と興奮で眠れませんでした。まるで小学生の頃の運動会の前夜のような感覚。寝不足で眠いはずなのに、寝なければ! と強く思えば思うほど目が冴えてしまいました。
1人目のお客様から「また来るわね!」
いよいよオープン当日。月に1度の営業とは違って予約制ではなかったので、どれくらいお客さんが来てくださるのか、検討もつきませんでした。行列ができるかもしれないし、全くお客さんが来られないかもしれない......。たった14席のお店ですが、スタッフは4人の万全態勢。午前11時、ついにオープンしました。
1人目にご来店くださったお客様が「新食感で美味しかったわ! 早稲田にはこの手のお店があまりないから嬉しい。また来るわね!」と言ってくださったとき、涙が出るほど嬉しかったです。目の前の人に「美味しい」を届けること。、目の前のお客様に、自分がゼロから作った空間、ゼロから作ったチーム、ゼロから作ったメニューを届けられること。そしてそれを喜んでいただけること。気づけばそれまでの疲労感や悩みを全て吹き飛ぶくらいの達成感に満たされていました。
1限の授業を片っ端から受講
しかし本当の戦いはそこからでした。当時私は大学3年生。より効率よく学業と仕事を両立するために、1限の授業とテスト1本の授業を片っ端から受講しました。9時から10時半まで1限の授業を受けて、お店は11時から開店するというハードスケジュール。
開店当初にフレンチトーストを焼けたのは、私ともう一人調理師免許をもったスタッフの2人だけでした。これは当時の未熟なわたしなりの「クオリティを保つためのプライド」だったのです。
テスト期間、私がどうしても授業を外せず人手が足りなくて、泣く泣く「14時から営業」にしたこともありました。営業時間は信用問題。楽しみにお店まで来てくださったのに、営業していないなんてことがあってはいけません。そんなことは分かっていながらも、止むを得ずお休みすることもありました。
当たり前のことですが、「授業があるので~」という言い訳はビジネスの世界では通用しません。テスト前には友人にノートを借りて、夜な夜な歯を食いしばって勉強をしていました。閉店後に死に物狂いでレポートを書き上げたことも苦い思い出です。午前0時が期限のレポートを、閉店後の店内で書き上げて23時58分に提出するなんてことが何度もありました。
開店直後、ビジネスの右も左も分からない当時の私には、学業とビジネスの両立は思いの外大変でした。それでも試行錯誤して自分なりに効率の良い方法を模索しながら戦い抜いたことは、その後の糧になったと思います。4年前期には全ての単位を取り終え、それからは事業に没頭していきました。
1992年生まれ、広島県出身。フレンチレストランのキッチンでのアルバイトをきっかけに料理の世界に魅了される。2012年8月より2カ月間、単身オーストラリアのシドニー渡り、billsサリーヒルズ店、ダーリンハースト店で修業。帰国後、料理教室・ケータリング単発のカフェプロデュースなどを手がける。13年9月に日本初のブリュレフレンチトースト専門店『ForuCafe』、14年11月にシチュー専門店『ForuStew』をオープン。15年4月に黄金比グラノーラ「FORU GRANOLA」をオープン。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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