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ブラック企業との向き合い方(9)採用担当者はなぜ、非通知設定で電話をしてくるのか

上西充子 authored by 上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授
ブラック企業との向き合い方(9) 採用担当者はなぜ、非通知設定で電話をしてくるのか

上西充子の「ブラック企業との向き合い方」

 6月に入ると、多くの企業で面接が本格化していきます。面接の通過や内定の連絡は携帯に届き、非通知や知らない携帯電話番号から来ることが多いようです。なぜ採用担当者はそのような方法を取るのでしょう?
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非通知の電話がいつ来るか、わからないストレス

 就活をテーマにした朝井リョウの小説『何者』には、着信がない携帯の黒い画面を気にし続ける主人公の姿や、非通知の着信が届き携帯を手に慌てて部屋を飛び出す友人の姿が描かれています。

 面接の通過や内定を知らせる連絡はその日のうちに届く場合もあり、翌日以降に届く場合もあります。何日までに連絡すると期限を明示しない場合も多いようです。また、次の選考に進めない場合に企業が連絡をしないこともあります(「サイレントお祈り」と呼ばれます)。

 学生はいつ電話が来るかわからないストレスにさらされます。電車で移動中の場合もありえますし、別の企業の面接中もありえます。しかもその電話が非通知で、留守録にメッセージも残されていないならば、折り返しの電話をかけていいのかどうかも躊躇するでしょう。

 なぜそのようにストレスのかかる方法を、採用担当者は取るのでしょうか。

メール、マイページ、電話、さまざまな連絡手段

 採用担当者が皆さんに連絡を取る手段は、多様に存在しています。メールであれば時間と場所を選ばずに届けることが可能ですし、文面を通して正確に情報を伝えることができます。就職情報サイトが設けているマイページ機能や企業独自のネット上の連絡システムを使って、説明会参加やエントリーシート提出の連絡が届けられてきた場合も多いでしょう。

 面接や内定に関わる連絡は、なぜそのような文書連絡ではなく、電話連絡なのでしょうか。

 面接の通過を伝え、次の面接の日程設定を行う場合であれば、確かに電話に利点はあります。双方向性がある電話のやり取りであれば、返信を待たずにその場で日程設定が確実にできます。とはいえ、その場合も会社の番号から連絡してくれれば学生にとっては認知しやすいですし、電話を取れなかった場合に留守録メッセージぐらいは残してくれてもよさそうなものですが、実際にはそうとも限りません。

 さらに内定の通知であれば、学生としては口頭だけでなく文面で通知を受け取りたいでしょう。口頭であれば、「言った/言わない」のトラブルになる恐れがあります。

記録が残らない伝達手段としての電話

 そのように学生にとっては不都合が多い電話連絡という方法で、しかも非通知設定や携帯電話番号からの連絡で面接の通過や内定が伝えられるのは、もっぱら企業側の都合を優先した結果と考えられます。何より重視されているのは、おそらく「記録に残らないこと」です。

 メールであれば届いた相手に文面が残ります。マイページ画面であれば企業側が一方的に抹消することが可能ですが、学生の側がスクリーンショットなどで記録を取っておくことは可能です。会社から電話をすれば、会社の番号が着信履歴に残ります。留守録メッセージを残せば、音声記録が残ります。

 それらの記録が一切残らない方法、それが非通知設定や携帯電話番号からの電話連絡なのです。

記録が残るとなぜまずいのか

 なぜ記録が残るとまずいのでしょうか。自分が採用担当者だったら、と考えてみましょう。

 たとえば4月に面接や内定出しをしている場合。「あの会社は選考スケジュールに従わずに抜け駆けして内定を出した」という証拠が残ってしまい、それがSNSを通じて拡散してしまうかもしれません。

 「○○大学の学生にはもう内定が届いているのに、私にはまだ1次面接の連絡も来ていない」など、学歴フィルター(大学名などによって採用選考に差をつける行為)が可視化されてしまうこともあるでしょう。現在でも就活の情報交換サイトなどで情報は飛び交っていますが、個人の投稿の範囲であれば、真偽は不明なままにしておけます。

 また面接の不合格を伝えないでおけば、面接を通過させた学生たちがどうやら他社に流れそうだという予測が立った段階で、連絡をしていなかった学生に面接通過の連絡を行い、採用予定数の確保につなげることも可能です。

