最速習得に必要なマインドセットとは
留学経験なしからのマルチリンガル(4)
秋山燿平の留学経験なしからのマルチリンガル
さて、ここからが本題です。これまで、私が言語学習に力を入れることとなった理由をお伝えしましたが、今回から「どのようにすれば言語を早く習得できるか」という問いに、7カ国語を学んだ経験から答えたいと思います。今回は「最速習得に必要な2つのマインドセット」と題して、言語学習に臨むのに「どのような心構えがベストなのか」をお伝えします。
才能は関係ない~モチベーションを維持するマインドセット
まず前提として、私は「言語習得に才能は関係ない」と考えています。日本に生まれ、日本で育った私たち日本人は、誰でも不自由なく日本語を使っているのですから。つまり、誰もが「言語習得能力」を持っているのです。
しかし、外国語を習得しよう! と思い立って、習得できる人と、習得できず諦めてしまう人がいるのも事実。その違いは、「いかにモチベーションを高水準で維持できるのか」にあると思います。では、モチベーションを高水準で維持するためにはどうすれば良いのか?結論からいうと、その答えは以下の2つのマインドセットにあると考えています。
1. 短期目標を設定する:達成の喜びと、できなかった悔しさをモチベーションの源泉とする
2. 言語を学んだ先の目標を見据える:外国語「を」学ぶのではなく、外国語「で」学ぶ
この2つが、言語を学ぶ上で持つべきマインドセットです。それぞれについて、具体例を示して説明します。
短期的な目標設定:モチベーションの源泉を得る
今日、「フランス語を話せるようになりたい! さあ、勉強しよう」と思い立ったとしても、その「話せるようになる」という目標は遠すぎて、今何をすれば良いのか、はっきりしないのではないでしょうか? 言語学習の目標は人によってさまざまですが、一般的に目標が遠い傾向にあります。そして、そのままの状態でただ参考書を読んでいるだけだと、目標に近づけている実感が持てずに、かなりの確率で挫折してしまうのです。
それを解決するために、「手の届く範囲に短期的な目標を設定し、その達成に向けてやるべきことを行う」ことが大切です。今やるべきことが明確になることで、モチベーションの低下を防ぐことができるのです。具体例を挙げると、言語学習においては以下のようなアクションに落とし込めます。
外国人と実際に話す時間を増やす
非常に良い「短期目標」の1つが、学んだ言語を、その言葉を話す外国人に対して使ってみることです。相手と会話を成立させるため、思いを伝えるため、どこかの街を案内するため......。これら全てが「短期目標」となり、達成するために何をすれば良いかが明確になります。
例えば日本語が話せないアメリカ人の友達を浅草に案内するとなれば、前日の夜に説明に必要な英語を必死に勉強するでしょう。そして実践してみて、伝わればその喜びが次へのモチベーションになるし、仮に「寺」という単語が出てこなくて上手く伝えられず、その夜に悔しさの中で「temple」を覚えたなら、それは絶対忘れません。
※実際に外国人に使ってみる機会を得る方法については次回お伝えします。
語学検定を上手く使う
「本当の実力を反映していない」と否定されがちな語学検定ですが、私は語学検定を「実力を測るため」に加えて、「言語学習における優秀なペースメーカー」と捉えています。検定を申し込めば、その期間にやるべきことが明確になります。合格点を取るために1カ月程度必死に努力すれば、漠然と勉強した場合に比べて圧倒的な力が培われるでしょう。検定はモチベーションを維持するために役立つペースメーカーになりえるのです。
単語帳、参考書は頭から順にやらない
日本人は完璧主義で「言語の専門家」になろうとする傾向があります。単語帳や参考書を買ったら、1ページ目から取り組む人が大半です。しかしそのように最初から順に取り組んで、最後までやり切れたものは何冊あるでしょうか? 全て終わったときに、初めの事項を覚えているでしょうか? 少なくとも、私がそのように取り組んだなら途中で挫折すると思います。単語帳や参考書を頭から全てやろうと取り掛かると、終わりが見えずに失敗してしまいます。「参考書や単語帳を全ページ読破する」というのも、少し長期的すぎる目標なのだと思います。
私は新しい単語帳を買うと、まず全ページを流し読みして「本当に今覚えるべき単語」をピックアップします。「外国人と話すために必要なもの」や「検定に合格するために必要なもの」などといった目標にあわせて200語くらいノートに書きだして、まずはそれだけ覚えるようにしています。単語帳や参考書の全てをやりこむ必要はありません。自分にとって本当に必要な知識を見極めて、後を捨てることも大切です。
長期的な目標設定:外国語「で」学ぶ
あるところに、同じ能力を持った2つの大工のグループがありました。彼らにレンガを積ませ、全く同じ建物を作らせます。その際、1つのグループには「とにかくレンガを詰め」と、もう一方には「この建物は皆を幸せにする大聖堂だ。そのためにレンガを積んでくれ」と伝えました。すると後者のグループの方が圧倒的に早く建物が完成しました。
有名な石切り工の寓話をアレンジしたものですが、なぜこの差が生まれたのか? 理由は明確です。前者は「レンガを積むこと」という行為自体が目的なのに対して、後者は「皆を幸せにする教会を建てること」が目的で、そのための手段としてレンガを積む行為があるのです。自分の行っている行為自体を目的とすると、生産性は大きく下がってしまいます。
このことは言語学習にも当てはまります。ただがむしゃらに勉強しても上手くいきません。「話せるようになったその先に、自分は何を達成したいのか」。理想を強く持つことが大切です。例えば「恋人や親友の外国人に想いを伝える」「海外で生活する」「アメリカで起業する」など、なんでも構いません。英語を話すことの先にある目標を設定することが挫折を防ぎ、モチベーションの維持につながるのです。外国語「を」学ぶのではなく、外国語「で」何かを達成するというマインドセットを持ちましょう。
もう一度まとめると
1.短期的な目標を設定し、達成したときの喜びと、出来なかったときの悔しさをモチベーションの源泉にする
2.言語を学んだ後の世界に自分が成し遂げたい「理想」を持ち、外国語「を」学ぶのではなく、外国語「で」学ぶ
この2点を頭に入れておけば、言語学習に向かうマインドセットはバッチリです。次回は私が完全にゼロの状態から新しい言語を勉強する際に、具体的にどのように学んでいくかを詳しくお伝えします。
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