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原発の「廃炉」、
安全な処分に20~30年

原発の「廃炉」、安全な処分に20~30年
廃炉が決まった愛媛・伊方原発1号機(左)

 愛媛県にある伊方原子力発電所1号機の廃炉が決まりました。事故でもないのに、なぜ解体しなければならないのでしょうか? イチ子お姉さんにからすけが質問しています。

 イチ子お姉さん 四国の愛媛県(えひめけん)にある原子力発電所の1つの廃炉(はいろ)が決まったわ。放射線の影響(えいきょう)があるから、古くなった原発を片付けるのは簡単ではないの。

 からすけ 誰(だれ)が何のために、廃炉を決めたのかな。廃炉ってどんなことをするんだろう。ボクたちにも関係のある話なのかなあ。

安全な処分に20~30年

 イチ子 「原発を廃炉にする」って何だかわかる?

 からすけ ううん。廃炉って初めて聞く言葉だよ。

 イチ子 古くなった原子力発電所の運転をやめて安全に処分することよ。原発を解体して更地(さらち)に戻すの。

 からすけ 原発ってすぐに壊(こわ)せるの?

 イチ子 いいえ、原発には放射性物質があるから簡単じゃないの。原発の原子炉(げんしろ)で燃やした使用済み核(かく)燃料(ねんりょう)を取り出して、さらに配管などに付いた放射性物質を取り除く「除染」という作業が必要よ。作業員が被曝(ひばく)したり放射能が外に漏(も)れたりしないよう慎重(しんちょう)に進めなくてはいけないの。

 からすけ 難しそうだ。

 イチ子 解体作業で出るがれきの処分も大変ね。そのままでは捨てられないからよ。放射性(ほうしゃせい)廃棄物(はいきぶつ)を少なくするため、部品やがれきを細かく仕分けするの。

 からすけ 大変そう。

 イチ子 作業のほかに、原発内の放射能が弱まるのを待つ時間も必要よ。終わるまでに20年から30年かかるといわれているわ。

 からすけ でも、なぜわざわざ廃炉にするの? 事故でも起きたの?

 イチ子 東日本大震災の時に事故を起こした東京電力福島第1原発は廃炉が決まっていて、作業がニュースになっているわね。今回決まった愛媛県の伊方原発1号機の廃炉は、事故ではなく古くなったからなの。

 からすけ どのくらい古いの?

 イチ子 運転を始めてから今年で39年になるわ。実は古い原発を廃炉にしようという考えは、福島の事故の後にできた「40年ルール」(キーワード)がきっかけなの。国の原子力規制委員会という組織が認めれば60年まで運転できるという例外はあるけれど、あくまで原則は40年と決めたの。

 からすけ 古い原発は使い続けられないの?

 イチ子 どんな機械も長く使い続けていると、壊れやすくなるでしょ。原発は放射性物質を扱(あつか)うだけに、事故が起きるのは絶対に避けなくてはならないわ。運転を始めて40年になる原発は、延長を申請(しんせい)するか廃炉にするか、どちらか決めなくてはならなくなったの。

 からすけ 原発が壊れたら人間も危険だもんね。

 イチ子 福島の事故後に原発の安全対策の基準が厳しくなったの。大地震や津波の対策を増やしたり、大事故が起きたときに被害(ひがい)を抑えるための設備が必要になったりね。40年を超えて運転を続けても、お金と時間がかかりすぎるから、原発を運営する電力会社は廃炉に踏(ふ)み切ったの。

 からすけ じゃあ廃炉が決まったら、電力会社も国民も一安心だね。

<キーワード>
 40年ルール 原発の運転期間を原則40年に限る規制のこと。東京電力福島第1原発の事故後に導入された。
 核のごみ 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物。きわめて強い放射線を出す。

1基で数百億円かかる

 イチ子 いえいえ、廃炉にもお金がかかるわ。1つの原発で数百億円必要よ。放射性廃棄物の処理も課題ね。取り出した使用済み核燃料は、再処理工場に運び込んで、再利用できる部分とできない部分に分けるの。その工場を青森県の六ケ所村に建設中なのだけれど、今年3月の完成予定が延期になったばかりよ。

 からすけ 六ケ所村って聞いたことあるなあ。

 イチ子 再利用できない部分は、人が近づくと命が危険な高いレベルの放射線が出る廃棄物で「核のごみ」(キーワード)と呼ぶのだけれど、最終処分地は決まっていないわ。ここまで危険ではないけれど、原発解体で出る、低レベルの放射性廃棄物の受け入れ先も簡単には見つからないの。

 からすけ 海外ではどうしているの?

 イチ子 フィンランドは世界で初めて、最終処分場の建設を政府が認めたの。スウェーデンも候補地は選んだわ。その他の国は道半ばと言ったところね。

 からすけ 今後、いろいろ決める必要があるのか。

 イチ子 からすけたちが大人になっても続く問題よ。技術を高めたり、廃棄物の処分にメドをつけたり、他の国と協力したり、数多くの取り組みが必要になるわ。今の子どもたちの世代にも関わる問題だから皆で考えていかないとね。

「アトム世代」技術生かせ

東京都立桜修館中等教育学校の荒川美奈子先生の話 2003年4月7日生まれの鉄腕(てつわん)アトムは、手塚治虫が漫画(まんが)を連載(れんさい)していた1950~60年代当時、夢のエネルギーと呼ばれていた原子力エネルギーで動くロボットです。アトムが十万馬力で人々を助ける姿には、21世紀への憧(あこが)れを駆(か)り立てられました。昨年、感情認識装置がついたヒト型ロボット「ペッパー」を見た時は、悲しみや喜びの涙が流せないと悩(なや)んでいたアトムの姿が目に浮かびました。
 アトムを見て育った世代の研究者たちは二足歩行で動くロボット開発に力を注ぎ、日本の技術は世界に先駆けています。子供のころの憧れや未来への希望は、技術の進歩を可能にします。原発の廃炉作業には困難が伴(ともな)いますが、危険を伴う工程など、ロボット技術を生かせる場はたくさんあります。ぜひこの分野でも世界をリードしてほしいと願います。

[日経プラスワン2016年4月9日付、日経電子版から転載]

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