 さらに言えば内定の連絡も文面に残さずに口頭で行っておけば、取り消しも可能かもしれません。

 つまり記録が残らない方法での伝達手段を選ぶことによって採用担当者は、社会的批判を避けつつ採用活動の柔軟性を高く保つことができるのです。

学生の立場の弱さ

 普通に考えればメールではなく非通知の電話をかけ、留守録メッセージも残さないというのは、ビジネスマナーとしては失格です。応募している企業に対して学生がそういう行動に出れば、「なんて非常識なヤツだ!」という反応になるでしょう。

 にもかかわらず学生にとっての一大事である就職活動という場面で採用担当者によるそのような非常識な行為が横行しているのは、学生側の立場が弱く企業側が優位である力関係によると言えます。

 学生は不満があっても「電話ではなくメールで連絡してください」とは要求しづらいのが現実です。匿名のSNSで不満を漏らすことさえ、個人の特定を恐れるでしょう。また応募している学生は多様な大学に在籍しており、採用と不採用に分かれていく集団であるため、みんなでまとまって改善を要求することも容易ではありません。

学生にとって記録は重要

 しかし採用担当者が極力記録に残らない方法で連絡を取ってきても、皆さんにとっては記録は重要です。特に内定の連絡を受け取った場合は、あとから取り消されないよう、しっかり証拠を残しておきたいものです。

 実際に聞いた話ではこんなトラブルがあります。内定の連絡を受けたあと、他の選考結果が出るまで意思決定を待ってもらえるようお願いし、採用担当者も了承してくれていたのに、「もう待てないから」と一方的に取り消しの連絡が来た、というものです。

 このように一方的に内定取り消しをされては、たまったものではありません。

 そのため、採用選考のステップはできるだけ記録にとっておきたいものです。メールは保存しておき、マイページはスクリーンショットやプリントアウトなどで記録に残しておきます。面接や電話連絡については、いつ・誰が・何を伝えたかを、こまめにメモしておくとよいでしょう。内定者懇談会の連絡などの記録も残しておけば、内定が出ていることの証拠になります。

身を守るための録音は違法ではない

 では電話の録音や面接の会話の録音はどうでしょう。そのような行為は違法でしょうか。

 職場におけるパワハラや退職強要などの音声がニュースや特集番組で流される場面を見たことがある人も多いでしょう。他方で皆さんは、バイト先に有名人が来てもSNSでつぶやいてはダメ、職場の様子を写真にとって拡散してもダメ、会社の文書は守秘義務があるので外に見せてはダメ、などと言われてきているでしょう。

 ならば録音もNGなのでしょうか。労働問題に詳しい弁護士の方々の見解では、身を守るための録音は問題ありません(録音した内容を安易に拡散すると問題になりえます)。記録が残らないためにあえて口頭という手段が取られており、一方的な内定取り消しのリスクもあるのなら、それに対抗して自衛のために録音することは認められているのです。

 社内での録音は解雇理由にあたらないという判断が先日、東京地裁で出ています(毎日新聞電子版2016年4月11日「命令違反 録音で解雇は無効、女性勝訴 東京地裁」)。録音を自己防衛の手段として認める判断が示されたものです。

 佐々木亮弁護士がこの判決に触れながら、録音の是非について詳しい解説記事を以下の通り書いていますので、参考にしてください。
●佐々木亮「上司との交渉や職場での会話の録音~バレたら解雇?」

本来は採用選考の透明性を高めていくことが重要

 もっとも、採用担当者が記録に残らない伝達方法にこだわり、学生がそれに対抗するために録音する、というのは残念な状況です。本来であれば採用選考の結果は、連絡の期限も明示した上で、「言った/言わない」のトラブルにならない形で伝達されるべきであり、学生に多大な心理的負担を強いる非通知の電話による連絡のような手段を取るべきではありません。

 ただし、こうした問題もまずは実態が表面化し、当事者や関係者が声をあげていかなければ変わらないのも現実です。そして就職活動は、学生が毎年混乱に苦しむにも関わらず、当事者である学生が毎年入れ替わっていくために、なかなか状況が改善されていかないという問題を抱えているのです。

法律監修:嶋﨑量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

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