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[ career-働き方 ]

わたしがカフェを開くまで(11)卒業後に就職を選ばなかった私が今、思っていること

平井幸奈 authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO
わたしがカフェを開くまで(11) 卒業後に就職を選ばなかった私が今、思っていること

 「就職するかどうか迷わなかったの?」と沢山の人に聞かれます。正直とても迷いました。実際に就活セミナーに足を運んでみたり、Facebookでいくつか企業の方からメッセージをいただいてお話を聞きに行ったこともありました。

就職するか、就職しないか

 もともと私の夢は「ビル風になびかれながらヒールの音をコツコツと響かせて歩く、丸の内OL」になることだったんです。現代的で立派なオフィスと、そこで働いている人々、キラキラとした世界を目の当たりにするとやはり気持ちは揺らぎます。母親に電話で相談すると「一度は会社に就職してそこでいろいろ学んでからでも遅くないんじゃない?」と説得されました。

 周りの社会人の方に相談しても、ほぼ全員が異口同音に一度就職するようにアドバイスをくださいました。「今の君には想像がつかないかもしれないけど、会社に入ればそこで学生ネットワークとは比にならない人脈をつくれるよ」「一度就職して社会を知ってから起業したほうが成功する」「新卒の機会を逃したら就職活動はとても大変だよ」などと真剣に説得してくださいました。

背中を押してくれた祖父母

 でも結局、大学3年生の12月から就職活動をしませんでした。私の中でForuCafeの仕事より魅力的な仕事が見つからなかったこと、そして現実的に新卒の初任給くらいならぎりぎり稼ぐことができるかな、と考えたことがその理由です。

 考えてみればアドバイスくださる方々は、起業した経験のない方々。人の意見やアドバイスはもちろん大切ですが、今ここで自分の本当の気持ちに正直に決めないと絶対に後悔するな、という直感がありました。人になんと言われようと自分をどこまで信じられるか。そして決めた答えを正解にできるかどうかは、自分次第です。そう決意して両親の説得をしました。幸い祖父は自営業で、私の気持ちを理解してくれました。「人生一度きりなんじゃけえ、幸奈さんが思うように生きればええ」。背中を押してくれた祖父母には、とても感謝をしています。

仕事をしながら「幸せだなぁ」と呟いて......

 大学を卒業して1年経った今、率直に自分で切り開くこの道を選んでよかったなと思っています。もしかすると、どこか素敵な企業に就職していたら新しい可能性が広がっていたのかもしれません。その方がビジネスマナーなどもしっかり身についたのかもしれません。名刺の渡し方は、Youtubeで検索して動画を見て練習しました。そんなビジネスマナーからプレゼンの仕方まで我流です。でも、「選んだ答えはすべて正解」。仕事を誰かから与えられることはなく、すべてゼロからつくるということに日々やり甲斐を感じています。家族のように大切な社員、アルバイト、インターンのメンバーと一歩一歩前に進むこと、仕事をしながらふと「幸せだなぁ」と呟いて隣にいる社員に笑われちゃうくらい、幸せな毎日です。

グラノーラ

店舗展開だけが飲食事業の成功ではない

 IT事業が時代を牽引する今日、飲食業は時代に逆行するビジネスです。でもだからこそ、私はリアル店舗で目の前のお客様に「美味しい」を届けられる空間を大切に大切に、育てていきたいです。そして一方で、飲食店の型にはまらない展開をしたいと考えています。飲食店の成功は「店舗展開」という固定概念があります。実際よく「次はいつお店出すの?」なんて聞かれますが、私は店舗展開だけが飲食事業の成功ではないと思っています。

 "make life delicious"これが私の会社のミッションです。食を起点にライフスタイルをトータルで彩るブランドをつくりたいと考えています。今後の夢は? と聞かれることがよくありますが、今は正直、夢なんてありません。強いて言うのであれば、しわしわのおばあさんになって、毎朝おじいさんと「今日もええ香りじゃのう」「ほんまのう~」と挽きたてのコーヒーを飲むことです(笑)。

 ただそれまでの道のりは、私なりに自分の気持ちにまっすぐ正直に生きていきたいと思っています。自分の気持ちにまっすぐ生きることがたとえリスクをとることであっても、世の中の「当たり前」とは少し離れたことであっても、心の底からワクワクすることには、自分の気持ちに正直に挑戦していきたいです。これほど気持ちのいい生き方はないと信じています。

 私にあるのは夢ではなく、その時々の具体的な目標です。2階を工房にして新しくグラノーラ(FORU GRANOLA)のブランドを展開すること。バルをつくること。新しい商品展開をすること。目の前にポンポンと生まれてくる目標に、常に全力で向かっていっています。

 飛び抜けた才能があるわけでもなく、天才でもなんでもない私でも、小さな一歩を踏み出すことできました。皆さまがこれを読んで、何か小さな一歩を踏み出すきっかけになったらとても嬉しいです。長い連載をお読みいただき、ありがとうございました。
(おわり)

連載【わたしがカフェを開くまで】
(1) 「キッチンでお願いします!」~きっかけはアルバイト
(2) 「ゆきながいてくれて助かったよ」~人生を変えたワーキングホリデー
(3) 「キッチンの広い家に引っ越そう!」~ゼロからはじめた料理教室
(4) "とぅるんっ、パリッ"のフレンチトースト作り
(5) 店名は「ForuCafe」"あなたのための"の思いを込めて
(6) 物件探しで鍛えられた忍耐力と精神力
(7) 面接される側からする側へ
(8) 内装工事のデザインに込めた思い。そして大失敗も
(9) 仕入れ業者に足元を見られて悔しい思い
(10) ついにオープン! 歯を食いしばって授業と両立