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29歳が社長に直談判
ソフトバンク自動運転の勝算

29歳が社長に直談判ソフトバンク自動運転の勝算

 ソフトバンクが自動運転技術の開発に乗り出した。4月に東大発ベンチャー、先進モビリティ(東京・目黒)に40%出資するとともに共同出資会社、SBドライブ(東京・港)を設立。2018年をめどにまずバスやトラックを使ったサービスを始める。通信事業者がなぜ自動運転なのか。SBドライブの佐治友基社長(30)は「自動運転は寸分の遅れもなく情報をやりとりできる通信技術が鍵を握る。通信事業者こそ優位に立てる」と話す。

SNSで社内の仲間を募る

――新会社は、宮内謙ソフトバンク社長に直談判して作ったそうですね。

 「ソフトバンクに入社してから8年目。以前はiPhoneの販売戦略を手がけていました。2015年5月に開かれた中長期戦略の社内プレゼン大会で自動運転のアイデアを提案し、準優勝になったのです」

 「同じ時期にグループ会社のヤフーでも自動運転の新規事業を温めていた企画担当者やソフトウエア技術者がいました。ここにいる宮田証最高執行責任者(COO)(37)、須山温人最高技術責任者(CTO)(32)です。自動運転時代にはそのインフラを支える多くのサービスが必要になります。ヤフーの技術を生かさない手はありません。社内で同じことを考えている仲間がいることが分かりました。社内SNS(交流サイト)などで一緒にやってみようと声をかけあい、グループ会社の枠を超えて合流したのです」

左から宮田証COO、佐治友基社長、須山温人CTO。佐治社長を中心に話を聞いた

 「その勢いで、宮内社長に直談判しました。当時は29歳でした。その後、経営会議で説明することになり『ソフトバンクの通信をどこに生かすのか』と追及されました。『ど真ん中です』と話し、モバイル機器の延長で、高速かつ低遅延の第5世代(5G)の通信サービスが生かせると主張しました。その結果、宮内社長がゴーサインを出したのです」

――経営会議での様子をもう少し詳しく教えてください。具体的にどう説得したのでしょうか。

 「スマートフォン(スマホ)で培ったソフトバンクの通信技術やインフラは今後、IoT(モノのインターネット化)へと広がっていきます。IoTの『T』はモノを意味しますが、家の中の機器である必要はありません。車でもいいわけです」

先進モビリティによる自動運転の実験の様子。バスの内部にセンサー情報を分析し、制御に利用するための機器が並んでいる

 「移動体通信というと今はスマホなどが中心ですが、車も移動体になり得ます。ソフトバンクはロボット、人工知能(AI)、IoTの3つを今後の重点分野に掲げています。でも、自動運転は何もやっていませんでした」

 「自動運転は情報通信そのものです。無人で街中を走り、呼んだ人の近くにまで自動で迎えに来てくれる。それを実現するには、通信なしには不可能です。将来はエンジンやブレーキのように、通信は車に不可欠な要素となるでしょう。その時、様々な問題を解決するのが、2020年ころの登場が見込まれる5G通信サービスなのです」

ヤフーと連携、車の中の娯楽サービスも

――5G回線を自動運転車に使うメリットは。安い回線ではだめなのでしょうか。

 「映画を車の中で見る程度であれば安い回線でもいいでしょう。でも車の外から運転の状態を監視する、遠隔操作するとなれば、通信が1秒間遅れただけで致命的な問題になります。その時に必要になるのが、低遅延の5Gです。通信事業者であれば、最新の技術を迅速に取り入れながら、高い品質や信頼性を担保できます。いわば、5Gを制するものが、自動運転を制するのです。人や車の状態を検知するIoTのセンサーを全国に設置するといったインフラ構築も、通信事業者が得意とする分野です」

 「ソフトバンクグループが手掛けるもう一つのメリットは、ヤフーの様々なサービスを取り入れられることです。将来、自動運転タクシーが登場したら、ユーザーが乗りたい場面や状況をリアルタイムにつかむ必要があります。出張先の駅に到着したとき、買い物を終えて店を出るとき、ホテルでチェックアウトするときなどです。そのときにヤフーのサービスが役立ちます」

佐治社長はソフトバンク社内の事業戦略アイデアのコンテストで準優勝した。その後、宮内謙社長に直談判して事業化した

 「例えば、移動するときにはまずヤフーの乗り換え案内などのアプリを使います。目的地の駅まで電車で行ったら、ホテルまでちょっと距離がある。そんなときに自動運転のタクシーを呼び出すといった具合です。ヤフーの強みを生かせば、予約や決済のサービスと連動させるなど総合サービスをつくれます」

 「車の中でユーザーに楽しんでもらうサービスも考えています。現在は電車の中で皆さんスマホを見ていますよね。車であれば、大きな画面を設置できるし音響機器も使える。大画面で動画やゲームで遊んでもらうこともできます。近くの店の広告などを表示することで、料金を無料にするタクシーも出てくるかもしれない。ビジネス向けにテレビ会議ができるようにする手もあります」

手始めに地域運行バスの支援パッケージ

――移動サービスにもいろいろな業種がありますが、どんなところから手掛ける予定ですか。

 「まずはバスです。駅や商業施設の間を行き来するシャトルバスのようなものをイメージしており、自治体などに利用してもらうことを想定しています。荷物を配送する物流のトラックも検討しています」

