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経営者ブログ 星野リゾート代表シェアリングエコノミーが
地域と業界を変える

経営者ブログ 星野リゾート代表 シェアリングエコノミーが地域と業界を変える
authored by 星野佳路星野リゾート代表

 このところ、民間の住宅に旅行者を有料で泊める「民泊」をめぐる議論が活発化しています。国家戦略特区として1月に東京都大田区で民泊特区がスタート。法改正や仕組みづくりなどの動きも進んできました。一方でホテル・旅館業界には、民泊に反対する声があるようです。今のところは民泊の宿泊日数に制限を設けるなど規制をかける形になっています。

 私は民泊に基本的に賛成の立場です。しかも、現在のような規制はどんどん取り払うべきだと考えています。今の形では使い勝手が悪く、民泊が本来持つ魅力が伝わりません。

地方でこそ意義が大きい

 民泊のようなシェアリングエコノミーには、経済を活性化する力があると思います。

 先行する米国では民泊だけでなく、自動車の相乗りが広がっています。イエローキャブと呼ばれるニューヨークのタクシーは相乗りサービスの登場によってサービス品質が向上。私が留学していた1980年代には考えられないほどの状況です。先日訪問したサンフランシスコでは自転車のシェアリングが印象的でした。この流れはさらに加速するでしょう。

 シェアリングエコノミーについて「大都市のものだ」と思う人がいますが、私は地方こそシェアリングエコノミーが重要だと考えています。

 例えば、JR上越新幹線の越後湯沢駅の周辺にはバブル期に建てたリゾートマンションが多数ありますが、今は利用しない人が増えています。また使ったとしても、スキーシーズンだけという人が多数を占めます。もし、ここで民泊を開設したならば、一年を通じて多数の観光客が来てくれる可能性があります。地方に増えている空き家の活用で地域経済を活性化できるのです。

 民泊の規制を取り払うと同時に、ホテルや旅館に対するさまざまな規制も取り払うべきだと思います。

 ホテル、旅館と民泊の違いは何かといえば、ホテルや旅館にはサービスがあり、民泊にはありません。民泊の登場によって、ホテルや旅館はサービスがいっそう重要になります。にもかかわらず、現在は法律による規制があり、さらに条文に書いていない行政の指導が多数あります。民泊を契機にサービスの規制は緩和すべきです。サービスを磨く自由がホテル、旅館にはあるべきなのです。

 例えば、海外のホテルではコンシェルジュサービスが発達していますが、それは収益源の一つになっているからです。しかし、国内のホテルでは、例えば歌舞伎座やプロ野球のチケットを手配しても旅行業法によって、チケット代にマージンを上乗せすることができません。このため、実質的にボランティアで行っています。コンシェルジュサービスに力が入りにくく、地域のイベント、アクティビティーの主催者とホテルの関係は希薄なままです。

 しかしもし、規制緩和でイベントの主催者とホテルがウインウインの関係になったらどうでしょうか。

 両者が連携して地域の魅力をこれまで以上に紹介するホテルが各地に誕生すると思います。規制緩和が進めば、各施設がいろいろなサービスで競争し始めます。これは日本の観光産業の活性化にもつながります。民泊がホテル・旅館にとって大変革のチャンスになる可能性があるのです。

 規制緩和について「既存施設は衛生や安全の厳しい基準に合わせてきた。取り払ったら、既存施設にとって不公平だ」という人がいますが、イノベーションの起こるビジネスの世界では仕方のないことです。もちろん宿泊業界にとって衛生、安全は大切ですが、現在の規制はいきすぎた面もあると思います。自由度を上げる取り組みがあっていいはずです。

 民泊を最近の東京、大阪などのホテル不足と関連づける見方もありますが、歴史を振り返れば、どの都市も発展の途中ではホテルは供給不足と供給過多を繰り返しています。2020年の東京五輪後の21年には民泊も含めて供給過多になるかもしれません。民泊がホテルの供給不足を補うとしても、短期的な視点にすぎません。もっと大きな視点でとらえるべきです。

 賛成、反対の議論とは別に気になることもあります。現在の民泊はその多くが違法の疑いのあるままサービスを実施しています。私は民泊の規制に反対ですが、だからといって決まったルールを守らないのは民泊を含めた宿泊業界の健全な成長にとって問題です。ルール順守を徹底してほしいと思います。

兼業タクシーがあってもいいのでは

 シェアリングエコノミーでは、自家用車の相乗りサービスも話題です。私は導入に賛成で、これも地方こそメリットが大きいと思います。例えば長野県の場合、JR軽井沢駅にはタクシーが止まっていますが、少し離れた、しなの鉄道信濃追分駅には通常、タクシーがいません。タクシー会社は採算が合わないからです。

 もし信濃追分駅で相乗りサービスが利用できたら、近隣の農家が農作業中に手を休めて、相乗りサービスを提供できるかもしれません。兼業農家が許されるなら、兼業タクシーがあってもいいはずです。こうしてシェアリングエコノミーが地域の経済を活性化するのです。

[日経電子版2016年4月7日付]

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