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マジシャン大学生(1)マジックで快感・嬉しさが
わき上がった瞬間

森屋志政 authored by 森屋志政早稲田大学大学院
マジシャン大学生(1) マジックで快感・嬉しさがわき上がった瞬間

マジックと共に歩んだ12年間

 みなさん、こんにちは。早稲田大学大学院の森屋志政と申します。私は現在24歳で、来春から経営戦略コンサルタントとして働き始めます。私はこれまでの人生の半分の時間をある芸事に費やしてきました。それはマジックです。中学校1年生の頃に、全くの0から独学でマジックを学び始め、その魅力に取り付かれ、気がつけば12年も続けていました。

 12年の間に国内大会優勝を皮切りに、マジックのアジア大会日本代表を経験し、更にはアメリカ・ニューヨークで開かれるマジックの舞台にゲストとして招待を受けました。そして、2015年、2016年の2年連続で出演し、スタンディングオベーションを受けるまでになりました。直近では、本年度5月末に台湾で開催されたマジックの国際コンベンションの1つ、TMA(Taiwan Magic development Association)でチャンピオンに輝きました。

 今回この場を借りてお伝えしたいのは、マジックという芸事を通じて1人の人間が何を体験し、想い、生きて来たのか、です。なぜそんなに1つの物事を突き詰めることができたのか、様々な挫折を経験しながらもどうして折れなかったのかといった内容を話したいと思います。

 日本から世界へ挑戦したいという野心を持った方、何か1つの物事をずっと続けている方、純粋に変わった人の話を聞いてみたいと言う方が、この連載を読み、何かしらの"拾い物"をしてくれたなら執筆者としてこれほど嬉しい事はありません。

すべては引き出しに眠っていたトランプから

 とあるデパート地下のおもちゃ売り場。その一角になにやら怪しげな空間がありました。白いシャツに黒いベストを身につけた販売員が金属の輪を繋げては外し、また繋げては外しを繰り返していました。輪に切れ目はなく、当然繋がったり外れたりするはずがないのですが、いとも簡単にその人はやってみせていました。

 あっけに取られている小学生の私に、その人はトランプマジックを見せました。ミッキーマウスの絵柄が書かれたジョーカーを示し、裏向きにしてテーブルに置いて、「指でおさえて」と言いました。言われるままに指でおさえたあとに合図とともにひっくり返すと、ジョーカーがスペードのAに変化していました。明らかに目の前であり得ない事が展開されたことに驚くと同時に、興味を持ったかつての私は手品道具を親にねだって買ってもらい遊んでいました。

マジックと再会し、本格的にマジックをスタート

 しかし、父親の仕事の関係で転勤が多かったこともあり、あるとき引っ越しの際にマジック道具を処分してしまいました。まだ当時はお楽しみ会で披露するためのレクリエーション道具としか考えていなかったからです。

 それから歳月は過ぎ、中学受験を終えて1人部屋でボーッとテレビを見ていた時でした。たまたまテレビでマジック番組が放映されていて懐かしくなって見ていました。背の高い、すらっとした色白のマジシャンがスーツを着て、トランプ1組を片手に芸能人5人に対してマジックを披露していました。しかも約2時間。この時にみたマジシャンこそ、前田知洋さんという海外を中心に大活躍されたプロフェッショナル・クロースアップマジシャン(至近距離で魅せるマジック)でした。私は前田さんが繰り広げるカードマジックに釘付けになっていました。幼少期に見た、あのカードマジックを見たときの衝撃と同じような感覚に陥っていたのです。

 そのあまりの不思議さに、一体どうなっているんだろう、という好奇心がふつふつとわき上がってきました。しかし、インターネットで検索をしようにも調べ方が分からないし、今のようにYouTubeも流行ってなかったので、いっこうに情報を手に入れることができませんでした。

 それでも気になって仕方がなかった私は、中学受験のお祝いでもらった沢山の図書カードを握りしめて大きな書店に向かい、『できる!おどろく!トランプ手品』という本と『カードマジック事典』という重厚なハードカバーの本を購入したのです。そして家の引き出しを漁り、スヌーピーの柄をしたプラスチックトランプを握りしめて本を読み進めていきました。

親や友人にマジックを披露した時の感覚が病み付きに

 ところが、読み進めてもよく理解できませんでした。なぜなら、専門用語のオンパレードで何がなんだかサッパリ分からない上に、写真ではなくて手書きのイラストしかなく、具体的な動作イメージがつかめなかったからです。そのため、自分なりに想像しながら鏡の前でこうかな? こんな感じかな? と試行錯誤しながら練習しました。

 それっぽくできるようになった段階で、親や親戚の前で披露してみました。すると、普段は落ち着いた性格をしている親が、マジックを見た瞬間、目を丸くして驚きの表情を浮かべるのです。この瞬間、今まで味わった事のないような嬉しさ・快感がわき上がって来て、「コレだ!」と直感で思ったことを覚えています。

 一人っ子で小さい頃から塾や習い事に通い、勉強の時は父親が横に座って指導するというスパルタ教育を受け、何度も転勤を繰り返していくうちに内向的になり、特にこれといった特技も夢中になるものもありませんでした。そんな私が、初めて心の底から面白い・楽しい! と感じるものと出会った瞬間だったのです。

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