先進モビリティが研究で使用している実験用バス

 「自動運転車は東大発ベンチャーの先進モビリティに開発してもらい、SBドライブは通信環境を含めた自動運転のサービスをパッケージで提供することを考えています」

 「パッケージといっても、運行サービスは手掛けません。運行ノウハウは既存の運輸会社のほうが持っています。それらの会社が自動運転を導入するときに、自動運転車だけを買っても難しいのが実情です。SBドライブが運輸会社から要望を聞き取り、自動運転のサポートをします」

――先進モビリティと組んだ理由は。

 「事業を立ち上げる前、まず専門家の意見を聞こうと、東京大学生産技術研究所次世代モビリティ研究センターの須田義大教授を訪ねました。そこで同センターの技術を事業化するためにできた先進モビリティの紹介を受けたのです」

 「急速に事業を立ち上げるには大手メーカーと組むのではなく、スピード感のあるベンチャー企業と組むことは理にかなっています。先進モビリティが技術を開発し、我々が課題を解決するためのサービスを作るという役割分担で、共同出資会社を設立したのです」

 「先進モビリティは大型車両のブレーキやタイヤを安全に制御する技術に優れています。例えば、トラックで急ハンドルを切ると運転席のある車両と荷台の連結部が折れ曲がる『ジャックナイフ』と呼ばれる現象が起きます。そうした事故を防ぐための技術です」

――バスなどの運送サービスを手がけるのは先進モビリティの得意分野だからですか。

 「そういうことではありません。何でも急にできるわけではありません。まずは決まったルートで乗客を運ぶバスや、一般道と比べて自動運転の制御がしやすい高速道路を走るトラックから始めていきます。先進モビリティの青木啓二社長はトヨタ出身なので、将来は一般の乗用車も視野に入れているはずです」

ルールできてからでは遅い、ITの時間軸でまず行動

――サービス開始の時期は。

SBドライブの自動運転サービスについて説明する佐治社長

 「現在はジュネーブ条約などの法規制によって自動運転車が無人で公道を走ることができませんが、政府は前向きになっています。あくまで予測ですが、法改正で2018年ころには一部運用ができるのではないかと期待しています。その時期を目指して開発を進めます」

 「まずは限定された条件で許可されるとみています。一部専用レーンならOK、時速10キロメートル以内だったらOKといった具合です。ハンドルが付いていない車でも緊急時に遠隔で管制センターから操作できればよいといった形も考えられます。できるところからビジネスをつくっていきます」

 「ルールができてから進むのでは遅いという意識もあります。ネット業界ではまずサービスをつくって先に進むのが当たり前。成功事例が認知されて、後でルールが作られます。もちろん法令は順守し、安全性は最優先しますが、IT(情報技術)業界の時間軸でやっていきます」

 「昔、自動車が登場し始めた頃、車の前に赤い旗を持って人が歩かなければいけないルールがあったそうです。今では首をかしげてしまいますが、車の進歩に合わせてルールは変わっていきました。自動運転もまず何ができるのかを示すことが大切です」

 「それには実験を積み重ねるしかありません。4月末には北九州市と実証実験などで連携することを発表しました。2016年内に実験を始めるのが目標です」

――競合他社と比べたときの強みは。

 「日本だとディー・エヌ・エー(DeNA)、世界だとグーグルがライバルになります。DeNAは自動運転タクシーの公道実験などで先行していますが、我々はそれとは違った角度で挑戦していきます。特定区間のコミュニティーバスやトラックの物流サービスなど、今の技術で確実に提供できるサービスをつくり上げます」

 「自動運転車が登場すれば、ウーバーのように移動サービスとアプリなどを通じたネットサービスが不可分なものになります。となれば、我々が提供すべきど真ん中のサービスです。車は人が乗って移動できるデバイス(通信機器)にすぎません。通信網やビッグデータのほか、セキュリティー分野での強みを生かし、社会に求められる新たなサービスを作り上げていきます」

取材を終えて ブレーキかけるまでの空走距離、5Gなら50分の1に

 5Gを使うと、自動運転の安全性はどの程度高まるのか。参考になるデータがある。通信機器会社の中国ファーウエイによると、時速100キロメートルで走る自動車を現在の4G回線で遠隔操作するとブレーキが始動するまで1.4メートル走ってしまう。5Gならその距離を50分の1の2.8センチメートルまで短くできるという。

 遠隔操作だけではない。高速無線技術は、前の車が察知した危険を後ろの車に通知する車同士の通信や道路脇のカメラがつかんだ歩行者の情報を走る車に伝える通信にも使われる見込みだ。自動運転の安全性は無線通信技術の基本性能と使い方に大きく左右される。

 こうした将来像をにらみ、世界の通信関連大手が自動運転技術の開発に名乗りを上げている。国内ではNTTドコモやデンソー、海外ではフィンランドのノキアが研究を進めている。今後は通信各社の間で自動運転向けの通信規格競争なども活発になりそうだ。

(聞き手はコンテンツ編集部 松元英樹)

[日経電子版2016年5月18日付]

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